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衛星観測によるオゾン層研究をめぐって

 1980年代に人間活動により大気中に大量にばらまかれたフロンなどのオゾン破壊物質は,いまだに成層圏のオゾン層を破壊し続け,オゾンホールの回復の兆しも見られません。さらに,近年の地球温暖化がオゾン層の破壊にも影響を及ぼしている可能性が指摘されています。対策がどのように効果を示しているかなど,今後のオゾン層破壊の推移に関し,衛星によるグローバルな監視の必要はさらに高まっています。

米国人工衛星センサTOMS観測に基づく南極上空オゾン全量の図
米国人工衛星センサTOMS観測に基づく南極上空オゾン全量
(1979〜2002年10月平均値;米国航空宇宙局提供データに基づく)

世界では

 成層圏オゾンの研究は,1880年代にヨーロッパでシャピュイとハートレーによる太陽光の分光観測によって始まった後,1931年英国のドブソンが観測点上空にあるオゾンの全量を観測する分光光度計を完成させました。その後,1957年から始まった国際地球観測年 (IGY:International Geophysical Year)を契機に,オゾンの全世界的な観測網が作られ,現在に至っています。このドブソン分光光度計は,現在でも世界のオゾン観測網の主力機器です。

 またちょうどこの頃,英国オックスフォード大学のブリューワとミルフォードが,定常観測に使用可能な気球搭載オゾン観測器である,オゾンゾンデの原型を作り上げるのに成功しました。これによって,高度約30kmまでのオゾンの分布を観測することが可能となりました。

 さらに,1971年には米国の人工衛星Nimbus-4号にBUVというオゾン観測器が搭載され,全球的なオゾン観測が開始されました。 Nimbus-4号の成果は,Nimbus-7号に引き継がれ,この衛星にはSBUVとTOMSという2つのオゾン観測センサーが搭載されました。

 1982年には日本の忠鉢繁とイギリスのファーマンがそれぞれ独自に,南極昭和基地とハレー基地のオゾン観測データからオゾンの異常な減少に気づき,1984年から1985年にかけて世界的に報告し,いわゆる「南極オゾンホール」の発見となったのです。

 オゾンホールは,その後TOMS等の衛星観測データでも確認され,連続的にモニターされ続けています。1991年打上げの米国のUARS衛星には,CLAES, MLS, HALOEなどの大気観測用の複数のセンサーが搭載され,より詳細なオゾン破壊メカニズムに関する観測がなされています。また最近では,北極上空でのオゾン減少も人工衛星観測などによって報告されています。

日本では

 日本では,前述の国際地球観測年(1957年)から,気象庁によって南極昭和基地や国内の気象庁の各観測点(札幌,つくば,鹿児島,後に那覇が追加)で,オゾンの連続観測が始まりました。またオゾンゾンデに関しても,日本独自のゾンデ(KC型)が1966年に開発され,現在も観測に使われています。

 また,東京大学等により,紫外吸光法を用いたロケット搭載型のゾンデを用いて1970年代から鹿児島県内之浦のロケット実験場で高度70km以下のオゾンの観測が行われてきました。最近では,差分吸光レーザーレーダーや赤外吸光,ミリ波分光などさまざまな手法によるオゾン観測もいくつかの研究グループによって行われてきています。

 日本の人工衛星によるオゾン層の観測は,宇宙科学研究所による1984年打上げのEXOS-C衛星(おおぞら)搭載LASによる実験的観測を除くと,1996年打上げのADEOS衛星搭載ILASによる定常観測が初めてです。

国立環境研究所では

 オゾン層の衛星観測について,国立環境研究所では1988年以来,今日まで15年にわたって研究を行ってきました。そして現在は,ILASの後継機であるILAS-IIの観測データの処理と応用の研究を続けています。

 2002年12月に無事ADEOS-IIが打上げられた後,ILAS-IIは機能確認試験も終了し,2003年4月からは連続的にオゾン層の監視のための良質なデータを取得しております。そこでまず私たちは,ILASの時には実現できなかった南半球でのオゾンホールの形成から消長までの過程(8月から11月頃まで)を監視し,オゾン層破壊の研究に役立てることを第一の目標としています。(トピック参照)

 また,ILAS-IIの連続的な分光スペクトルの取得という特徴を生かした,オゾン層破壊の鍵となる極成層圏雲(PSC)の組成同定の研究においても,その成果が期待されます。なお現在の研究体制としては,専属の職員(研究者)のほかに5名の非常勤研究者(ポスドクフェロー)を加え,オゾン層変動に関するよい研究成果を得るために,ILAS-IIの観測データを活用した大気科学研究を実施しています。

2000年の会議に集まった各国の研究者たちの写真
2000年の会議に集まった各国の研究者たち
(最前列右から4人目が笹野プロジェクトリーダー)