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2016年6月30日

気候変動による影響とその適応策

Summary

将来、気候変動による影響はどの程度深刻になるのでしょうか? 私たちはその影響を軽減もしくは回避することができるのでしょうか? 気候変動による影響評価とその適応策に関して、これまで私たちが進めてきた研究プロジェクトとともに紹介します。

世界における気候変動影響とその適応策

 国立環境研究所では、世界規模での気候変動影響に関して、農業・飢餓人口分析や水需給分析などを行ってきました。特に、農作物は気候変化に敏感なため、農業は温暖化の直接の影響を受けると懸念されています。長谷川知子研究員らは、国際的に新しく開発が進められているシナリオフレームワーク(コラム3)を用いて、温暖化による飢餓リスクへの影響と適応策の効果を解析しました。新シナリオフレームワークは2つの要素、社会経済条件(SSPと呼ばれる5つの共通社会経済経路:現在から将来までの人口・経済状況・社会情勢等の変化の想定、うち3つを本研究で用いた)と温室効果ガス濃度条件(RCPと呼ばれる4つの代表濃度経路)から構成され、多様な将来の社会を想定できます。さらに、第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)に使われた8つの気候モデルによるRCPを前提条件とした最新の気候シナリオを用いました。この研究では、農業における適応策として作物品種の変更、植え付け日の変更を想定しています。

 解析から次の3点が明らかになりました。(1)適応策(作物品種及び植え付け日の変更)は、将来の社会経済条件、気候条件に関らず、温暖化によりもたらされる飢餓リスクを軽減できること、(2)今世紀前半において、飢餓リスクは気候条件よりも社会経済条件に強く依存すること、(3)飢餓リスクへの温暖化影響は地域によって異なるが、これは地域間で食料摂取カロリー、作物収量への温暖化の影響、土地のひっ迫度が異なること、に起因します。

 では、それらの適応策は、いつから実施や強化すればいいのでしょうか?田中朱美特別研究員らは、気候変化の進行に合わせて、現在から将来にかけて通時的に適応策を進めることの重要性を明らかにしました。適応策の時系列を示す「適応経路」を描くことは、気候変化が進む中でいつ・どのような適応策が求められるのかを検討する上で有効な手段となります。同研究では、世界の主要なコムギ(小麦)生産国9か国で、2010-2090年代の10年ごとに、現在からの収量減少を防ぐために必要な適応策を逐次導入すると仮定して、21世紀にわたり現在のコムギ収量を維持するための適応経路を導出することを試みました。(1)灌漑面積の拡大と(2)品種の変更及び新規の高温耐性品種の開発導入の2つを考慮して適応経路を評価した結果、適応導入のタイミングや強度が各国で大きく異なりました。また、適応策導入の適切なタイミングを逃した場合と比べて、将来必要な適応策を予測し、着実に導入を進めれば、気候変化が及ぼす負の影響(本研究ではコムギ収量の減少)を軽減できることが示されました(図5)。本研究の適応経路は食料需要の増減や社会経済変化を考慮しないなど、様々な制約下での結果ですが、本研究で提示した手法は世界の食料生産の気候変化に対する適応の時間的側面を定量的に評価するための第一歩になります。

図5
図5:アメリカとインドにおける、現在(1990年代)のコムギ収量を維持するための適応経路と収量変化率の推移の例
灌漑レベル、品種レベルは適応策の強度レベルで、値が大きいほど強い適応策が必要であることを示す(レベル0は適応策導入なしである)。灌漑レベルの上昇は、より大規模な灌漑面積の拡大が求められることを示す。品種レベル1は品種変更(現在の植付品種を別の既存品種へ変更する)、品種レベル2以上は新規の高温耐性品種の開発導入が必要で、高レベルほど耐性が強い品種が求められることを示す。

日本における気候変動影響とその適応策

 世界を対象とした研究のみならず、日本を対象とした研究にも精力的に取り組んできました。私たちは環境省環境研究総合推進費S-8「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」に参画し、34機関、約140名の研究者と協力して、日本全国及び地域を対象とした影響評価を実施しました。このプロジェクトは、最新の温室効果ガス濃度経路(RCP)と気候シナリオ(CMIP5)を共通シナリオとして、21世紀半ば(2031~2050)と21世紀末(2081~2100)における日本への影響を体系的に評価したものです。温室効果ガス濃度経路についてはRCP2.6(排出量小)、RCP4.5(中)、RCP8.5(大)を用い、気候シナリオは、それぞれのRCPに対して気温上昇の予測値が低いものから高いものまで含めるように4つの気候モデルの結果を利用しました。例えば、最も温室効果ガスの排出量が大きいRCP8.5の21世紀末における日本の年平均気温の上昇は、3.8~6.8 ℃と大きく幅のある数値になっています。この研究は、気候シナリオによる予測の幅を考慮している点に特色がありますが、気候モデルの選び方によって気温上昇(気候変動の程度)に大きく差があることに注意が必要です。

 この研究の結果、温暖化は21世紀を通じて日本の広い分野に影響を与えることが予測されました。気象災害、熱ストレスなどの健康影響、水資源、農業への影響、生態系の変化などを通じて、(1)健康や安全・安心、(2)生活の質と経済活動、(3)生態系分野などに影響が広がることが、明らかになりました。また、ほとんどの分野で気温上昇とともに負の影響が大きくなることもわかりました。気候変動の影響は、気温上昇をはじめ温暖化の程度で左右され、世界規模で緩和策が進めば、日本での悪影響も大幅に抑制される可能性があります。しかしその場合も、適応策を講じないとほとんどの分野において現状からの悪化は避けられず、今後の気候変動リスクの対処には、緩和策と適応策の両方が不可欠です。

適応策の推進に向けて

 適応計画と実施は、大別するとトップダウンとボトムアップの2つのアプローチが考えられます。トップダウンアプローチとは、シナリオ主導であり、特定の地域に限定した気候予測、影響と脆弱性の評価、戦略とオプションの構築で構成されます。このアプローチは私たちがこれまで取り組んできた研究手法と同じです。一方、ボトムアップアプローチはニーズ主導であり、「地域に根ざした適応」などが含まれ、地域の状況を把握し、地域の詳細なデータに基づいて解析します。いずれのアプローチも、広範囲の利害関係者の参画と、研究と管理の連携が必要です。今後、適応策の推進に向けて両面から取り組んでいきたいと考えています。

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