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研究者に聞く!!

Interview

野馬幸生(左)と貴田晶子(右)の写真
野馬幸生(写真左)
循環型社会・廃棄物研究センター物質管理研究室長

貴田晶子(写真右)
循環型社会・廃棄物研究センター廃棄物試験評価研究室長

 古くて新しい問題。19世紀から利用が始まり、つい最近までその利便性から1千万トンが使用されてきた石綿。そして1970年代に起きたPCB問題。両方とも有害性が強く処理が難しい物質ですが、最近やっと解決に向けて動き出しました。石綿の無害化確認のための測定手法を確立する分析研究、PCBの化学処理における有害副生物生成の疑念を解消する研究に携わった貴田さん、野馬さんに、廃棄物分析研究からみた「有害廃棄物対策」への取組みなどをお聞きしました。

ゼロから分析法を確立した廃棄物対策研究

1.広島県環境センター時代

  • Q: 最初に環境分野の仕事、廃棄物の仕事を選んだきっかけについてお願いします。
    貴田: 私たち団塊の世代は、産業の成長、その裏面として公害を感じていました。当時、水俣病などの公害病問題も起こり、公害に対する関心は大学時代から高かったです。大学の専攻は化学です。1972年に広島県の衛生研究所に入って、環境部署に配属されて幸運でした。当時「環境」という言葉はなく公害対策の調査でした。1977年に、全国でも珍しい廃棄物部門を持つ広島県環境センターができ、そちらに移りました。そのきっかけは、末石冨太郎先生の『都市環境の蘇生』の中にある「廃棄物めがね」でした。この世の中すべては「潜在的な廃棄物である」という考え方です。視点を広げて、トータルに考えることに気付かされました。廃棄物部門への選択を迫られていた時に後押しされたところがあります。
  • Q: 野馬さんはいかがですか。
    野馬: 大学時代は薬学で、この時に分析の基礎をやりました。広島県では最初の2年間ほどは行政で公害と薬事、食品衛生を担当しました。その後1977年に広島県環境センターができ、そこの廃棄物部門に呼ばれました。
  • Q: 貴田さんは最初から廃棄物関係の分析研究をされていたのですか。
    貴田: 当時は有機物汚染対策と発生源からの有害物質を抑えることが第一の使命でした。問題解決型からの出発です。分析対象は、汚染物質が流れ込む河川水、海水や発生源の工場排水や産業廃棄物です。とにかくまずは実態調査でした。
  • Q: 問題解決型の研究、具体的にはどのようなことに関わったのですか。
    貴田: 広島県の産業廃棄物の質を把握するということが最初でした。広島県は全国でも廃棄物量が非常に多かったのです。有害かどうか、きちんと埋立地に持っていっているか、適正に処分されているかの確認のため、工場や埋立地への立ち入り、廃棄物の分析を行いました。当時有害性を判断する試験法は、水への溶出がどれだけあるかでした。多くの廃棄物に適用して、どの廃棄物が問題であるのか、まとめました。廃棄物問題解決に必要な科学的情報を行政に提供することを実践してきたと自負しています。
     廃棄物を適切に処理することは、物質欲を満たした社会が残した「負の遺産」を管理することに他なりませんし、現在の3R(リデュース、リユース、リサイクル)とともに、廃棄物処理の基本でもあるのです。
  • Q: 貴田さんが無機分野で、野馬さんが有機分野を担当されていたのですね。
    貴田: そうです。環境影響を評価する廃棄物の溶出特性に関しては基本的な枠組み、試験法の枠組みに取り組みました。

    野馬: 私は貴田さんと一緒に廃棄物の分析をやりながら、一方では環境省(当時、環境庁)からの委託により、有機化学物質を対象とする環境調査を行っていました。これは、分解しにくい、毒性が高い、蓄積しやすい、使用量が多い化学物質の中から優先的に調査すべきものを選び、分析法開発(1年目)、環境調査(2年目)を行うものでした。

2:負の遺産化する廃棄物、有害化学物質

石綿除去風景の写真
石綿除去風景。マスクの上に、さらにガムテープで目張りが必要なほど繊維は細かい。
  • Q:さて、それでは少し具体的にお聞きします。当時の産業廃棄物の処理はどのようなものでしたか。
    貴田: 安定型処分場、管理型処分場、遮断型処分場という3つの最終処分場ができたのは1977年です。判定試験によって有害とされた廃棄物は遮断型、それ以外は管理型に入れます。安定型は金属くず、ガラスくずなど5品目が対象です。発生源や中間処理施設、最終処分場から集めた廃棄物に有害物質が入っていないか、溶出性が高くないかをチェックしましたが、法律的に問題のあるケースがしばしばありました。とくに最終処分場では。
  • Q:一般廃棄物はいかがですか。
    貴田: 当時は一般廃棄物と産業廃棄物は別々に縦割りになっていて、一般廃棄物、つまり家庭から出るごみに有害なものはないだろうという考えで、何の規制もありませんでした。可燃物はほとんど焼却していたのですが、実際には焼却ばいじんに塩素がたくさん入っていました。金属もそれなりに入っています。焼却すると飛散しやすくなり、ばいじんを捕集する過程でそれらのものが一緒に凝縮して、有害性、溶出性の高い鉛、カドミウムなどの含有が懸念されていました。でも規制がありませんし、自治体は自前で最終処分場を持っていましたから、分析も何もしないで埋め立てていたのです。

    野馬: 自治体の処分場は徐々にひっぱくし、広島県の例では、産業廃棄物を処分していた第三セクターの最終処分場に一般廃棄物も受け入れるようになりました。産業廃棄物には埋立処分に係る判定基準があり、チェックが必要ですから、処分場に入れる一般廃棄物もその時初めて同じように検査したのです。今思えば当然のことですが、産業廃棄物の基準を超えた、鉛、カドミウムなどが検出され、受け入れを拒否されることもありました。こういう経緯を経て、一般廃棄物の管理も進んでいきました。

3:国立環境研究所に移って

  • Q: 研究の場を国立環境研究所に移されたのは。
    貴田: 2001年です。省庁再編に伴い、旧厚生省の国立公衆衛生院でやっていた廃棄物研究分野が国立環境研究所に移管され、廃棄物研究部が新設されました。そこに招聘されました。
  • Q: 全国から何名の方が来られたのですか。
    貴田: 地方環境研究所からは3名です。
  • Q: そのうち2名が広島からということになりますね。
    貴田: 廃棄物部門のある地方の研究所が少なかったからでしょう。地方の研究所は分析業務の縮小が図られ、廃棄物分野も例外ではありませんでした。
     廃棄物問題は、(現場で起きているという意味で)ローカルだと私たちは思っています。現場と、現場での問題解決をよく知った上で、政策的な課題研究の中で研究することが、廃棄物問題への対応としてはより現実的であり、効果的でもあると考えました。それまで国立環境研究所では環境研究が行われ、国立公衆衛生院では廃棄物の研究がかなり進んでいました。どちらかといえば公衆衛生院に近い立場(?)でしたが、私たちは両方に関わっていました。私たちは現場をよく知っている分析の職人として、それらを統合した研究を行うことへの自負がありました。

4.国立環境研究所での主な研究と成果

  • Q: 国立環境研究所ではどんな研究をされたのですか。
    貴田: 無機物質、とくに重金属類を中心に、廃棄物処理過程や、資源循環過程でのリスク低減に関する研究テーマに携わってきました。
  • Q: こちらにいらっしゃってすぐにダイオキシン対策に関係する研究をされたということですが。
    貴田: ダイオキシン対策によって廃棄物焼却炉では、集じん装置や燃焼状態の改善が行われました。電気集じん機からろ布を用いたバグフィルターへ、集じんする前に温度を下げるなど工程の改善です。そのことが廃棄物中の重金属の排出状態も変えた可能性があり、検証を行いました。同一施設の対策前、対策後の燃焼状態で排ガスの分析を行いました。その結果、水銀については排出量が減少していましたが、その他の重金属排出量は変わりませんでした。研究ではその他、重金属の大気への年間排出量と廃棄物焼却での排出係数を推定しました。
  • Q: 水銀にも効果があったのですね。ところで排出係数はどのように生かされていますか。
    貴田: その後水銀の大気排出インベントリー研究につながりました。日本では重金属対策は終わったと思われていますが、とくに水銀は国際的な課題として注目されている残留性有機汚染物質(POPs)と同様、長距離移動、高残留性から、国際的に管理すべき物質になっています。しかし、日本は国際的にデータをまったく出していないのです。濃度規制もなく、論文も少ない状況でした。
  • Q: さまざまな産業施設からの排ガスの中の水銀量が把握されてなかったということですか。
    貴田: 把握されていなかったわけではないのですが、最近のデータはありませんでした。さまざまな産業から不純物として大量に大気に排出されているのですが、材料としての使用実態に関するデータがないため、排出源からの排出量が推定できるPRTR(化学物質排出移動量届出制度)では、水銀は過小評価されていました。ところが私たちが研究を始めた直後、海外の研究者から日本の年間排出量が140トンと世界で5番目に多いという推計の論文が出されました。私たちは集中的に研究を行い、石炭燃焼をはじめさまざまな廃棄物焼却、製造業も含むすべての排出量を推定し、年間25~30トンを得ました。この結果は2007年、国を通じて世界の水銀対策プロジェクトを推進しているUNEP(国連環境計画)に報告しています。
  • Q: だまっていたら、水銀の大排出国の汚名を着せられていたのですね。ところで、廃棄物問題として石綿が最近注目されていますね。貴田さんは、石綿についても無害化に関する研究をされているということですが、分析の面からのアプローチとして具体的にはどのような研究をされたのですか。
    貴田: 石綿含有廃棄物は飛散性のある吹き付け石綿とスレート、つまり瓦のような非飛散性のものを含めると、今後20年以上毎年100万トン程度出てくる可能性があります。現在石綿を含む廃棄物は高温溶融処理か二重梱包ののち埋立てることになっていますが、それだけでは立ち行かないのは明らかです。そこで環境省は高温溶融以外の無害化処理の開発を促すことを目的として大臣認定することとしました。たとえば、溶融処理では石綿をガラス化して、有害な針状構造をなくしてしまうというものです。ガラス化された溶融スラグが本当に無害かどうかは、石綿繊維が「無い」ことを確認しなければなりません。私が行った研究は石綿含有廃棄物の処理物中に含まれる石綿繊維を繊維数と重量とで判定する試験法の開発です。「無い」ことの確認は細い繊維も含めてすべてチェックしなければならないため、「ある」ことの確認より非常に困難です。どうやって行うか、いろいろな方法を検討しました。それで、やっとたどり着いたのが、透過型電子顕微鏡を用いる手法です。専門的知識が必要な方法ですが、前処理、計数、数値化までの試験法を決めました。
  • Q: 今後数十年に及ぶ建設廃棄物中の石綿対策の基本ができたのですね。まさに問題解決型研究の真骨頂ですね。では野馬さんの主な研究概要をお願いします。
    野馬: こちらに来た時に、ちょうどPCB特別措置法の関係で、PCBの処理を進めるためのさまざまな政策的なことも含めて分析面で関与してきました。PCB分解処理基準といいますか、この基準以下なら有害ではないという分解処理の卒業基準を判定する公定法、電気の変圧器に入っている紙や木などPCB含浸物の試験法などをつくりました。
  • Q: 公定法といいますか、試験法をつくるのは実際にどういうことを行うのですか?
    野馬: 試験法、つまり新しい分析法を確立するのはたいへんなことです。純粋なものを調べるのは簡単なのですが、何が入っているかわからない、しかもさまざまなものがたくさん混ざっている廃棄物を分析するのは実にたいへんなのです。調べる目的物を正確に測るためには、分析の前処理が必要です。PCB含有廃棄物の場合、測定の前にPCBと誤認識されてしまう妨害物質を除去しなければなりませんし、サンプル中からPCBを分離して測れるようにしなければなりません。さらにPCBは、209もの異性体がありますから、異性体個別の分析も必要となってきます。1つの物質を分析する方法を新たに確立するためには1年近くかかることもあります。
  • Q: 想像以上にたいへんなのですね。さてそのPCB、日本は化学処理が中心ですね。その辺の経緯と化学処理に関する分析面でのアプローチをお願いします。
    野馬: おっしゃるように日本ではPCB分解は主に化学処理で行われています。これは欧米が高温焼却処理によりPCB処理がほぼ終わっていることに比べるとかなり遅れていますが、カネミ油症の問題や焼却による廃棄物処理においてこれまで国民を裏切る結果となった不祥事がいくつか重なったため、住民反対などから焼却処理ができず、その他の処理法が模索されていたことが背景にあります。化学処理は1990年頃から技術開発が進み、PCBの分解は確認されていましたが、分解に伴う副生物などについては十分調べられていませんでした。処理によっては、分解過程でダイオキシンや他の有機塩素化合物などができる可能性があるのです。そこでPCBの分解が確認されている3つの化学処理に伴う分解経路や副生物に関する分析研究を行いました。詳細はサマリーをごらんいただきたいと思いますが、いずれの手法でも問題がないことが確認され、分析の面からも化学処理の安全性が裏づけられました。現在国内5カ所で行われているPCBの化学分解処理は、分析面での処理基準、安全性が確認され、初めて行われているのです。

5.今後の研究、将来期待すること

実験用のPCB紫外線分解装置の写真
実験用のPCB紫外線分解装置。真ん中の青白く光っているのが装置の心臓部の紫外線ランプ。
  • Q: 廃棄物といいますと、循環型社会における3Rが盛んに主張されています。しかし、循環できないものもあることをどこかで押さえていかないと、無理な3Rによって新たな問題も起きるという指摘もあります。有害物質、重金属あるいは化学物質は、3Rにちゃんとまわっていくものでしょうか。どこかで断ち切っておくべきものでしょうか。
    貴田: 前センター長の酒井伸一先生が、有害物質管理の基本をいっています。「クリーン、サイクル、コントロール」という3Cです。クリーンというのは使用制限です。サイクルというのは使えるものは管理して使う、リサイクルです。最後に使えなくなったものは環境排出をなくす、コントロールです。PCB、石綿、水銀は、リサイクルしても使えない、最終管理(コントロール)すべき物質だと思います。
  • Q: 無害化しても再利用を含めた環境への排出はしない方がよいという考えですか。
    貴田: 高温処理により完全に無害化し、石綿繊維のないスラグ状態になったものは利用できますが、処理に問題が起きる可能性もあります。そのため、連続して発生する処理物の安全性は完全に近いチェックが必要で一朝一夕に実現することは困難ですから、石綿については、ほとんど負の遺産、循環すべきではないものに近いと思います。

    野馬: 新しい技術を利用するときは細心の注意が必要です。実際にPCB処理では低濃度汚染が起きました。PCBを抜いたトランスの再利用、PCBを製造・輸送した同じ配管に新しい油を通した際など、洗浄しきれなかったPCBが低濃度で存在し、問題になっています。こうしたことは処理する過程で起こりやすいものです。
     また新たな有害性が見つかり基準が厳しくなることもあります。安全なレベルまで処理した有害物質も再度処理しなければならなくなります。ですからこういった有害物質は、基本的にはオープンなリサイクルはしない方がよいというのが私たちの考えです。
  • Q:最後に今後の有害物質管理のあり方やご自身の研究分野で期待するところについてお願いします。
    野馬: 今までは、使用済みになった製品の中に何が含まれているのかよくわかりませんでした。それらが結果として不適正な管理により負の遺産になって、新たに処理が必要になった事例があります。これからは廃製品をリサイクルができるものとリサイクルできないものを分けていくために、個々の廃棄物中に含まれる物質を把握することが必要です。現在まさにそのチェックシステムを製造過程、処理・処分過程、リサイクル過程に設け、実現性を探る研究を行っています。

    貴田: 廃棄物研究はしばしば後追いといわれます。新製品、新技術の開発はいつも先行しますが、最後の廃棄の面までの対策が考慮されていないことが多いのです。私たちも経済動向、開発動向をしっかり見据え、新たな技術開発で何が変わったのか、そのことによってプラスと同時に新たなリスクが起きないかを常に把握し、警鐘を鳴らす必要があります。

    野馬: 廃棄物の研究は、今や上流側(製品製造・流通)あるいは、より下流側(ごみ燃料・再生品製造)に広がっています。この広がった分野の方々にももっと廃棄物研究に加わっていただきたいですね。

    貴田: 廃棄物研究の周りには環境研究があります。国立環境研究所の利点は他の領域とともに研究ができますから、できるだけ連携して研究をやっていってほしいですね。自分と違う分野の目は大切だと思います。
  • Q: ありがとうございました。

コラム

  • 負の遺産
     私たちが利便性を求めて利用してきた化学物質は、その有害性が明らかになった時点ですでに多量に使われています。製造や使用が禁止になったとしても、それらを含む製品や汚染された土壌・底質などはすぐに処理することができません。どれだけ処理すべきものがあるのか、どのような技術で処理するか、経費をどうするか、といった課題があるからです。次世代にわたり人や環境に負の影響を及ぼす可能性が高く、「永続的に環境から遮断して管理する必要がある」物質を含む廃棄物や汚染土壌などを「負の遺産」と呼びます。

     PCBや石綿以外にも、すでに製造・使用が禁止された農薬類(毒性があり、環境中で分解が難しく、また生物に蓄積しやすい性質を持つもの)、不法投棄された堆積廃棄物、工場跡地における汚染土壌などがあります。

     「負の遺産」は、循環型社会において、「3R」、Reduce(リデュース:減らす)、Reuse(リユース:再使用)、Recycle(リサイクル:再生利用)を進めていく上で、最終段階でリサイクルの環に乗らない、乗せてはならない物質を含むものです。身の回りにある様々な機能性物質、それらが将来「負の遺産」にならないよう化学物質への対策を行うため、使用実態・毒性・廃棄過程を含む環境動態など多方面からの研究が必要です。
PCB関係年表、石綿関係年表
  • 溶出(試験)
     物質が水などに溶け出すことを溶出といいます。廃棄物に含まれる有害物質は、土壌を通じて地下水に溶け出したり、雨水によって流出するなど環境への影響が考えられます。埋め立て処理した廃棄物に有害物質がどれだけ含まれているか測定する際に、当初は水を介した影響を想定して水に溶け出す有害物質の量を測定する方法が行われました。他には酸やアルカリによる影響を想定し、それらを添加した測定方法もあります。
  • 石綿(アスベスト)
     石綿は、繊維状けい酸塩鉱物の総称で、「せきめん」「いしわた」と呼ばれ、蛇紋石や角閃石などが地中で熱水によって変性し繊維化したものです。耐熱性、防音性に優れ、建設資材をはじめ、電気製品、自動車部品、家庭用品など多くの産業分野で幅広く使用されてきました。

     代表的なものには、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)がありますが、2004年にすべての種類の輸入・製造・使用が禁止されました。単繊維の太さが約0.1μm以下(1μmは1000分の1mm)で飛散性が高く人が吸い込みやすいため、肺線維症(じん肺)の一種である石綿肺、悪性の腫瘍である悪性中皮腫、肺がんなどを発症することがわかっています。

     日本では2005年6月にクボタ旧神崎工場(兵庫県尼崎市)で周辺の一般住民に被害が及んだことが注目され、2006年2月に「石綿による健康被害の救済に関する法律」と被害防止のため石綿の除去を進める関連3法(改正法)が成立し、石綿による疾病発症患者の救済対策が今も行われています。
写真2点 左:繊維状の石綿原石 右:石の中心部を左右に走る白い線の部分が石綿
写真3点 左:溶融炉、溶融状態 中央:溶融スラグ(冷やし方で砂状(上)と塊状(下)ができる) 右:二重梱包された吹き付け石綿の廃棄物
  • 過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)による分析
     電子顕微鏡は光(可視光)よりも波長が短い電子線を用いることで、光学顕微鏡に比べて分解能(どれだけ小さいものが観察可能か)を高くすることができ、1万倍以上に拡大して観察することができます。

     TEM(右)は観察対象に電子をあて、それを透過してきた電子から得られる像(影)をみます。走査型電子顕微鏡(SEM(左))は観察対象に電子をあて、発生する2次電子を像として観察するものです。拡大倍率はTEMが数十万倍、SEMが数万倍です。もっとも細い石綿の単繊維の幅は0.02μmですから、1mmの幅で観察するためには5万倍に拡大する必要があります。TEMでは、結晶構造を持つ粒子に対して電子線回折像パターンから鉱物の同定ができます。石綿は結晶性の鉱物で特有のパターンを持つからです。さらに電子線を試料に照射したとき、含まれる原子から発生する特性X線の強度をエネルギー分散型測定装置(Energy Dispersive Spectroscopy:EDS)により測定し、試料にどのような元素がどれだけ含まれるか、また元素の分布も調べることができます。SEMでは粒子の下にある繊維は見えませんが、TEMでは観察可能で、より確実な石綿繊維の計数ができます。
写真2点 左:SEM観察像 右:TEM観察像
  • POPs、POPs条約(ストックホルム条約)
     残留性が高いPCB、DDT、ダイオキシン等の残留性有機汚染物質(POPs)とそれらを含む廃棄物について、国際的に協調して製造と使用の禁止、輸出入の禁止、廃絶を目的とした削減を行い、適正な管理をしていくことを目的に2001年に採択されました。日本は2002年に締結しています。
    なお、条約締結国は条約に記載された物質の他にも、同様の性質を持つ物質の管理や処理および関連する研究の推進を求められています。
  • インベントリー(Inventory)
     インベントリーとは、もともと商品や財産などの目録および目録作成のための調査や棚卸を意味する言葉。ここでは「排出インベントリー」すなわち有害物質について発生源ごとの排出量をまとめた目録を指しています。
コプラナーPCBの模式図
  • PCB(ポリ塩素化ビフェニル)
     PCBはベンゼン環が2つ結合したビフェニルに含まれる水素が塩素に置換した物質の総称です。置換した塩素の数や位置が異なる異性体が209種類あり異性体を区別するため、#1から#209が国際的に共通した番号としてつけられています。

     PCBは無色透明で化学的に安定した物質です。その性質は耐熱性や電気絶縁性、非水溶性などに優れていたため、変圧器やコンデンサ、安定器などの電気機器の絶縁油や熱交換器の熱媒体、感圧紙、塗料、印刷インキの溶剤などに幅広い用途で利用されてきました。

     一方脂溶性で生体内にも取り込まれやすく残留性が高いため、慢性的な摂取により皮膚障害などの症状を引き起こしました。日本では1954年から生産され、1972年までに約5万4千トンが生産され使用されました。しかし1968年にPCBが原因の1万3千人以上の中毒患者が生じたカネミ油症事件が起きるとその毒性(もっとも危険なコプラナーPCBはダイオキシンの1/10の毒性)が大きな社会問題となり、1973年に制定された化審法により製造、輸入、使用が禁止されました。

     1991年には廃棄物処理法が改正され、PCB廃棄物は人の健康や生活環境に対する被害のおそれのある「特別管理産業廃棄物」に指定され、2001年に成立したPCB特別措置法でやっと化学処理の道筋ができました。