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2015年12月12日

パリ協定、採択!その内容とは?

 2015年12月12日は、地球温暖化対策の歴史的な転換点のひとつとなりました。2020年以降、すべての国が協調して温暖化問題に取り組むための仕組みを示した新しい国際条約、パリ協定(the Paris Agreement)が採択されたのです。

 「異議なしと認めます。パリ協定が採択されたことを宣言します」。

 19時29分、ファビウスCOP21議長はこう言って、パリ協定採択の木槌を下ろしました(写真1)。その後、壇上のファビウスCOP21議長、潘国連事務総長、オランド大統領、フィゲレス気候変動枠組条約事務局長、テュビアナCOP21特別代表らは、握手したり、ハグしたり、揃ってガッツポーズをとったりして、採択を喜び、互いをたたえ合いました(写真2)。そんな彼らに、会議参加者はスタンディングオベーションを送り、会場は、しばらくの間、拍手と歓声に包まれました(写真3)。

写真1

写真1:木槌を打つ瞬間のファビウスCOP21議長。この時は、COP21のロゴマークがデザインされた木槌が使われていました。(写真提供:(公財)地球環境戦略研究機関 田村堅太郎氏)
写真2

写真2:採択を喜ぶファビウス議長ら。左から、テュビアナCOP21特別代表、フィゲレス気候変動枠組条約事務局長、ファビウスCOP21議長。(写真提供:(公財)地球環境戦略研究機関 田村堅太郎氏)
写真3

写真3:採択直後、拍手と歓声に包まれた会場。多くの人が写真を撮っています。(写真提供:(公財)地球環境戦略研究機関 田村堅太郎氏)

 10日晩から12日にかけて、振り返ってみましょう。

 10日晩のパリ委員会の会合で、ファビウスCOP21議長は、この会合終了後に開催する徹夜での協議(オブザーバーには非公開)を経て、翌日(11日)に合意文書の最終版を公表すると言っていました。

 11日は、予定されていた、COP21最終日。この日の朝、COP21議長国(フランス)のウェブサイトにアクセスしてみたところ、トップページに、ファビウス議長からのメッセージとして、「明日(12日)午前9時に合意草案の改訂版を公表する」と出てきました(写真4)。これで、11日中には、パリ委員会が開催されず、したがって、COP21が予定通りには終わらないことがわかりました。

写真4

写真4:11日のCOP21議長国のウェブサイト(英語版)に出ていた合意文書草案に関するお知らせ(アクセス日:2015年12月11日)

 12日の朝。10時半から、プルガルビダルCOP20議長(ペルー)(ファビウスCOP21議長から、オブザーバー特別使節に任命されています)とフィゲレス気候変動枠組条約事務局長による、オブザーバーへの状況説明の会合が予定されていました。ところが、会場に行ってみると、会合がキャンセルに。キャンセルになった理由は何だろう、もうすぐパリ委員会を開催できそうだからなのか、それとも、交渉が難航していて、それどころではないからなのか。朝9時に合意文書草案の改訂版が出るって言っていたけど、まだ出ないね、などと周りの人たちと話していました。

 12日午前11時51分。オランド大統領と潘国連事務総長も出席して、パリ委員会が開催されました。

 ファビウスCOP21議長は、これから配布する予定の合意文書草案の改訂版の説明を始めました。これは、気候変動枠組条約締約国195か国で作り上げてきた合意文書草案であり、各国が合意に盛り込むことを主張した点は、すべて盛り込んである、と言いたかったのだと思います。ファビウス議長は、「今、合意するこの機会を逃すべきではない。今、この機会を逃してしまったら、気候システムを守る機会も永遠に失われてしまう。それだけではない。国際社会の多国間主義に対する信頼性も失われてしまう。誰もがこの重大性を認識すべきである。」と述べました。さらに、「私たちは、2020年以降の国際枠組みについて議論することに南アフリカのダーバンで合意した。その南アフリカの、ネルソン・マンデラ元大統領は、こう言った、『何事も成功するまでは不可能に思えるものである』(筆者注:COP17の開会会合で、フィゲレス事務局長がこの言葉を引用しました。筆者の記事「COP17/CMP7、始まる」及び「『何事も成功するまでは不可能に思えるものである』」と。これに私は付け加えたい。誰もが一人で成功を作りあげることはできない。成功とは、集団で作りあげるものである、と。」と述べて、これから公表する合意文書草案に合意するよう、各国に対して促しました。

 潘国連事務総長は、「合意文書草案の改訂版は、低炭素かつ温暖化影響に対してレジリエント(筆者注:「しなやかに対応できる」の意)な未来を作り上げていくためのものである。世界中が我々を見ている。世界の連帯を見せよう。温暖化の解決策は、既にテーブルの上にそろっている。私たちはこれをとることができるのだ」と述べて、合意を促しました。

 オランド大統領は、「ひとつだけ考えて欲しい、私たちは合意を必要としているのではないか。この合意は、世界で初めての、すべての国による温暖化対策を進めていくためのものである」、「どうか長期のことを考えてもらいたい。世界に対して、温暖化対策に真摯に取り組んでいくというシグナルを今送ることが重要だ」、「2015年12月12日が歴史的な日になりうるところまできている。あなた方は、その機会を目の前にしている。あなた方はそれを逃すべきではない」と演説し、合意を促しました。

写真5

写真5:パリ委員会での演説を終えたファビウスCOP21議長

 ファビウスCOP21議長も、潘国連事務総長も、オランド大統領も、非常に迫力ある演説を繰り広げました。それぞれの演説が終わるたび、会議参加者は大きな拍手を送り、彼らを応援しました。

 ファビウス議長は、「現在、合意文書草案の改訂版は、国連公用語(中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語)に訳されているところである。英語版を13時半に公表する。その後、各国が検討するための時間を少しとり、15時45分にパリ委員会を再開することとしたい」として、パリ委員会会合を中断しました。

 合意文書草案(FCCC/CP/2015/L.9)は13時半頃に公表されましたが、パリ委員会が再開されたのは、予定より3時間半ほど遅れた、19時16分のことでした。パリ委員会では、リーガルチェックに関するグループからの報告と、主に編集上の修正に関する条約事務局からの報告を聴取し、それらの修正が反映された、合意文書草案のさらなる改訂版(FCCC/CP/2015/L.9/Rev.1)が示されました。特段の異議なく採択され、この文書がCOP21に送られました。その後、冒頭に記した通り、COP21閉会会合において、パリ協定及びそれに付随するCOP21決定が特段の異議なく採択されました。

 1日の記事で紹介した通り、COP21の論点は以下の通りでした。

1) 今後、産業革命以降の平均気温上昇を何℃までに抑える世界を目指すか(長期目標)

— 2℃目標の維持?1.5℃?それとも、他の文言?

2) 1)の長期目標の達成に向けて、世界全体で温暖化対策を実効性あるかたちで・効率よく進めるためにはどうしたらよいか

3) 各国間の差異化をどの場面で/どのようにはかるか

4) 途上国の温暖化対策支援(資金、技術開発・移転、キャパシティ・ビルディング)をどのように制度設計するか



 COP21の成果は、以下の通りです(図1)。

図1

図1:COP21で合意された内容(パリ協定+COP21決定)(出典:筆者作成)

 温暖化に関する国際制度の研究をしている者として、パリ協定採択の瞬間に会場にいられたことは、感慨深かったです。今回、私にとっては、14回目のCOP参加でした。COPをほぼ最後まで会場で見たのは、COP13/CMP3(バリ島(インドネシア)、2007年)以来です。その時には、(先進国と同じというわけではないけれども)途上国の温暖化対策も制度に盛り込むという文言が入ったのが「画期的」と言われました。たった8年前のことですが、隔世の感があります。

 パリ協定自体は、発効要件(どのような条件を満たせば、国際条約として効力を持つようになるか)(21条。55か国及び世界の排出量の55%を超える国の批准)の規定もありますので、国際条約で、法的拘束力があります。しかし、京都議定書とは異なり、各国の排出削減目標には法的拘束力はありません。ここでは詳細は省きますが、各国の事情に配慮して、このようなかたちがとられています。

 削減目標に法的拘束力がないから、「パリ協定には意味がない」とする評価も耳にしますが、私は違った見方をしています。パリ協定で重要なことは、まず、国際条約の中で、長期目標を設定したことです。パリ協定の中では、産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑えることとされ(1.5℃未満目標にも言及されています)、そのために、今世紀後半に、人為起源の温室効果ガスの排出を正味ゼロにする、つまり、人間活動からの温室効果ガスの排出を、地球が温室効果ガスを吸収できる能力の分までに抑えようとしています(現在は、地球の吸収能力の倍くらい排出しています)。そして、途上国も含む、すべての国は、この長期目標の実現のために排出削減策を前進させ続けなければならないこと(5年ごとの排出削減目標更新、そして、その目標は、前の期のものから進展させることとされています)です。さらに、そのための継続するシステムが作られ、これまでのように、新しい国際制度を作ります、では何についてどんな順番で話し合うかを決めましょう、などといったことをしなくて済むようになったのです。パリ協定に合意できたこと自体もそうですが、パリ協定がひとたび発効すれば、世界全体が長期的に温暖化問題に真摯に取り組む、すなわち、世界は化石燃料依存から脱却していく、という産業界や市民社会に対する強いメッセージになります。

 もちろん、パリ協定にも課題はありますし、調整がつかずに先送りされた問題もあります。たとえば、4日の記事でも書いた通り、各国の約束草案を足し合わせても、2℃目標の達成にはほど遠いということがわかっています。パリ協定では、グローバル・ストックテイク(世界全体での長期目標達成に関する進捗確認)をすることになっていますが、その結果、削減量が足りないとわかった時にどう対処するかについては書かれていません。

 なぜ、今回、パリ協定に合意できたのでしょう。要因はいろいろ考えられます。異常気象などによる温暖化に対する危機感の世界的な高まり、温暖化の科学の進展、各国首脳のリーダーシップ、議長国フランスの采配のうまさ(特に、ファビウスCOP21議長の評価は、参加者の間で非常に高かったです)、産業界や市民社会での温暖化対策の取り組みの広がり、など。これに加えて、研究者らしくないコメントと言われてしまうかも知れませんが、今、世界全体で温暖化対策に取り組むための国際制度を国際社会が本当に必要としているから、ということがあるのではないかと感じました。

 先進国だけでなく、途上国も温暖化対策に取り組む制度に関する合意は、当初、COP15(コペンハーゲン(デンマーク)、2009年)での採択が目指されていました。しかし、会議の透明性に欠けていたことなど、いろんな事情から、コペンハーゲンでは合意ができませんでした。あれから6年。温暖化交渉にかかわる人たちは、コペンハーゲン会合とは同じ結末にはしないという強い信念を持って、傍から見ると、慎重すぎるのではないかと思えるほどに、各国/各主体の主張に耳を傾け、丁寧に交渉プロセスを運営してきていました。その努力が、パリ協定として結実して本当に良かった、そう思いながら、COP21閉会会合で、私は、大きな拍手を送っていました。

文・写真5・図:久保田泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)


※全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)ウェブサイトより転載