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2016年3月31日

環境と暮らしの未来が見える地域づくりを目指して

Interview 研究者に聞く

 国立環境研究所は、東日本大震災からの復興とともに、さらによりよい地域づくりを目指す地方自治体を支援する研究を様々なスケールで進めてきました。福島支部準備室環境創生研究プログラムの五味馨さんと中村省吾さんは、環境にやさしい復興まちづくりに関する研究を進め、被災地の環境回復と創生を目指しています。その中で、福島県新地町が取り組む情報通信技術を活用して低炭素化や高齢化対策等のまちづくりを進める構想や、復興の先を見据えた総合計画の策定に協力しています。

五味 馨の写真
五味 馨(ごみ けい)
社会環境システム研究センター
持続可能社会システム研究室研究員
中村 省吾の写真
中村 省吾 (なかむら しょうご)
社会環境システム研究センター
環境経済・政策研究室研究員

まちづくりに寄り添った臨機応変な研究を目指して

Q:いつ研究所に赴任したのですか。

五味:私は2014年の4月に国立環境研究所に赴任しました。以前いた大学では、地球温暖化対策のシミュレーションをしていました。

中村:私は五味さんから1か月遅れて赴任しました。五味さんが少しだけ先輩になります。私は農業工学の1分野である農村計画学を専攻し、中山間地域の活性化について研究していました。

Q:国立環境研究所に来てからすぐにこの研究を始めたのですか。

五味:はい。私たちは、震災復興支援の研究プロジェクトを推進するために赴任しましたからね。4月1日に着任すると、その2日後には新地町にいくことになりました。まだ状況をよく把握していなかったのですが、その日に自治体担当者との打ち合わせに参加したのが始まりです。

中村:私が着任したときは、新地町との連携がかなり進んでいました。復興が進んでいく町の状況は刻一刻と変化していますから、変化に合わせてその都度何をやるべきかを考えています。

五味:目標は見据えつつも、現場に合わせて柔軟に動いていく感覚ですね。

中村:たしかに臨機応変に対応していく感じはありますね。

Q:新地町を初めて見たとき、どんな様子でしたか。

五味:避難している方々はまだいますが、震災から3年たち、町は落ち着いているように見えました。町役場周辺の整備は進んでいましたが、その反対側を見ると津波で流された跡に平地が広がっていました。津波被害の大きさを想像すると強烈な印象を受けました。実際には瓦礫の撤去などが進み復興の第一段階を経過した時期だったのですが。

中村:現在は、高台地域への移転が始まっています。駅舎と線路に甚大な被害のあった新地駅は2016年末に再開予定です。そして、駅前に地域のエネルギー施設ができるなどのまちづくりが進んでいきます。

沿岸部の様子(写真提供:NPO法人みらいと)
復興が進む様子(写真提供:NPO法人みらいと)

地域のモニタリング・シミュレーションを通じて復興を考える

Q:新地町で取り組まれている地域モニタリングとはどのような内容ですか。

五味:被災地である新地町では、復興に向けてインフラや住宅などの施設整備事業が進んでいます。その中に、住宅、公共施設、工場、エネルギー施設を情報システムでつなぎ、「スマート・ハイブリッドネットワーク」という地域情報通信ネットワークを整備するというものがあります(コラム1)。「地域のエネルギー資源を高度かつ効率的に活用すること」、「高齢化に対応した健康・福祉分野の活動を支援すること」、「町のコミュニティ機能を高めること」が目標です。

中村:この地域ネットワークの中に、地域の様々な情報を、行政職員や住民の皆さんが双方向でやりとりできるようなアプリケーションソフトを開発し、タブレット端末に搭載した「くらしアシストタブレット」を利用してもらう実証試験を行っています。各世帯に設置された端末を通じて電力などの消費エネルギーをリアルタイムでモニタリングしたり、あるいはアンケートに答えてもらったりしています。

五味:私はそれに加えて環境と社会、経済など統計データや地図などをデータベース化し、以前行っていたモデル研究を被災地域へ適用しようとしています。人口や経済などの町の全体像をシミュレーションし、産業や人口などの行方と関連する施策の人口維持や産業振興への効果を分析し、町の総合計画づくりを研究面からお手伝いしています(コラム2)。

自治体担当者による復興状況の説明
トマト栽培施設の視察

Q:将来をシミュレーションすることの難しさはありますか。

五味:新地町のような比較的小規模な地域では、人々の生活や経済活動が地域内で完結せず、近隣の地域との関わりが大きく影響します。またシミュレーションに必要なデータが一部不足していることがわかりました。また、この結果を使ってくださるのは地方自治体の担当の方ですので、学術的なあまりにも複雑なシミュレーションは必要とされていません。そこで、大事なところは押さえつつ、なるべくシンプルなモデルを新たに開発しました。

Q:必要な地域のデータは集まりましたか。

五味:町の方の協力もあり、ほぼ集まっています。また2年間のモニタリングで集めた消費エネルギーのデータは、シミュレーションに使える量になりました。今後はモニターを家庭以外に広げたいです。2015年度より工場などの協力をいただいて調査を始めていますが、役場や学校、病院などいろいろな場所のエネルギーパターンがわかるように、調査の範囲を広げたいですね。

中村:2016年春から町による公共施設のモニタリングも別事業として始まるので、連携することで地域全体のエネルギーの把握に寄与できると考えています。

五味:今までなかった農村地域の詳細なエネルギーデータが得られたことは、日本全体の低炭素化対策にも役立ちます。このデータを低炭素化のシミュレーションに活用する方法を検討しているところです。

中村:例えば2016年末の常磐線新地駅開業に合わせて地域分散エネルギーシステムが導入され、地域で生み出されたエネルギーが地元で消費されることになります。このシステムを安定して運転するには需要を予測することが大切です。新地で行っているモニタリングの結果が活用される予定です。

Q:シミュレーションを行うと、どんなことがわかるのでしょうか。

五味:地域全体を丸ごと見て、数十年の単位で町がどう変化するかを検討します。すると、過去や現在のデータから未来を見据えて、町のあり方を議論できます。このシミュレーション技術は新地町だけでなく、他の地域でも使えるように工夫しています。地域の総合計画をたてる際に、目標の実現可能性の議論や施策の有効性の分析に役立ててもらえるものを目指しています。中村さんの情報ネットワークを使ったモニタリング研究は住民を戸別訪問するなど草の根のアプローチですが、私の研究は真逆のアプローチで相互を補完することができます。

環境と共生した地域のコミュニティづくりのお手伝い

Q:「くらしアシストタブレット」システムで何ができるのですか。

中村:生活のアシストとエネルギーのアシストという大きく2つのアシスト機能を搭載しています。生活のアシストでは、情報の共有による地域コミュニティのサポート、エネルギーのアシストでは、世帯での電力消費量の「可視化」を通じた低炭素化の推進を目的としています。生活のアシスト機能では、地域の様々な情報を住民の方々の間で共有していただき、地域の絆づくりを支援することを意図しています。被災地域では、原発事故による地域外への避難や津波対策による高台移転などに伴い、多くの場所で元々あった地域コミュニティが弱まっていると指摘されています。被災により離ればなれになってしまうなどにより弱まった地域の絆づくりに、タブレットのような情報通信技術が活用できるのではないかと研究を進めています。現在も試行錯誤しながら、自治体の担当の方、開発する企業の方、モニターの方などいろいろな人とやりとりしながらどんなシステムにするか検討しています。

タブレット講習会の様子
タブレットの利用風景

Q:タブレットのモニターは何世帯ですか。

中村:100世帯が目標で、80世帯程度まで協力いただいています。

Q:全世帯というわけにはいかないのですか。

中村:消費電力の測定には工事が必要なので、まずは実証試験ということで、モニターに応募していただいた世帯にお願いしています。80世帯というのは新地町全世帯で見ると約3%にあたり、一つの自治体を対象とした事例としてはかなり高い割合です。

Q:「くらしアシストタブレット」の狙いは何ですか。

中村:エネルギーのアシスト機能による電力消費の可視化は省エネに一定の効果があるようで、省エネに取り組むようになったというご意見もうかがっています。一方、様々な情報交換の場として設けた掲示板は、地域の情報や町からのお知らせ、災害情報などは充実したので、住民の皆さんが情報を書き込みやすく、閲覧しやすいようにシステムを改良しています。また家庭のパソコンやスマートフォンからでも情報を見ることができるようにも改良を検討しています。将来的には、自治体が運営できるシステムにすることで、環境にやさしいスマートコミュニティの実現の一助になればと思っています。

環境創生研究─復興支援を通じ地域創生のモデルを提示したい

Q:新地町にはどれくらいの頻度で行かれてますか。

中村:平均して月2回ぐらいのペースでしょうか。2015年3月には8日間泊まり込んで、戸別訪問による現地調査をしました。お陰で役場の職員の方々や「くらしアシストタブレット」モニターの皆さんとはだいぶ顔見知りになりました。

五味:私は現地調査があまりないので、中村さんよりは頻度が低いのですが、町の担当者とは月に一度くらいのペースで打ち合わせをして分析の課題を相談しています。

Q:2016年度からは福島県三春町にできる環境創造センターからの訪問になりますが、福島への異動によって研究は変わりますか。

五味:福島に住むことで発見があったり、現地の方とより頻繁に相談ができるようになったりすることは大いに研究に資すると思います。しかし、異動すれば研究が進むわけではなく、コミュニティの輪に加わるとともに、研究者として研ぎ澄まされた感覚で関われることが大事だと考えています。

中村:私たちのやっているまちづくりの研究には明確なゴールはありませんし、どこをゴールにするのかで研究の手法が変わると思います。どのやり方であっても、福島の持続可能な発展を目指すという点は変わりませんね。

五味:福島県や自治体職員の方々はもちろんですが、土木建設やエネルギー事業者だけでなく、アグリビジネス、森林組合、製造業から銀行などサービス業といった様々な業種の方の協力があり、私たちの研究の輪は広がっていますね。このシナジー(共生)関係を維持し、新たな地域のシナジーをうまく作れるかどうかも、福島の復興に役立つ研究をするために大事なことだと考えています。

中村:タブレットを使ったアプローチは、様々な町の関係者の皆さんから率直なご意見をいろいろといただけるので面白いですね。

新地町役場
国立環境研究所による尚英中学校のエネルギー学習

Q:環境創造センターでは、3つの研究プログラム(①環境回復研究プログラム、②環境創生研究プログラム、③災害環境マネジメント研究プログラム)がありますね。

中村:はい。今は福島に移ってからの研究の方向性を決めるため、みんなで議論している真っ最中です。

五味:3つの研究プログラム間で連携して研究するため議論もしています。先日は連携研究テーマを考えるワークショップを行い、ある人の取り組んでいる研究テーマと、別の人の研究テーマがくっつくのではないかなどとアイデアを出し合いました。

Q:今後の研究の展望をお聞かせください。

中村:新地町を1つのケースとして、今後は他の地域へどう応用するかが課題です。他の自治体との共同研究計画案もあるので、新地町の成果を活用したいですね。新地町を研究の原点として、次の一歩をどう踏み出すかを考えていきたいです。

五味:シミュレーション研究では、様々な事を数字で考えることが大事です。研究で出てきた数字を福島の復興に役立てるためには、数字を翻訳し、地域の方々とのコミュニケーションを図ることも重要ですから、数字を出す専門家だけでなく、数字の翻訳家でもありたいですね。また、自然災害や高齢化など困難な問題を抱える地域でも、シミュレーションを活用して選択肢が広がり、地域の方々が新たな可能性を見出し、具体的な取り組みへつなげるお手伝いをしていきたいと思います。

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