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「微細藻類の研究動向」「リモートセンシングの技術」

研究をめぐって

 この号ではミクロの目で水中の微細藻類に迫る研究と、リモートセンシングという空からの目を生物の観測に生かす技術を紹介しています。このページでは、それぞれの研究動向と技術の概略をご紹介します。

ミクロの目:船舶による藻類の越境移動の検出

世界では

 人が関わる生物移動は、自然の移動と比べて、長距離を短期間に起こることがあります。また途中の地域・海域を飛び越えるような分断的な移動が起こりうるのも、人間による移動の特徴です。船舶による海洋生物の移動もその典型的な例です。船体付着によるものとバラスト水によるものに分けられます。バラスト水は、大型輸送船舶などが安定して航海するために重石として積載する海水のことで、通常、積み荷を下ろして軽くなる時に港の海水をバラスト水として取り込みます。バラスト水は1cm程度のメッシュを通して取り込まれますので、魚や海藻などの大型の海洋生物は入りませんが、微小な生物はそのままタンク内に入り込み導入されますし、大型の生物であっても海藻の切れ端や、動物の卵や幼生などもタンク内に取り込まれることがあります。バラスト水を積載した船は、目的港に向かって航海し、港で貨物を積み込む際に、積荷量に応じてバラスト水を排水します。その際に、いろいろな海洋生物が本来の生息場所でない海域に定着する可能性が危惧されています。黒海では、北米から移入したクシクラゲ類によってアンチョビー漁業が壊滅状態に、また北米西岸では、東アジアから移入したカイアシ類によって在来種が絶滅に瀕するなど、沿岸生態系に大きな影響を与えています。資源輸入国である日本は圧倒的なバラスト水輸出国でもあります。

 バラスト水による海洋生物の越境移動の問題やバラストタンク内の生物多様性に関する調査研究は、沿岸生物の拡散にバラスト水が関与する可能性が1985年に指摘されて以来、次第に行われるようになりました。大別すると、タンク内の生物量や種類を航海中に経時的に追跡する研究と、港湾に停泊中にタンク内の生物多様性について調査した研究が挙げられます。タンク内の堆積物からは、高頻度に植物プランクトンのシストや繊毛虫などの原生動物が検出されています。これらの中には培養処理で生存・増殖が確認されているものもあり、バラスト水の排水時にも生きたまま排出されている可能性が高いと考えられています。

 これまでの調査で、バラストタンク内に大量に特定の生物が保持される可能性は十分にあり得ることがわかってきましたが、偶発的な現象によって引き起こされている可能性があります。様々な海域において、異なる時期に調査を行ってその全容を把握した研究はありません。特に、赤道を越える北半球‐南半球航路は調査されてきませんでした。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では、環境問題を引き起こす藻類に関する研究が長年に渡り行われてきました。また培養実験や分子生態学的な研究を行う際の標準試料として必要とされる保存株がカルチャーコレクションとして系統保存されています。藻類を対象としたモニタリングの実績がありますし、形態の観察のみならず、DNAの解析技術を活用した精度の高い調査・研究アプローチが行える設備と体制が整っていて、様々な研究プロジェクトに対応してきました。また、長年に渡る商船を利用した海洋汚染の観測(環境儀No.23)や海洋観測等の実績もあります。こうした海運会社との協力関係をもとに、またバラスト水や船体付着についての国際的な動向を踏まえて、船舶を介した海洋生物の越境移動に関する調査が行われてきました。

 船舶を介して越境移動する海洋生物は多岐に渡っていて、また各海洋生物の専門家だけでなく、船舶のオペレーションや構造に詳しい専門家の参加も不可欠です。外国航路の大型船舶の付着生物やバラスト水の調査を実施すること自体に様々な困難や多くの経費が必要であることから、複数の研究機関と共同で、日本とオーストラリアを結ぶ航路のバラ積み船などの大型輸送船を対象として、対象生物を分担したり、船体付着とバラスト水という異なる媒体を分担したり、異なる手法でアプローチするといった形で研究を進めています。

空からの目:リモートセンシングの歴史と生態系観測への応用

世界では

 1800年代に写真が発明され、フランスのナダールが熱気球によるパリ上空の撮影を試みたのが空中写真の始まりとされています。その後の空から見る技術の発達は、軍事目的と密接にかかわっています。二度の世界大戦の中で、空中撮影は敵国の偵察手段として急速に発達しました。冷戦時代に入ると、アメリカは偵察用の特殊カメラで高々度(最高25000m)からの偵察撮影を開始しました。キューバ危機では、U-2機によるキューバ島の偵察撮影により、アメリカ本土を射程内とするミサイルの存在を発見し、軍事的緊張が一気に高まったことは有名です。一方、1960年代になると偵察を目的とした偵察衛星がアメリカをはじめ各国で打ち上げられるようになりました。1972年に、米国は地球資源技術衛星を打ち上げ、これが後に地球観測衛星LANDSATとして広く知られるようになりました。

 1990年代に入ると、IKONOSやQuickBirdなどの数十cm~1m程度の高解像度を持つ民間の高解像度衛星が打ち上げられるようになりました。これらの衛星から撮影された画像はGoogle MapやGoogle Earthでも使われています。

 無人航空機とは無線操縦の飛行機やヘリコプターのことで、ホビー用途のラジコンヘリをはじめ、軍事目的で使われる大型のものから手のひら大のものまで様々な形態のものがあります。近年、位置を計測するGPSや、姿勢制御に必要なジャイロや加速度計の小型化、高性能化により、自律飛行も可能となってきています。

日本では

 日本全国を対象とした航空写真の最初の撮影は、第二次世界大戦後のアメリカ軍によるものです。以降、公共測量としての空中撮影は、平地部を国土地理院が、森林部分を林野庁及び都道府県が担当し、5年おきに撮影されて地形図の作成や森林管理などに用いられています。撮影には幅23cmの大きなフィルムを用いたカメラによって行われてきましたが、近年は搭載カメラのデジタル化が進められており、地上での解像度が10cmよりも細かく、また写真の位置情報・機体の傾きなどを計測する機器も同時に搭載され、撮影後の写真の補正や位置合わせなどが容易となっています。また、植物の葉の量を反映する近赤外線の同時撮影が可能な機種も登場しています。

 日本の無人航空機は産業用途として発展してきました。たとえば農薬散布にはヘリコプターが一般的で、GPSにより散布コースを設定できるものも登場しています。また、災害時における被災状況の調査をはじめ、有人機では危険を伴う火山活動調査などにも無人航空機が利用されています。ラジコンヘリにデジタルカメラを搭載して、セスナ機等による空中撮影よりも安価で空撮を請け負う業者も少なくありません。

国立環境研究所では

 生態系に関係したリモートセンシング研究に関する取り組みは、旧公害研時代から霞ヶ浦のクロロフィル量の面的分布の把握に、いち早くリモートセンシングを取り入れるなど、長い研究の蓄積があります。地球温暖化や森林減少のような地球規模の環境問題に対処するため、光学センサーやマイクロ波センサーなど様々な種類の衛星データを用いて、植生分布、土地利用、地表面温度などの地上環境の現状と変化の解析も行っています。

 このような解析結果から、植生の種類、変化、生産量などを推定し、地球環境における陸上植生の役割の解明に役立てることができます。なお、本号で紹介している、稀少植物の分布の推定手法は、空から直接見えるものに基づいて、見えないものの分布を推定するという点に特徴があります。