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2014年12月19日

マレーシア及びアジア全域での低炭素社会実行計画づくりとその実践

マレーシア工科大学(UTM)との共催イベント(12月11日)

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 本サイドイベントでは、特にマレーシアのイスカンダル、プトラジャヤに焦点を当て、アジア太平洋統合評価モデル(AIM)を用いた低炭素社会実行計画づくり、及び、それらの実践に関する最新の研究活動の成果を紹介しました。

 冒頭、日本とマレーシアの代表者からの歓迎の挨拶がありました。日本側からは堀江正弘大使が、COP20においては、来年のCOP21での2020年以降すべての国が参加する新しい法的枠組みの合意に向けたドラフトテキストに関する交渉が行われているが、日本はすべての国が温暖化対策に取り組んでいけるよう、140以上の国々に対し、1400 プロジェクト以上の緩和策、適応策、森林管理対策を行ってきたことについて述べました。堀江大使は、そのうちの一つが本サイドイベントで紹介する地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「アジア地域の低炭素社会シナリオの開発」であり、本研究プロジェクトのユニークな点は、大学や研究機関が現地の地方政府機関ともパートナーシップを築き、都市の環境対策に関する課題に取り組んでいることであることを報告しました。また、堀江大使は、国立環境研究所は、アジア8か国を対象に、現地の研究機関、政府機関と協働で低炭素シナリオ、及びその実現に向けたブループリントを策定しているが、ブループリントの実現には多様な困難が伴うことについて触れる一方、科学的知見をもとに策定したブループリントが絵に描いた餅に終わらないために、国立環境研究所は現地の利害関係者と対話を進めながら行動計画を策定し、その協力者のうちの二人が、本サイドイベントで登壇するマレーシア政府エネルギー・環境技術・水省(KeTTHA)のY. Bhg. Datuk Loo Took Gee氏、及びプトラジャヤのDato, Dato’ Omairi 氏であることを紹介しました。最後に堀江大使は、本プロジェクトが低炭素都市の構築に向けたベストプラクティスとなり、本プロジェクトを通じて得られた知見や経験が世界各国の低炭素社会構築にも寄与することを期待していることについて述べました。

 マレーシア側からは、マレーシア工科大学(UTM)の国際室専務理事のNordin Bin Yahaya氏が、マレーシア政府も気候変動対策に力を入れていることについて述べました。マレーシアは 2020 年までに GDP 当たりの二酸化炭素排出量を対2005 年比で40%削減すると表明しており、UTMでは、マレーシア政府の目標に沿い、経済成長と温室効果ガス(GHG)排出量のデカップリングを推進するために、第1に、国立環境研究所や京都大学、岡山大学等との共同研究を通じ、イスカンダルに焦点を当てた研究活動を行い、研究を通じて得た知見やノウハウをプトラジャヤやサイバジャヤの低炭素開発実行計画の策定に汎用していることについて紹介しました。

 開会の挨拶の後、KeTTHAのY. Bhg. Datuk Loo Took Gee氏が本サイドイベントの開会の挨拶とキーノートスピーチを行いました。Datuk Loo Took Gee氏は、2020 年までに GDP 当たりの二酸化炭素排出量を対2005 年比で40%削減するために、例えば、マレーシアで再生可能エネルギーの普及に向けた国家価格買い取り制度を実施したり、エネルギー効率や再生可能エネルギーに関するベンチマークを設けると共に、政府機関の建築物のエネルギー効率を改善していくための取組み、ESCO事業による省エネルギー対策を推進していることを紹介しました。また、イスカンダル開発特区のグリーン化はマレーシアの気候変動・環境技術政策の実施にかかる先進事例のうちのひとつであり、マレーシアは、これまでに二酸化炭素原単位を33%削減したことを強調しました。

 UTMのHo Chin Siong教授は、SATREPSプログラムのもとで策定したイスカンダル開発特区の2025年低炭素社会ブループリントの概要をはじめとするこれまでの研究活動の成果を紹介したことに加え、今年度の研究活動の成果として、「イスカンダルのエコライフチャレンジ」や、イスカンダル開発特区内の5つの市レベルの低炭素社会(LCS)シナリオを紹介しました。さらに、イスカンダルの低炭素社会に向けた取組みを世界各国に普及していくために、「国連の万人のための持続可能なエネルギー(Sustainable Energy for All)」イニシアティブや、持続可能な開発のための教育に関する拠点化プログラムにおける取組みにも積極的に携わっていることを報告しました。最後にSiong教授は、科学的知見を取り入れたイスカンダルの2025年低炭素ブループリントの実施に向けて、第1に、グットプラクティスを参考に地域の特性を考慮した行動に取り掛かると共に、その進捗をモニタリングしていく必要があることを強調しました。第2に、定量的なベースライン研究とコンセンサスビルディングを組み合わせた低炭素ブループリント計画の策定は、各都市が、包括的で気候変動に対して強靭な低炭素社会の枠組みを構築する際の客観的決断を下す際に寄与することを述べました。第3に、メディアの積極的な活用が多様な利害関係者の参加を促すこと、第4に、各研究者も国内間、及び国際ネットワークに参加し、多様な機関と協働を行い、能力向上を行っていくことの必要性について発信しました。

 プトラジャヤの都市計画の副部長を務めるDato’ Omairi Bin Hashim氏は、AIMを用いて策定した「Putrajaya Green City 2025」をもとに、「プトラジャヤ・グリーンシティイニシアティブ」を策定し、実施していることを発表しました。本発表では、プトラジャヤが、特に力を入れている取組として、第1に、自転車利用の推進、及びその推進に向けた道路整備を行うBikeable City計画を紹介しました。第2に、建築物の節電促進プログラムの効果的な実施に向けて、AIMや東京都の地球温暖化対策報告書制度を参考にしながら、エネルギー消費量の算定・報告書制度を導入し、プログラム実施の進捗をモニタリングしていくためのメカニズムを構築中であることを紹介しました。

 東京都環境局の西田裕子氏は、東京都の低炭素イニシアティブを発表しました。また、プトラジャヤやイスカンダルが東京都の地球温暖化報告書制度を通じて得たノウハウを参考にしようとしていることを踏まえ、建築物の地球温暖化対策報告書制度を導入していく際のポイントとして、プログラムの範囲、報告書の内容、キャパシティビルディング、誰がどうやって報告書を確認していくか、報告書の公表に関する取り決めが挙げられることを共有しました。

 国立環境研究所の藤野純一主任研究員は、AIMを用いた低炭素社会構築のためのシミュレーションモデルの結果がプトラジャヤにおいてグリーンシティ推進のためのプログラム実施機関の立ち上げにつながり、研究者と行政官が低炭素社会構築のための協働を行うきっかけとなった先進事例であることを報告しました。

 パネルディスカッションでは、会場からの質問をもとに、国や地方の政策決定者が低炭素開発計画を実施していくために、どのように多様な課題を克服しているのかについて議論が行われました。