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2020年9月29日

廃棄物の適正管理がもたらすレジリエントな社会

研究をめぐって

都市の発展にあたっては、人口増加や社会の変化に沿いながら、地域経済の生産性、住民の居住性、安全性を確保することが求められます。都市に住むあらゆる人々がインフラを含む公共・公益サービスの恩恵を受け、その意思決定に参加できる「包摂的な社会」を築いていくことが持続的な成長のためには必要不可欠です。また近年では、感染症や災害に襲われるリスクの急速な拡大に対して「レジリエント(強靱な)社会」づくりに向けた取り組みも進められています。

世界では

 世界全体での、主要な自然災害(地震、津波、熱帯性低気圧、河川氾濫)による年間の損失額は、建造物だけでも30兆円を超えると推定されています。干ばつの影響など、農業の損失を含めると、この額はさらに大きくなると考えられます。この損失額は、とりもなおさず、災害発生時の復旧・補償のために世界全体で毎年準備が必要な金額と言えます。また、人命損失は低・中所得国に不均衡に集中しているという現実もあります。特に、小規模でも局所的に頻発する災害による被害が増加しており、社会の不平等、環境の劣化、都市開発の計画や管理の質の低さ、災害への対応能力の低さなど、開発途上国が直面する多くの深刻な課題が浮き彫りとなっています。 

 「国連世界防災白書2015」は、こうした災害リスクを軽減するためには、災害復旧のための準備や警戒システムの整備のような目に見える対策だけではなく、潜在的なリスクとその要因をつきとめて制御することが重要で、都市の開発計画に織り込むべきである、と指摘しています。具体的には、人為性な気候変動の影響、資源の過剰消費と廃棄物の排出、貧困や不平等などが、潜在的なリスク要因として対処が求められています。2015年に開催された国連防災世界会議では、仙台防災枠組2015‐2030として、「防災」が各国の政策の優先課題と位置づけられること、全ての開発政策・計画に「防災」を導入すること、「防災」への投資を拡大すること、が提唱されました。

 アジア太平洋諸国は災害リスクへの対応が必要な重点地域のひとつです。2年ごとに実施されるアジア防災閣僚級会議では、地域の災害リスク軽減に向けた実質的な討議が行われています。そして、都市の開発計画の策定において防災的な面を考慮するとともに、そうした案件に対して積極的に投資する例が増えてきています。たとえば、河川改修や排水路の拡充の際には、設計上の排水能力だけでなく、機能を維持するために底泥・廃棄物の除去作業をセットにするなど、実質的な排水強化に繋がるような計画が立てられています。また、災害からの速やかな復旧・復興のためには、がれきや災害廃棄物の迅速な撤去と処理の体制をとることが必要です。廃棄物処理の実施計画を立てる際には、災害時の運搬・処理の多面的な協力体制を確立することや、災害を想定して多様な処理および資源化経路を普段から模索する動きも広がっています。

大規模化する水害被害(2011年のバンコクの例)の写真

大規模化する水害被害(2011年のバンコクの例)

日本では

 日本では、防災分野の最上位計画として防災基本計画があり、その中で災害の予防、災害からの応急対応、復旧・復興のための基本的な方針が定められています。また、災害の被害を抑え、素早く回復できる社会づくりのための計画として国土強靭化基本計画があり、これらを総合して災害に強い社会づくりを目指しています。環境分野では災害廃棄物に関連する対策が特に進んでおり、スムーズな復旧・復興を図るための、災害廃棄物対策指針という政府の方針が、近年立て続けに起こった震災・津波被害、土砂災害、水害等の状況を加味して、2018年に改訂されています。この指針には、廃棄物の処理や資源化のための施設を計画する際には、災害時の拠点となるような受け入れ機能や能力を考慮することや、災害が起こっても安定して運転ができるような立地や耐震性などを重視することが盛り込まれているとともに、廃棄物処理のための計画だけでなく地域の防災計画にも災害廃棄物の処理を位置づけるよう求めています。これに基づいて、都道府県や市町村は、災害廃棄物処理計画を策定し、平時の取り組み、災害発生時の応急的な作業、本格的な復旧・復興時の処理計画などフェーズに応じた対応策を検討し、他の自治体、各種業界団体、NGOおよびボランティア団体等との協力体制や予算措置の確保などを盛り込むことになります。我が国の自治体の問題対応能力は高く、国の支援体制も充実しているため、たとえば開発途上国のように行政の対応能力が低いために災害被害が拡大するような事態はあまり考えられませんが、それでも想定を大きく上回る複合災害の発生を念頭に置いて、準備をしておく必要があります。

 政府は、大規模災害発生時における災害廃棄物対策行動指針も新たに作成し、廃棄物処理に関わる主体の役割を明確にして、連携・協力体制を構築することにより、力を結集して迅速な廃棄物処理と復旧・復興にあたることを目指しています。

国立環境研究所では

 災害環境研究の一環として、国内およびアジア地域での災害リスク軽減に向けた取り組みを行っています。災害が発生すると、自治体は多くの業務に短時間で対応することが求められます。特に規模の小さな自治体では、復旧の初期段階から限られた人員で廃棄物の処理を進める必要があります。こうした状況下で、効率的に災害廃棄物の処理を推進するために、行政職員が優先的に行う業務として、処理を委託する業者や国への補助金申請など契約や財務についての事務作業をすすめながら、多様な関係者・支援者の交通整理をすることの必要性を明らかにしています。

 その上で、平時における災害への備えを進めるための、「災害廃棄物情報プラットフォーム」を整備して、過去の優良事例や法制度の更新に関する情報の拡充を進めています。また、自治体が作成している災害廃棄物処理計画にもアクセスできるようにするなど、行政担当者や市民がどのような情報を必要としており、どのように見せると効果的か、ということを意識しながらアップデートをしています。

 また、私たちの避難訓練と同じで、自治体の職員に災害時の仕事の進め方に慣れてもらうことは大変重要です。図上演習と呼ばれる災害発生時をシミュレーションした参加型の演習を実施することで、災害発生時の具体的なイメージが深まり、災害対応スキルや情報処理力が向上するという効果があることがわかってきました。そうした結果も踏まえて、全国で自治体職員向けの事前訓練が広がっています。

 こうした国内での取り組み事例は、海外の自治体にとっても大いに参考にしてもらうことができます。2011年のバンコクの水害を踏まえて、廃棄物を迅速にかつ衛生的に処理するためのガイドラインを作成しました。また、災害からの速やかな復旧・復興に向けては、迅速な処理だけでなく、廃棄物の処理・資源化施設が災害時の拠点となるように立地・設計することも重要です。平時の準備から、災害廃棄物処理を通じた廃棄物処理体制の更新と災害に対する強靱性の確保を含めた、「災害廃棄物管理国際ガイドラインおよびその技術資料(環境省)」の作成にも関わっています。

住民向け広報ビデオクリップのキャプチャーの図
住民向け広報ビデオクリップ
動画は「容器ごみ編」「粗大ごみ編」、「建設廃棄物編」の3本があり、資源循環・廃棄物センターHPで紹介されています。
https://www-cycle.nies.go.jp/jp/report/waterwaygarbage.html