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2011年7月31日

二酸化炭素の全球の吸収・排出量を地域ごとに推定するための研究

Summary

 国立環境研究所で行われている炭素循環に関する研究は、これまで航空機や船舶、地上観測設備を用いて得られた温室効果ガス観測データを利用して進められてきました。近年、観測データの質の向上や、人工衛星GOSATからのデータの蓄積にともない、コンピュータシミュレーションによりCO2の全地球表面における吸収・排出量を地域ごとに分けて推定することが可能になってきました。

 地域別の吸収・排出量をコンピュータシミュレーションにより推定する研究に関心が集まるようになった理由の1つに、陸上の植生によって貯蔵される炭素量の変動に対する知見の乏しさがあります。森林や農耕地に蓄えられる炭素量を広域にわたって求めるための地上測定システムの確立は非常に困難ですので、広大な地域における炭素量の変動は森林面積などの統計情報をもとに評価されています。当然、これらのデータの精度は限られたものですし、京都議定書に定められるような温室効果ガス排出量削減の国家的責務の議論に資するには、既存の調査データだけではまだまだ不十分です。そのため、京都議定書の採択を機に、国別では無理であるとしても、陸域植生と大気との間や、地球表面の大半を占める海洋と大気との間のCO2の交換量を全球規模でより効率的に求める手段として、インバース(逆推定)モデル解析法が関心を集めることとなりました。この手法では、まず陸域植生や海洋の炭素循環モデルが予測する地表面のCO2吸収・放出量のデータや化石燃料の消費による人為的排出量データをもとに、大気輸送モデルを用いてCO2濃度を全球にわたって計算し、次にこのシミュレーション濃度が地上に分布する測定点での観測濃度に最も近くなるように、全球濃度シミュレーションで使用した吸収・排出量データを調節(最適化)します。このように最適化された吸収・排出量データがインバースモデル解析によるCO2の吸収・排出量の推定値となります。この手法によって、北米中緯度域やアフリカ乾燥域といったような全球の亜大陸規模の地域におけるCO2の吸収・排出量が推定されるようになります。

 しかし、この手法に関わる研究者らは、これまで主に2つの問題を抱えてきました。1つは吸収・排出量の最適化に必要な測定データを提供する地上測定点の数の少なさと地理的な偏りです。地上測定点では大気試料のフラスコサンプリングや現場での連続測定によってCO2濃度の観測が行われていますが、全球で100点余りの観測所のほとんどは米国やヨーロッパなどの先進国に集中していて、現在に至ってもアフリカ、アジア、南米などは地上測定の空白域となっています。このため、インバースモデル解析によって推定されるこれらの地域におけるCO2の吸収・排出量には大きな不確実性が伴っていました。そこで各国の宇宙機関では、地上測定網の隙間を埋め、観測データ数の飛躍的な増加を図るために、人工衛星により温室効果ガスを観測するプロジェクトが発足し、2009年には日本のGOSATが打ち上げられました。GOSATによるCO2の全球濃度分布データは、地上測定データと併せて用いられることにより、インバースモデル解析による地域別吸収・排出量推定の精度向上に大きく貢献すると期待されています。

 2つ目の問題は、大気輸送モデルによるCO2濃度の全球シミュレーションの精度に関わる事柄です。大気輸送モデルによる大気中濃度の再現性の良し悪しは、大気中での物質輸送の計算法の妥当性と、計算に用いる地表面での吸収・排出量データの正しさに依存します。例えば国立環境研究所の大気輸送モデルでは、都市周辺での複雑な大気輸送のプロセスや、5、6年を要する成層圏での大気の混合プロセスを精度良く再現するために、大掛かりな改善が施されました。また、これら大気輸送プロセスに関する問題とは別に、CO2濃度の全球シミュレーションの精度向上には、シミュレーションで使用される陸域植生や海洋のCO2吸収・放出量のデータおよび人為的排出量データの精度の向上が重要です。これまでは年々の変動や、中には季節変化も考慮されていないデータが使用されていたため、全球の濃度シミュレーションには限界がありました。大気輸送モデルがCO2の吸収・排出源の空間的分布(陸域の植生の広がりや人為的排出源などの地理的分布)と吸収・排出量の時間変化を適切に反映したものとなるように、陸域植生の炭素循環モデル、海洋の炭素循環モデル、人為起源排出量データのそれぞれを高精度化する必要がありました。

 陸域植生の呼吸と光合成により、大気中のCO2濃度は季節変化し、北半球では冬季と真夏との差違が20ppmを超える場所もあります。全球規模でのこの変動幅と変化の位相を陸域植生の炭素循環モデルで再現するために、国立環境研究所では高分解能陸域植生モデルVISITを開発し、さらにこのモデルが扱う植生活動に関する主要なパラメータを森林バイオマス量などの地上測定データをもとに最適化するシステムを構築し、陸域植生による吸収・放出量のデータの精度の向上を図りました。

 これまでは、海洋-大気間のCO2の吸収・放出量データとして、船舶によるCO2の観測データをもとに作成された気候学的なデータが国際的な研究者コミュニティで使用されていましたが、国立環境研究所では、海洋輸送・生物地球化学モデルシステムOTTMを開発し、海流の変動やエルニーニョ・サイクルによる影響などによって引き起こされる海洋-大気間の吸収・放出量の変化を準リアルタイムでシミュレーション計算をすることが可能となりました。

 化石燃料の消費によるCO2の人為的排出量の世界的な分布は、国別の年間合計値として公表されていますが、各国の領土における排出量の詳細な分布はほとんど公表されていません。このため、世界中の発電所のデータベースCARMAと、人間活動の規模の指標となる衛星観測による全球の高精度夜間光データから、月ごとの変化を考慮した人為的排出量データODIACを世界に先駆けて作成しました。

 国立環境研究所GOSATプロジェクトでは、これらの高精度化された吸収・排出量データと、地上測定値にGOSATによるCO2濃度の全球分布を加えたデータを用いて、64の亜大陸地域における月ごとの吸収・排出量を推定し、これをGOSATレベル4プロダクトとして研究者や一般利用者に提供することにしています。

(略語解説)

図7(a)
図7(b)
図7(c)
図7 国立環境研究所で開発された大気輸送モデルを構成するCO2吸収・排出量データの3つのコンポーネント
(a) 化石燃料の消費によるCO2の主な排出源は、火力発電所、自動車、一般家庭です。人口密集度は宇宙から観測される夜間の光量から推定されます。
(b) 海洋に接する大気中のCO2は海水に溶け、海流によって運ばれます。概観として高緯度(低温)では吸収源となり、熱帯(高温)では海洋生物の活動の影響も受け排出源となっています。
(c) 陸上の植物は大気中のCO2を吸収し、バイオマスを生産します。一方、落葉や倒木の土壌での分解はCO2を排出します。陸域生態系でのバイオマスサイクルの速さは、植生のタイプと気候に依存しています。陸域植生モデルVISITは光合成やその他のプロセスを模擬し、陸上の植生-大気間の吸収・放出量を推定します。

図8
図8 地上観測データとGOSATデータを用いて推定されるCO2の地域別吸収・排出量の例(2009年7月の予備結果)。なお、陸域と海域では色による吸収・排出量の目盛りが異なることに注意を要する。北半球では光合成が活発なため、CO2を吸収している
Summaryに示されるようなインバース(逆推定)モデル解析法により、地上観測データやGOSATの観測データを用いて、CO2の全球の吸収・排出量が月別に推定されます。熱帯域やアフリカ、南米などは地上観測網の空白域ですが、GOSATの観測によって、これらの地域のCO2濃度データが得られることにより、インバースモデル解析による地表面CO2吸収・排出量の推定精度が向上します。

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