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2015年12月28日

継世代影響のメカニズム:エピジェネティクスと突然変異

コラム3

図4:継世代影響のメカニズム
化学物質に曝露された胎児の生殖細胞のゲノムでひきおこされるエピジェネィック修飾などの変化が継世代的に引き継がれ、影響を及ぼす可能性があります。

 母親(図のF0)が妊娠中に化学物質の曝露を受け、その化学物質が胎盤を通る場合には胎児(F1)にまで到達し、胎児も曝露を受けます。さらに、胎児に到達した化学物質は胎児の体内の生殖細胞、すなわち孫世代(F2)をつくる細胞にも到達し、そこで曝露を受けた生殖細胞に何らかの変化をおよぼす可能性があります。その後は、ある量の化学物質がF1の生殖細胞内に存在しても、その生殖細胞が受精してF2が生まれると体の体積は生殖細胞とは比べられないほど大きくなるため、F2体内の化学物質の濃度は無視できるほど低くなり、F0世代が曝露された化学物質そのものはその後の世代に伝わりません。一方、直接曝露を受けたF1の生殖細胞から生まれたF2世代には化学物質は伝わらなくても、何らかの影響があらわれる可能性があります。さらに、母親(F0)の妊娠中に化学物質の曝露を受けたことによって、F3以降の世代にも影響が出る例が報告され始めています。F2にあらわれる影響を継世代影響ということもありますが、最近の整理では、妊娠期に曝露を受けた母親のF2世代にあらわれる影響を多世代影、F3以降に現れる影響を継世代影響ということが多いようです。それらの多世代・継世代影響のメカニズムとして可能性が高いと考えられるのが、化学物質によってF1胎内の生殖細胞のゲノムでひきおこされるエピジェネィック修飾変化です。また頻度は低いものの突然変異の関与も示唆されています。

 F1生殖細胞でおこった突然変異は、そこから生まれるF2個体の、生殖細胞を含むすべての細胞で複製されるため、F2生殖細胞に引き継がれ、F3以降の世代にも受け継がれます。遺伝子の突然変異によって、そこからつくられ るタンパク質の機能が変化し、その機能が個体にとって重要だった場合、その個体に突然変異の影響が出ることになります。

 一方、近年注目されているのが、化学物質のエピジェネティック作用です。胎児(F1)の体内で生殖細胞ができる際に、エピジェネティック修飾が一度リセットされ、また再構築されます。これらのエピジェネティック修飾は生殖細胞の発生をプログラムしていると考えられます。この時期に化学物質によってエピジェネティック修飾が書きかえられると、発生プログラムが書きかえられ、F2に影響がでると考えられます。ところがこの生殖細胞のエピ ジェネティック修飾変化は、F3やそれ以降の生殖細胞に受け継がれることが報告されています。しかしその具体的な分子メカニズムはまだ明らかにされていません。