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2005年7月20日

汚染の超高感度検出器

摩周湖

 北海道の観光スポットとして有名な摩周湖は、世界有数の透明度を誇るカルデラ湖です。
 湖の周囲が急峻なカルデラ湖に取り囲まれ、集水域に人間活動がなく、かつ流入出河川がすくないために汚濁負荷の流入がありません。加えて、国立特別保護地区に指定されており、人の活動も大きく制限されているために原生の姿を留める数少ない湖沼です。(写真)
 そのため、この湖は地球規模での淡水の水質観測の基準として優れた条件を備えています。
 当研究所では、1980年から摩周湖の水質を調査しています。調査は毎年晩夏、最深部(水深212メートル)における湖水の層別(水深別)採水と魚類やプランクトンなどの捕獲を実施しそれらについて、窒素やリンなどの栄養塩類、鉛・カドミウムなどの重金属、残留性の高い微量有機化学物質などを高精度分析しています。
 現地調査や採水は、環境省など当局の特別許可をもらったうえで行いますが、湖面まで約200メートルの急峻なカルデラ壁のガレ場をロープを伝って昇降しなければならないため、採水道具や大量の湖水試料などの運搬は困難を極めます。
 湖水中の栄養塩類や微量有機化学物質などの濃度は、検出器の検出限界またはそれ以下であり、外洋の非汚染海域と同等の濃度レベルを保っていて、極めて清澄な淡水と言えます。集水域からの汚濁負荷がないわけですから、摩周湖において観測される微量の化学物質は、水系からではなく、大気を経由して流入した地球規模の環境汚染によるものと考えられます。
 例えば、過去に大量に使用された有機塩素系農薬のBHCの異性体(α-BHC)がごく微量ながら観測されていますが、これは大気を経由して入ってきたものと考えられます。
 82年の観測開始以来年々α-BHC濃度が低下し、現在では観測当初の濃度の十分の一以下まで低下しています。(下図)
 また生息する魚類には、α-BHCが湖水の約百倍の濃度に濃縮されていました。BHCは毒性が強いことから、70年代に使用規制や製造禁止などの措置が段階的にとられてきましたが、依然として微量ながら環境中から検出されており、まだ地球規模で広範囲に残留していることが分かります。
 このように人間が作り出した化学物質が極めて低濃度ですが湖水中に存在しており、それらの濃度の推移は、世界の使用実態や全球的な拡散状況を的確に反映しています。
 世界的に見れば、北海道の小さな湖沼である摩周湖が、地球上の環境汚染の超高感度の検出器であることが分かります。

写真 摩周湖の全景
図1 α-BHC濃度の経年変化
図 α-BHC濃度の経年変化

【地球環境研究センター 研究管理官 藤沼康実】

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