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研究者に聞く!!

Interview

久保田 泉(左)と亀山 康子(右)の写真
久保田 泉(写真左)
社会環境システム研究領域 環境経済研究室 研究員

亀山 康子(写真右)
社会環境システム研究領域 環境経済研究室 主任研究員

 国際政治学や国際法学に基づく環境政策研究は、現実の国際社会における合意形成ときわめて密接な関係を持っています。国立環境研究所で今まさに動いている「2013年以降の地球温暖化対策促進に向けた国際合意のための方法に関する研究」プロジェクトに取り組んでいる亀山さんと久保田さんに、地球温暖化対策における将来枠組みのあり方や具体的なオプション、国際交渉の場で議論される環境政策の比較分析研究などについてお聞きしました。

研究者の知見や洞察が国際政治の政策決定に影響を与える時代に

1: 国際合意を導き出す研究者の知見とネットワーク

  • Q: まず初めに、どうして研究者という職業を選択されたのかお話ください。
    亀山: 現在の仕事を選んだ遠因は、高校生の頃にアフリカの貧困問題や途上国問題に関心があったことだと思います。大学卒業後は国連などの国際機関に就職して国際問題と向き合いたいと思っていたのですが、卒論をまとめるときにたまたま非常勤講師で教えに来られていたかつての上司から「これからは地球温暖化問題だよ」とアドバイスされ、温暖化に興味を持つようになりました。1989年のことです。その後、1992年にはブラジルのリオ・デ・ジャネイロで地球サミットが開催され、地球レベルの環境問題や深刻な途上国問題が大きく報道されるにつれて、深く掘り下げていけばいくほど地球温暖化問題と途上国問題は不可分であるという認識を持つようになりました。

    久保田: 大学3年(1996年)のときに授業で香川県・豊島の廃棄物問題を知り、環境法に関心を持ち始めました。とくにそのときもっとも衝撃的だったことは豊島の産業廃棄物事業者が、「これはごみではありません。資源です」と話していたことです。誰が見てもごみだと思うものでも、たとえ1円でも値段がつけば、廃棄物処理法の適用を受けない可能性があるということを初めて知りました。その後、大学院時代に税、協定、排出量取引を組み合わせたイギリスの温暖化対策の制度設計について調べたことがきっかけで、私が学んでいた法学の知識を、環境法政策の設計に役立たせることができるのではと考え、研究者の道に進む決心をしました。
  • Q: お二人とも学生時代に抱いた情熱が研究活動のバックボーンになっているんですね。続いて、2005年2月の京都議定書発効によって大きな注目を集めるようになった地球温暖化問題とお二人の研究がどのような関係を持っているのか教えてください。
    亀山: 地球温暖化問題に対する世界の関心は、1997年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議、いわゆるCOP3を契機に大いに高まりました。この会議で2008年から2012年までの5年間の温室効果ガスの排出量を、「先進国全体で90年比5.2%削減」「日本6%削減」「EU8%削減」とすることなど、数値目標として明確に規定されたからです。私はこれまで開催された11回のCOPのうち9回に日本代表団メンバーとして参画しながら、温暖化問題の環境政策決定に関わってきました。
  • Q: そうした国際的な環境問題に関しての政策決定で、研究者はどのような役割を果たすのですか。
    亀山: かつては、自然科学系研究者と政策決定者とが直接結ばれていました。つまり、事象を分析・実証する自然科学系研究者の知見をふまえ、政府の国際交渉担当者が決定を下していたのです。ところが、地球温暖化問題のように複雑な問題では、多様な自然科学的知見を整理・咀嚼し、政策決定者との間を橋渡しする新たな役割が必要となりました。また、地球温暖化問題は長い時間をかけて取り組む問題でありながら、政府の交渉担当者は数年ごとに異動してしまうため、長期間、知見を蓄積する役割も必要となりました。また地球温暖化問題の国際問題としての意味を分析できる国際政治学研究者の知見も不可欠となり、その結果、研究者自身が構築した政策提案が国の政策決定に大きな影響を与えるようになったのです。
  • Q: COP3(京都議定書)〜COP7(マラケシュ合意)における亀山さんたち社会科学系の研究者の役割を具体的にお話ください。
    亀山: たとえば、京都議定書第4条では、複数の国家が各国の排出量を合計した量を共同で達成する方法が認められていますが、これはご存知のとおりEUの現状を反映させた制度です。EU加盟国に排出量を割り当てる計算式を開発したのはユトレヒト大学のエネルギーモデル研究者です。このように、ある地域統合体の域内ルールを国際法で承認してもらうという手続きが、社会科学系研究者によって検討されました。また京都議定書では、排出量取引制度やCDMなど、さまざまな制度が新たに登場しましたが、具体的にどのようにこれらの制度を利用するのかという詳細ルールが決まっていませんでした。そこで、京都議定書が採択された翌年の1998年から2001年までの3年間は、その詳細ルールを検討するための期間となりました。
     実際に制度を利用できる形に持って行くためには、法律や経済政策等の専門的知識が不可欠です。そこで、それらの知見を有する研究者が数多くこのプロセスに参加するようになったのです。一方、COP7の直前に、世界最大の排出国である米国が京都議定書から離脱するという事態が起きました。そのとき、日本を含めた残りの国々は、いかに米国を復帰させるかに頭を悩ませました。この悩みは今でも続いています。この観点からは、米国内の政治経済動向を注意深く分析する必要があり、そのような専門家の知識が役立ちます(表1)。
表1 気候変動問題に関する国際的取り組みの経緯
気候変動問題が国際的に取り組むべき問題であると認識されるようになったのは、1980年代後半でした。その後、国際交渉の結果として最初にでき上がったのが1992年に採択された機構変動枠組条約です。しかし、同条約では2000年以降の取組みについて明記されていませんでした。それについて稿和尚した結果が1997年に採択された京都議定書です。その後、京都議定書で承認されたさまざまな国際制度の実施方法等詳細な取決めを検討してきました。
  • Q: つまり、地球温暖化問題は気候変動に関する国際的研究の取組みだけではなく政策決定の枠組みに変化を起こして、研究者の存在意義を高めたのですね。
    亀山: こうした傾向は海外でも同じです。世界中の研究者が長期間にわたる研究を共有し合うことで研究者同士のネットワークが構築されたり、ITインフラの発達によって企業や環境保護団体などもネットワークに入るようになったからです。政策決定に影響を与える研究者の情報が世界規模で瞬時に共有化されるようになった結果、各国の温暖化政策の中枢に最先端の研究者の知見が積極的に取り込まれるようになりました。事実、COPのような国際会議の舞台裏でも世界中のNGOや研究者が集まる“サイドイベント”が開催され、公式討議よりも先進的でさらに深い研究レベルの議論が行われています。もともと環境問題関係の国際会議は他の分野の国際会議と異なり、議論や政策決定がきわめてオープンな形で進行します。データや資料もすべて公表されますし、会議場の傍聴席には世界各国から企業や環境保護団体が参加して会議の推移を見守っています。つまり、人類共通の政策課題を公に決定するという共通認識が世界的に醸されていますので、特定の国家の国益を押し通すことは難しくなっているということです。

    久保田: 私のような国際法や環境法の研究者にとっても、政策決定過程において研究者が果たすべき役割は劇的に変化しているように感じます。いままで法学者の仕事は、起こってしまった紛争をいかに解決するか、そして、既存の制度をいかに運用するかについて検討することだったのですが、研究者自身が政策決定に参加するようになったことで、決定のプロセスを理解し、知見を持ちながら戦略的に立法プロセスへ関われるようになったと思います。とくに温暖化問題をはじめとする地球環境問題は、国際問題の解決と国内問題の解決が密接に関わり合いますから、国際法や国内法といったそれぞれの専門領域に閉じこもった研究では対応できません。国際的な合意形成が国内法令や国益にどのような影響を及ぼすのかを検証し、合理的で現実的な法的知見を構築するためにも、研究者は研究室を飛び出して国際会議の現場に出ていかなければなりません。そうした研究者の行動力と現実的で実践的な知見が政策決定に求められていることを感じます。

    亀山: 日本は世界各国に比べて法律家の参加が遅過ぎたくらいです。国際政策の決定に法律家が関わらないために規約や条文の遵守を義務づけられるだけで、字句の定義認識にまで国家意思を反映させるような戦略的な規約策定に参加できなかったという反省もあります。
COP11会場内に設置された国立環境研究所ブースの写真
COP11会場内に設置された国立環境研究所ブース

2: 世界をリードする研究成果をめざして

  • Q: 地球規模でネットワーキングされる“知の共有化”によって、研究者が政策決定の主導性を持つようになった経緯と状況は理解できましたが、実際にどのような研究の成果によって気候変動問題の世界的潮流をリードされようとしているのですか。具体的な研究内容を教えて下さい。
    亀山: 現在、私が行っている研究テーマは「2013年以降の地球温暖化対策促進に向けた国際合意のための方法に関する研究」というもので、京都議定書が規定している義務の目標年終了後である2013年以降の温暖化対策の国際合意形成をめざす研究です。京都議定書の批准は2013年以降の温暖化対策に多くの宿題を残しました。たとえば、温室効果ガスの削減目標にしても、単なる排出の絶対量を設定するのではなく、GDP当たり、あるいは一人当たりの排出量を設定すべきではないのか、また「先進国と途上国には異なるタイプの目標を設定する」とはいうものの、具体的にはどのようにするのか、といったさまざまな課題が提案されるようになったのです。このように世界各国の研究者から膨大な数の政策提案がなされるようになると、今度は提案の比較検討が世界中で活発に議論されるようになってきました。ところが、客観的な比較検討をするには必ず比較するための客観的な指標が必要です。そこで私は、これからの世界のあり方を客観的に比較検討できる指標を設定する研究に取り組むことにしたのです。
  • Q: その研究が「気候レジームの評価」という定性的評価研究なのですね。
    亀山: この研究では今後10年間に世界が進展していく方向性を“シナリオ・プランニング・アプローチ”という手法(10ページSummaryを参照)を使って、今後、・国際排出量取引制度がさらに活性化する「炭素市場発展シナリオ」、・国際排出量取引が低迷し、省エネ基準の国際スタンダード化等の政策協調が求められる「政府先導型規制シナリオ」、そして、・炭素隔離・貯留や水素エネルギー等現在「革新的技術」と呼ばれている技術の実用化が急速に進展する「革新的技術依存シナリオ」という3つの異なる世界像=シナリオとして設定しました(図1)。今後、世界がこれら3つのシナリオに入って行ったときのシナリオ評価指標を明らかにして、シナリオが示す国際枠組みの検証を可能にした研究です。シナリオを評価する指標としては「環境改善効果」「費用対効果」など4つを規定しています。
  • Q: この3つのシナリオ評価はいつ、どのような形で発表されたのでしょうか。
    亀山: 2005年にモントリオールで開催されたCOP11で和文に先がけて英文の報告書として発表しました。和文よりも英文の発表を先に行うには理由があります。2013年以降の温暖化対策に関する研究は、いままで欧米の研究者を中心に行われてきたのですが、近年急速に増え、現在では、私が知り得る限りでも100を超えるほどの論文が世界中で発表されるという“論文ラッシュ”状態です。したがって研究者は自分の論文を少しでも早く世界に向けて発表するために母国語よりも英文で論文を書き、先手を打って世界に発信しなければならないのです。ちょっと油断すると素早い研究者に追い抜かれてしまいます(笑)。こうした世界中の多くの研究者がお互いに情報を共有し、互いに刺激し合いながら切磋琢磨する研究環境は、必ずしも政策関連研究に特有なものではないかもしれませんが、非常に大切なものです。
図1 気候レジーム評価のイメージ

3: 脚光を浴びる適応策研究

  • Q: 最近は政策提案に影響を与える研究として、適応策研究というテーマも注目されているようですが。
    久保田: 最近国際交渉の現場において適応策への関心が急速に高まってきました。いま私が取り組んでいる適応策研究というのは、温室効果ガスの排出抑制努力と並行して、気象災害などに対する適応能力を強化することで気候変動の影響被害を最小化していこうというものです。
  • Q: 適応策研究に深い関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
    久保田: 温暖化問題への対応策は緩和(温室効果ガスの発生抑制と吸収源の増強)と適応(気候変動による影響への対応)という二つのアプローチに大別できます。将来に向けた緩和よりも、過去の温室効果ガスの排出という原因行為により引き起こされた地球温暖化による影響(被害)の対策についての責任をいかに各国(とくに先進国)が負うかを対象とする適応の方が伝統的な法学の考え方になじみやすいといえます。いま私が進めている適応策研究のポイントは、「適応に関する情報交換・経験共有をいかに進めていくか」と「適応への資金援助はどのようなメカニズムで行うのが望ましいか」の二点です。途上国が適切な適応策を構築し、実施するためにはさまざまな問題が横たわっています。適応技術を含む基礎情報や知識、気候変化の影響被害を評価する評価システムの整備など、途上国には適応策を実施するための知識や技能が圧倒的に不足しているのが実情です。ですから、まず適応策を実施するための基盤をしっかりと整備しなければなりません。加えて、途上国が適応策を実施する際に先進国がどのようなしくみで資金援助を行うかについても火急の研究課題になっています。さらに、先進国での適応策についても考えていく必要があります。気象災害は、米国のハリケーン被害などに象徴されるように先進国でもきわめて重要な施策テーマになってきました。2013年以降の温暖化対策の枠組み構築は“緩和は先進国、適応は途上国”といった単純な切り分け論を超えて、地球全体を見渡した適応策が不可欠になるというのが、私の基本的な認識です。
COP11にて、アジア太平洋各国の研究者と開催したサイドイベントの写真
COP11にて、アジア太平洋各国の研究者と開催したサイドイベント
  • Q: これからの研究の展望を教えて下さい。
    亀山: 将来の温暖化問題にとって緩和、さらに適応も含めて主役となっていくのは途上国です。したがって私たちは途上国とのコミュニケーションをより密接にしていかなければなりません。2005年10月に茨城県のつくばでバングラディシュ、インドネシア、タイといったアジア各国の研究者が参画した《Capacity Building in Asia and the Pacific on Issues Related to the Kyoto Protocol Beyond 2012》という国際会議を開催しました。今後もこうしたアジアの研究者が集う活動を積極的に行うことで、研究者同士のネットワークを強化してアジア発の政策提案を発展させ、世界に向けて最先端の研究成果を発表していきたいと思っています。

    久保田: 適応策研究に関しては大枠としての国際制度の構築、適応策の実施レベルである国内および地方の施策の検討、たとえば、地方固有の知恵をいかに活用するか、といった二つの方向性を軸にした研究を進めていきたいと考えています。現在の国際認識は適応策の必要性をようやく共有化し始めた段階ですから、今後は世界に先駆けて積極的な研究発表と政策提案を行うことで、2013年以降に求められる適応策の実践的な行動計画をリードする役割を果たしたいと思います。
  • Q: COP11会議が2005年11月末から12月初めに、カナダのモントリオールで開催されました。会議の中身はすでに新聞やテレビでみなさんご存じですが、最前線の国際会議で、お二人の研究分野の役割がどのようだったかを最後の質問にさせていただきます。
    亀山: COP11(気候変動枠組条約第11回締約国会議)とCOP/MOP1(京都議定書第1回締約国会合)では、私たちそれぞれの研究テーマがそのまま会合の議題の一部となりました。交渉そのものは、政府代表団で決められた方針の下に行わなければなりませんが、政府方針を決める際には、私たちからも研究成果をインプットさせていただきました。今会合では、2013年以降の取り組みに関する議論を始めていくことに合意が得られ、また、適応措置に関しても議論が進展したことから、私たちの研究成果の出番は、これからが本番というところです。

メモ

  • 気候変動枠組条約
    気候変動への国際的取組みとして、現在、二つの国際法が存在します。一つは、国際連合気候変動枠組条約、そしてもう一つは、同条約の下に位置づけられる京都議定書です。気候変動枠組条約は、1992年6月、国連環境開発会議(リオ・デ・ジャネイロで開催)で155カ国が署名し、1994年3月に発効しました。同条約には、米国、ロシア、中国、インドをはじめ世界の大半の国々が参加しており、2006年1月現在の批准国数は189カ国にのぼっています。
  • 気候変動に関する枠組条約締約国会議(COP)
    気候変動に関する枠組条約締約国会議は、1995年にベルリンで第1回会議(COP1)が開催されて以来、現在までに11回の会議が行われてきましたが、その中にはいくつか重要な決定や合意がなされた会議があります。その一つが1997年の京都会議(COP3)です。この会議では1990年を基準年とする2008年から2012年までの温室効果ガスの排出抑制をめざした数値目標を規定した京都議定書が採択されました。これにより温暖化対策のための単なる理念共有やスローガンの制定という段階を超えて、議定書締約国には目標達成のための具体的スケジュールの構築が求められるようになりました。2001年に開催された第7回締約国会議(COP7)で京都議定書の詳細ルール(マラケシュ合意)が採択されました。そして2005年12月にモントリオールで開催されたCOP11は、第1回京都議定書締約国会合(COP/MOP1)ともなり、世界は“ポスト京都議定書”と呼ばれる2013年以降の温暖化対策に向けて、討議を開始させることに合意しました。
  • 京都議定書
    COP3で採択され、先進国の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等6物質)の排出量について2008〜2012年までに削減する数値目標を先進各国ごとに設定した、法的拘束力のある約束のことです。議定書ではこの実現のために、森林等を温室効果ガスの吸収源として算入するシステムや、温室効果ガスの取引に関する京都メカニズムを導入しました。米国の離脱で発効が危ぶまれましたが、2004年11月のロシアの批准により発効条件を満たし、翌2005年2月に発効しました。
  • 京都メカニズム
    京都議定書実現のための温室効果ガスの取引に関するメカニズムで、JI(共同実施:削減義務のある国同士が、温室効果ガス削減事業を行い、削減量を互いの義務量に当てることができる)、排出量取引(削減義務のある国々で目標以上に削減した温室効果ガス排出量を、国際取引市場で売買できるシステム)、CDM(クリーン開発メカニズム:削減義務のある国が、途上国の温室効果ガス削減プロジェクトを途上国と共同で行い、削減量の一部をクレジットとして自国の削減目標量に組み入れることができるシステム)があります。京都議定書実現のための温室効果ガスの取引に関するメカニズムで、JI(共同実施:削減義務のある国同士が、温室効果ガス削減事業を行い、削減量を互いの義務量に当てることができる)、排出量取引(削減義務のある国々で目標以上に削減した温室効果ガス排出量を、国際取引市場で売買できるシステム)、CDM(クリーン開発メカニズム:削減義務のある国が、途上国の温室効果ガス削減プロジェクトを途上国と共同で行い、削減量の一部をクレジットとして自国の削減目標量に組み入れることができるシステム)があります。
  • 国際政治学
    国際政治学とは、国と国の間の関係を調べる学問です。国は、紛争あるいは平和、貿易、支援、移民などさまざまな側面で他の国と関係を持っています。地球環境問題もそのような国家間の関係の一つとして捉えることができ、その場合には、国の関係を見直す(条約を作るなど)ことで解決策が検討されます。
  • サイドイベント
    COPの会議のない時間帯(昼食時と夕食時)に、産業界や環境保護団体、研究機関など、政府以外のいわばオブザーバーの団体が、自主的に開催するイベントのこと。開催の目的は、それぞれの団体の活動や主張したいことなどを広く知ってもらうこと、また聴衆との間で議論を深めることなどです。近年では、これに加えて政府関係者をパネリストとして招待し、正式の会議ではいえない個人的意見を聞いたりするフォーラムを提供する場となっています。 なお、COP11で国立環境研究所は長期対策モデル研究に関して、および2013年以降の枠組みに関して、二つのサイドイベントを開催しました。
  • 国際法
    国際社会において、主に国家が従うべきルールを定めたもので条約もその一つです。そのめざすところは、相反する利害をめぐる対立・衝突の調整と、共通の目的のための協力の二つに分類できます。たとえば、気候変動枠組条約は国際法です。
  • 環境法
    一般的には環境を守るための法(法令、条例、条約等)すべてを指します。国内法については、環境保全の理念等を定めた環境基本法と、大気汚染防止法や廃棄物処理法など多くの個別法、さらに多国間で共通の環境目標の実現をめざす国際環境条約(たとえば湿地の保護に関するラムサール条約など)を含みます。

温暖化対策をめぐる各国の状況

  • EU:2002年温室効果ガス排出量—1990年比−3%、議定書目標比+5%
    2005年末、EUは、加盟国(新規を含む)全体で京都議定書上の目標を達成できそうだという見通しを発表しました。EUは、国際社会での信頼を得るという観点からも、他国の動向に左右されることなく自らが排出抑制目標を達成することを重視しています。EUでは、「欧州気候変動プログラム」の下、さまざまな温暖化対策が実施されていますが、その中核を成しているのは、域内の排出量取引制度です。2010年のEUにおけるCO2排出量全体の46%が対象となると推計されています。
  • 米国:2002年温室効果ガス排出量−1990年比+13.1%、議定書目標比(離脱していますが)+20.1%
    ブッシュ政権は、温暖化対策に対して消極的な対応を続けています。しかし米国を見るときは連邦政府だけでなく州政府の動向にも注意が必要です。積極的な排出削減政策を実施している州がいくつもありますし、州レベルの環境政策が連邦政府の政策に大きく影響を及ぼすためです。また米国で温室効果ガスを大量排出している多国籍企業は、米国よりも厳しい基準を設定している海外の事業活動の実績を持ち、それが米国のスタンダードになる可能性もあります。
  • ロシア:2002年温室効果ガス排出量—1990年比−38.5%、議定書目標比−38.5%
    ロシアは議定書の第1約束期間について排出枠の余剰が確定的と見られています。京都議定書の批准によってロシアは、排出枠の余剰分を売れる立場です。
  • 中国:議定書上、排出削減義務なし
    近年の高度経済成長によりエネルギー需要の急増が続き、温室効果ガス発生量が大幅に増加しつつあります。このため政府は国家戦略として省エネ技術の導入に大きな関心を寄せていますし、CDM最大の供給国になると見込まれています。
  • 日本:2002年温室効果ガス排出量—1990年比+7.6%、議定書目標比+13.6%
    日本は自主努力によるCO2削減を進めてきましたが,議定書発効を機により一歩踏み込んだ対策を進めるため2005年4月には京都議定書目標達成計画の決定、同年6月には地球温暖化対策推進法の改正などが行われました。しかし国内対策だけでは目標達成は困難と考えられていますので、CDM、排出量取引など京都メカニズムの活用が重要になってきています。
    まさにこのような国際取引のルールづくりなどで、社会科学系研究者の役割がクローズアップされています。
図2 各国別の温室効果ガス(二酸化炭素等6物質)排出量と初期割当量(2002年)との比較