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2019年9月27日

千葉県立木更津高等学校の皆さんが来所し、土壌調査体験をされました

木更津市をはじめ、この度の台風15号で被害を受けられた皆さまには心からお見舞い申し上げます。1日も早い復旧を心より願っております。

令和元年8月2日(金)、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校である千葉県立木更津高等学校の皆さんが来所し、生物環境調節実験施設の見学と土壌調査体験をされました。土壌調査体験は地域環境研究センターの村田智吉主任研究員(土壌環境研究室)が講師を務めましたので、見学とその準備の様子をご報告します。

(写真中央)つくばの土壌の特徴を説明中の村田智吉主任研究員

まず今回、広報室から見学依頼を受けた村田主任研究員は次のように考えたそうです。木更津とつくばの土壌は似ているので、研究所内に穴を掘り実際の地層を見てもらうと面白いのではないか。また、話を聞くだけでなくフィールド調査を体験してみてほしい、ということで今回の見学は「土壌調査体験」という体験型の講義になりました。

さて、ここつくばや木更津の土壌は関東ローム層といって、とても簡単にいうとこの辺りが海だった時代から十数万年もかけて富士山や箱根山などの火山灰が降り積もってできています。土質は粘土質で、3mほど掘ると湖だった時代の白い層(常総粘土層)が出現するそうです。そのため、今回の見学では白い層を見ていただくべく、約1.5㎡×深さ2mの穴を掘ることにしました。2m以下は検土杖やルートオーガという調査道具(いずれも長さ1mほど)を用いて実際に当日掘ってもらうことを考えました。

掘削場所はなるべく自然の植生が残されていて、工事などで深く人の手が入っていない所が希望です。候補地はこちらのワラビなどが生い茂った所内のとある場所。年に2回草刈りもされ適度に管理されています。見学の時間帯はちょうど日陰にもなり熱中症予防の点からも最適です。

掘削候補地

しかし、この場所は学園都市の開発前からの里地の自然が残っていて、研究所が定める「植生保全優先区域」になっています。ここでは植生に影響があるような事業はなるべく避けることになっているため、所内の研究所の環境管理委員会に属する緑地等管理小委員会に相談し、原状復帰を条件に掘削の了解を得ました。その際に、生物多様性に配慮した所内の植生管理に長年にわたって関わってこられた竹中さん(元生物・生態系環境研究センター)にお話を伺ったのですが、この場所にはワラビやササのほか、ワレモコウ、アマドコロ、コバギボウシ、ツリガネニンジンなど里地・里山で見られる植物が多く分布しているそうです。草刈りの時期も里山の植物が育ちやすいように考えられていました。当初は機械での掘削予定でしたが、大事な管理地ということもあり手掘りすることにしました。このご縁で竹中さんには恐れ多くも掘削をお手伝いいただくことになったのですが、実際はお手伝いの域を軽く超えていました。

そして迎えた掘削1日目(2019年7月30日)、こちらが草刈り後の掘削直前の様子です。

草刈り後の掘削直前の様子

はじめに、埋め戻した時に元に戻せるように、ブルーシートに植生部分をわけておきます。

ブルーシートの上の植生部分の写真

作業開始から2時間ほど経った、作業中の村田主任研究員(左)と竹中さん(右)です。植生部分からこのあたりにかけての層は、かなり根が張っていて一番大変だった作業です。

穴を掘る村田主任研究員と竹中さん

階段状に足場を作り、どんどん掘り進めます。足場作りが大事、と竹中さん。

階段状に足場を作る作業

3時間後、1日目の作業終了。この日は気温33℃と猛暑日だったため、深さ1mのところで終わりにしました。

1mほど掘った穴

掘削2日目(2019年7月31日)、この日も34℃と暑い中、掘削作業が着々と進められます。交代しながら順調に掘り進み、検土杖(けんどじょう)を使ってさらに深いところの土を採取して白い層があるかどうかを調査します。

検土杖を刺す村田主任研究員

検土杖の先端に明るい茶色の地層があるのがわかりますが、白い地層には至りません。まだまだ掘ります。

検土杖の先に明るい茶色の土が詰まっている状態

とうとう長身の竹中さんが埋まってしまう深さに到達です。この辺りになると、掘った土は狭い穴の中から一旦バケツに入れて地上に持ちあげるので、体力的にも厳しくなってきます。

穴の中にすっぽり収まっている竹中さん

この辺りから検土杖で採取した土質は水を多く含みだし、その水の影響でできた鉄やマンガンの丸い粒状成分(*斑紋:はんもん)も見られました。何か変化があると掘削作業のモチベーションに繋がります。

検土杖の先に丸い粒状成分が見える

*斑紋:主に鉄やマンガンでできる赤茶や黒色の濃縮成分。梅雨の雨がこの層位(2.5m~3m辺り)に季節的な地下水をもたらし、この現象を引き起こしている。

2mに到達しましたが、ここから検土杖で調べても白い層は現れませんでした。大変残念ですが今回は白い層は断念することにして、あとは表面を削って地層を見やすく整えます。

深さ2mに達した穴

表面を整えると層が分かれているのがはっきり見えるようになりました。表層の黒い部分が有機物の多いところ(炭素が大量に集積している)。茶色の層に舌のような形でかかる黒い箇所は木の根があった跡だそうです。このあたりは明治初期の地図でもマツ林となっています。筑波台地全体があまり農地には向かないので、少なくとも数百年前からアカマツの林、クヌギなど落葉広葉樹の林、低木の原野などがあって、人が定期的に木を切って薪にしたり、藪を刈って低地の水田に肥料として入れたりしていたようです。古い木の根の跡は、そんな時代の名残かもしれません。

地層を見やすいように表面を整えた穴

それぞれの層を別々の写真で見ると色の違いがはっきりわかります。つくばのあたりでは,この黒い層と茶色(ないし黄土色)の層の境界付近がおおよそ完新世と更新世の境界(最終氷期が終わる約1.2万年前くらい)と考えられています。

上層部の黒い地層

中層部の茶色い地層

そうして迎えた見学当日(2019年8月2日)。この日も気温34℃と猛暑の中、木更津高校の皆さんがいらっしゃいました。

見学場所に歩いてくる木更津高校のみなさん

開口一番こんな深い穴は見たことがないと驚いている生徒さんへ、まず村田主任研究員が木更津とつくばの地層は似ていること、その土は何からできているか、土ができるまでの時間や生物はどこにどのくらい潜んでいるかなどを説明します。

説明をする村田主任研究員

生徒さんも実際に穴の中に入って調査を体験します。土の表面を削って土の感触を確かめ、色や土質の違いをみます。ここは何万年前の層でしょうか。

生徒さんが穴の中で土の表面を削っているところ

土の温度も測りました。表層と深層でだいぶ違います。穴の底は約16℃です。季節が変わっても土壌深くは温度が一定のため、夏は涼しく、冬は暖かく感じられます。

生徒さんが穴の中で温度を測っているところ

さらに、検土杖やルートオーガを使いもっと深いところの土を採取します。

穴の中で検土杖を挿している生徒さん

採取した土を調べます。

検土杖で採取した土を調べています。

このように木更津高校の皆さんには実際に土壌調査を体験していただきました。もともと鉱物に興味があるという生徒さんがかなり深い質問をされていたのが印象的でした。SSH指定校の皆さんなので、さらに科学や環境に対する興味の幅が広がっていたら嬉しく思います。また是非いらしてください。

お帰りになる木更津高校のみなさん

さて、後日談です。村田主任研究員がサンプル採取をしたら穴が広がってきたため、試しにもう少し深く掘ってみたそうです。土質は水を含んでドロドロになってきました。

水をたくさん含んだドロドロの土を採取した検土杖

さらに深く検土杖を挿してみると…。なんと!出てきました、白い層!お分かりになるでしょうか。

検土杖の先に白い層が採取できた様子

白いところを抜き出して比べてみます。かなり白いですね。この部分が十数万年前の湖だったところです。木更津高校の皆さんに実際に見ていただけなかったのが残念ですが、後日広報室から写真をお送りしました。

白い部分を抜き取って他の地層と対比させている様子

そして、とうとう埋め戻し作業の日になりました。埋めてしまうのは残念ですが、掘り出した土を元の層の順番で戻します。

穴に土を戻す村田主任研究員

仕上がりが平らになるように途中踏み固めながら戻します。

穴の中ほどまで埋め戻した様子

最後に植生部分を敷いて、原状復帰です。あとはまわりの植物が伸びてきたり、土の中に残っている地下茎などから復活したりして、地面をおおう植物が再生するのを待ちます。

全ての土を埋め戻し、植生部分を被せた状態

今回の見学を通して、一部分ではありますが土壌研究の現場を垣間見ていただくことはできたでしょうか。研究者はこのような地道な調査や実験を元に研究を進めています。少しでも土壌や研究に興味を持つきっかけになりましたら嬉しく思います。最後に、穴の底から見た地上の写真(村田主任研究員撮影)で締めくくりたいと思います。

穴の中から地上を見上げて撮影された写真

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