ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2016年5月20日

水環境研究の最前線(1):水を研ぎ、究める
アオコの新たな真犯人は?ー霞ヶ浦

茨城県南部西部の重要な水道水源でもある霞ヶ浦。2011年の夏、植物プランクトン(藍藻類)の異常増殖が発生した。いわゆる「アオコ」である。湖面は青緑色のペンキを流したようにドロドロになり、腐敗したアオコは強烈な臭気を放った。近隣住民からの苦情も多く寄せられ、アオコ回収船が20年ぶりに出動する事態に。霞ヶ浦のアオコは、長年頭を悩ませてきた環境問題であり、上流からの有機物や栄養塩類の負荷の削減努力をしてきたが、今回また、どうしてこのようなことが急に起きたのだろうか。

茨城県つくば市に位置する国立環境研究所にとって、霞ヶ浦は最も身近な研究フィールドである。1976年以来、毎月湖内10地点で水質や生物を調査している。約40年の長きにわたり蓄積されたデータを解析すると、湖における長期的な水質の変動と、その因果関係を推測することができる。

霞ヶ浦では、2007年に藍藻類が急激に増加して、一旦08年に減少した。そして09年頃から再び増加して暫く継続し、11年にはアオコを形成するまでに至ったようである。つまり、藍藻類は数年前から徐々に増加して、11年に遂にある臨界点を超えてアオコが発生したことになる。この間の藍藻類の推移と似通った水質項目がないかと確かめてみると、09年頃から湖水中のアンモニア性窒素が、夏季を中心に濃度が急増していることが分かった。

なぜアンモニア性窒素濃度が急に上昇したのか?調べていくと湖水中でも特に湖底の濃度上昇が顕著だった。実は、霞ヶ浦では湖水モニタリングに加えて、底泥の環境も併せてモニタリングしている。その結果、底泥の間隙(かんげき)水中のアンモニア性窒素濃度も07年夏季を境に上昇しており、湖水への溶出量も急上昇していることが分かった。さらに07年8月を境に底泥に棲息する微生物群集の種類がタンパク質分解能力の高い群集に変化したことも判明した。急激に増加した微生物が水温上昇に伴い活性化して泥中のタンパク質を分解し、アンモニア性窒素の濃度上昇を加速化させたと考えられた。

では、泥中のタンパク質はどこから来たかという謎だが、霞ヶ浦では、藍藻類が増加する前の05~06年に珪藻類が大発生しており、それらが枯死して湖底に大量に堆積し、どうやら珪藻類の体内のタンパク質が分解され、これがアオコ発生の引き金になった可能性が高い。

だんだん因果関係が見えてきたが、人間に例えると、長年の不摂生が祟って生活習慣病になり、単に食事制限ではすまされない段階まで進行している状況かもしれない(霞ヶ浦は被害者だが)。将来の県民に安全でおいしい水を供給できるよう、霞ヶ浦の治療法を発見するための研究は続く。

霞ヶ浦で活動中の国立環境研究所の調査船

国立環境研究所理事・石飛博之

Water & Life No.598 2016年1月号から転載

関連情報のリンク

水環境研究の最前線:水を研ぎ、究める(Water & Life 2016年)