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2013年10月31日

地理情報の上に展開する新たな環境多媒体モデルの研究

Summary

 この研究を始めた当時、化学物質の環境動態モデルの中で地理情報を反映するモデルはほとんどありませんでした。すでに存在した欧米の環境多媒体モデルは化学物質の性質を反映するのには優れている一方で、川があり地形がありの現実の環境を再現するには単純すぎました。国内でも例の多い大気モデルは、大気以外の媒体を扱うことが出来ず、また、化学物質の性質を反映することが難しいなどの問題がありました。この研究は、現実の環境を表す地理情報の上に、化学物質の性質をよく反映できる多媒体モデルを展開することを目指して開始しました。

河川の地理情報の課題と構築

 最初の課題は河川の地理情報の構築でした。地面には地形があり、地上にある化学物質は地形に従って移動し、川に入って流れていきます。そこで、国土地理院の国土数値情報にある小流域と河道のデータを基にして、流域と河川の流れを計算可能なデータとして構築する検討を進めました。

 また、国土数値情報では河道ネットワークに接続されていない湖沼を河道と流域に対応させました。あわせて、河道ネットワークを流れる河川流量を各河道に設定し、河川流域ごとの代表的な流出高1)を観測値から推定して設定しました。

 ここで設定した流量は、人間活動による用排水を無視したほぼ自然に近い状態の河川流量の推定値と考えられ、実際の流量とは異なる可能性がありますが、モデル計算を可能にするための最初のデフォルト値と考えています。これらの成果を2003年に河道構造データベースとして発表しました。

河川モデルの最初の試み

 作成した河道構造を用いた最初のテストとして、河川の流下のみを扱うモデルを作成してケーススタディーを行いました。信濃川流域において、除草剤モリネートの使用量のうち河川に流入する量を簡易的に推定し、これが構築した河道ネットワークを流れて下流に向かう様子の再現を試みたものです(図9)。計算で求めた結果は、文献で報告されている河川水の観測値とおおよそ一致しており、河道流下のモデル計算が可能であることを確認しました。

図9
図9 信濃川流域を対象として河川モデルの最初の試み
左は除草剤モリネートの流域ごとの排出量の簡易な推定結果、右はその結果から各河道における河川濃度を計算し、河道の色として表現したもの。この段階ではモデルは定常モデルであって排出量の時間変動などは扱うことができず、多媒体過程の組み込みも不十分であった。ただ、この計算でもSite1 ~ 4 の地点における河川濃度とおおむね一致する推定濃度が得られ、モデル開発の方向性が問題ないことを確認した。

GIS環境多媒体モデルの構築

 河道流下のモデルを拡張して、次いで大気、土壌や底質、海域までを含む環境多媒体のモデルG-CIEMSを開発しました。図10に示すような河道のモデル化とともに、グリッド構造に分割した大気モデルと、河道ネットワーク構造に基づく河川モデル、河道に対する小流域からの流出などを組み合わせて化学物質の多媒体間の動きを地形の上で再現しようとするものです。

 モデルは、一般的な環境多媒体モデルが扱う諸過程をすべて含み、同時にグリッド、流域、河道や海域など形の異なるデータ間の動態をそれぞれの間の射影面積を用いて物質保存を維持するよう計算するというものです。河道の長さは全国平均で5.7km、小流域の面積が平均9.3km2、大気グリッドの大きさが平均5×5kmなどとなり、これがモデルの地上の分解能になります。

 完成したモデルを用いてダイオキシン濃度の計算を行い、そのうち大気と河川水濃度についてモデル予測値と実測値の比較を行った結果を図11に示します。モデルで計算した各媒体のダイオキシン濃度の分布と実測値はおよそ1桁以内の差であるという結果が得られました。

 完成したモデルを検証する一つの方法として、世界のほかのモデルと性能を比較する国際モデル比較研究にも参加しました。モデルの計算プロセスおよび計算結果を一つずつ比較した結果、G-CIEMSモデルの計算は世界のモデルと同等であることが示されています。

図10
図10 単位河道を基礎とするG-CIEMSの河川のモデル化の概念図
このような流域と河川の構造の上に、大気や海域までの多媒体動態を重ね合わせて計算を行う。
図11
図11 ダイオキシン大気濃度のモデル予測値と観測値の比較

新たな課題に向けて

 新たな技術的課題として、イオン化合物にモデルを拡張しようとしています。これまでのモデルはイオ
ン解離しない有機物2)を対象としており、モデルの中でイオン平衡は考慮されていません。しかし、近年関心が持たれるPPCPs3)や農薬などにはイオン性物質(イオンを解離する物質)が多数存在します。また、緊急の重要課題として放射性物質への応用も進めており、それらに必要となるイオン性物質へのモデル拡張の開発を新たな課題として進めています。

 このほか、一般に公開しているユーザーインターフェースの改良、別に進めている排出推定モデルとの連携など継続的な改良や開発を進めています。

1)単位面積当たり流出する河川水量。ここでは流域ごとに観測された河川流量と面積から判断して設定している。
2)水中に溶けた際にイオンとなる物質ではモデルの中にイオン平衡の式を取り入れる必要があるが、G-CIEMSを含めほとんどの多媒体モデルではこれまで考慮されていなかった。
3)Pharmaceuticals and Personal Care Productsの略。医薬品や家庭用品に含まれる化学物質を総称する。

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