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2014年1月31日

定期旅客便を利用した温室効果ガスの観測

研究をめぐって

このような定期旅客便を使った観測は日本だけなのでしょうか。ここでは世界で実施されている同じような観測プロジェクトの動向やCONTRAILとの関わりについて紹介します。さらに、CONTRAILで得られたデータを活用する取り組みについても説明します。

観測の様子

世界では

 定期旅客便を使って定常的に大気の観測を実施しているのは世界でCONTRAILだけではありません。欧州連合ではフランスの研究機関を中心として、上空のオゾンとオゾンを生成する化学反応に関係のある一酸化炭素や窒素酸化物を観測するMOZAICプロジェクトを1993年より実施しています。MOZAICではCMEと同様に、旅客機に測定装置を搭載して機上で連続的に大気を測定しています。もう1つの観測はやはり欧州連合で、ドイツの研究機関を中心としたCARIBICというプロジェクトです。CARIBICは旅客機の荷物用コンテナ2個分を丸々借り切って、そこに大気中のオゾンを始めとする気体成分や粒子状物質の測定装置、光学的大気測定装置、大気サンプリング装置などが詰め込まれていて、様々な成分を同時に観測します。さながら空飛ぶ観測所です。これだけ大きい装置ですと毎日搭載するわけにはいかず、月に1回、ドイツのフランクフルト空港から2往復だけの観測を行っています。

観測域と回数
図9 2009年時点でのMOZAIC、CONTRAIL、CARIBICの観測域と観測回数

 MOZAICは欧州連合の予算を獲得してIAGOSというプロジェクトになり、現在ではCARIBICもこの傘下に入りました。今では旧MOZAIC観測をIAGOS-CORE、CARIBICをIAGOS-CARIBICと呼んでいます。IAGOS-COREではCONTRAILの活動に影響を受けて温室効果ガスの測定装置の開発を始めました。2013年中には欧州の航空会社が運航する便に搭載される予定です。これまで上空の二酸化炭素濃度の観測は日本のCONTRAILが世界をリードしてきましたが、いよいよ競争の時代に入ろうとしています。

日本としては

航空機内に観測機を設置する様子

 しかし、定期旅客便を使った観測活動は同じ成分を測るといっても単純な競争とはなりません。JALの観測空域は日本から出て北半球を東西に向かう路線と日本と同じ経度帯で南北に飛ぶ路線の「T字型」を作っています。このように日本の航空会社はアフリカや南米、それに大西洋上の路線は持っていません。同じように欧州の航空会社は太平洋を横断するような路線やオーストラリアに向かう路線は持っていません。1国や1地域の航空会社だけでは世界を網羅するような観測は難しいのです。もし日本と欧州の航空会社がお互いの空白域をカバーし合えば、地球を1周するような観測空域ができあがります。

 CONTRAILではIAGOSをある意味ライバルだと思っていますが、ともに世界観測網を構築するパートナーであるとも捉えています。従ってIAGOSとは極めて密な関係を保っており、観測機器の開発や搭載承認の取得に関する技術的情報はお互いに提供し合っています。まもなくIAGOSの二酸化炭素観測が始まりますが、まずは日本と欧州を結ぶ路線で取得したデータを交換して相互比較を行う予定です。そして将来は両者のデータを合わせて世界の上空をカバーするデータセットを作り上げて、炭素循環や大気輸送の研究を大きく発展させたいと願っています。

 一方、CONTRAILでは観測で得られた膨大な量のデータの利用促進にも力を入れています。まずは「日本が取ったデータはまず日本で使いたい」という方針のもと、日本の研究者を集めて「航空機データ利用小委員会」を組織しました。この委員会は年に数回開催し、初期の会議ではCONTRAILではどのようなデータが取れているのかの紹介に力点を置きました。会を重ねるごとにデータを利用した研究の中間報告が増えていき、それらに刺激を受けてさらにデータ解析が進んでいきました。最終的にこの委員会の関係者からは15編の学術論文を出すことができ、当初の目的を達成することができました。

 CONTRAILの活動状況はJALやJAL財団によりホームページを通じて一般に公開しています。2012年には研究者向けのホームページを、環境研の地球環境研究センターのページの一部として開設しました。こちらのページは、国内外の研究者に読んでもらうように英語で作られています。

 CONTRAILデータは、現在データ利用指針に従って世界中の研究者に配付しています。データ利用指針は当初はメールベースで配付していましたが、現在では上記ホームページから誰でも取得できるようになっています。これまでに世界15カ国から約100件のデータ利用申請を受けています。

国立環境研究所では

 CONTRAILは官民5機関が共同で実施していますが、運営の主体となるPI(Principal Investigator)は環境研と気象研が担っており、両者が協議して方針を決めています。その中で環境研は全体の代表としての取りまとめや、外部から研究予算を獲得する際の課題代表を務めています。また、環境研の町田はCONTRAILプロジェクトを代表してIAGOSプロジェクトのアドバイザーをつとめており、年に1回のIAGOS関係の会議に出席して観測手法やデータ利用についての助言を行っています。

CONTRAILプロジェクトに関する情報源

プロジェクトホームページ

ふたつの環境賞を受賞!

環境賞の盾と賞状を持ち集合写真
日韓国際環境賞の集合写真
環境賞の盾(上写真)と日韓国際環境賞の表彰式に臨んだCONTRAILプロジェクトチーム(下写真)

2013年にはCONTRAILの活動に対して2つの大きな賞をいただきました。1つめは日立環境財団と日刊工業新聞が主催する環境賞の「環境大臣賞/優秀賞」です。続いて毎日新聞社・朝鮮日報社が主催する「日韓国際環境賞」にも選ばれました。いずれも環境問題の解決に向けた炭素循環研究に大きな貢献があることと、官民共同プロジェクトの良い例となっていることが評価されたとのことです。これらの受賞によってCONTRAILが社会的に認めていただいたということがまずうれしいですし、ともに苦労をしてきた日本航空、ジャムコ、JAL財団の皆さんに少しでも恩返しができたことを喜ばしく思います。

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