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2021年3月30日

災害環境研究のこれまでとこれから

Summary

東京電力福島第一原子力発電所の事故によって発生した環境放射能汚染からの環境回復と環境創生は、事故後10年が経過した現在においても重要な研究課題です。国立環境研究所は、発災直後からこれらの研究に取り組み、これからも地域協働研究をさらに進めることにより、被災地の環境復興を研究面からサポートします。

災害環境研究のこれまで

 国立環境研究所では、東日本大震災の直後から、地震、津波、さらには東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、事故)によって引き起こされた環境汚染とその環境回復、被災地の復興に関する調査・研究を進めてきました。第4期では、災害環境研究プログラムを設け、2016年4月に福島県三春町の福島県環境創造センター内に開設した福島支部を現地の拠点として、つくば本部と一緒に研究に取り組んできました。

 災害環境研究プログラム(以下、PG)は、環境回復、環境創生、災害環境マネジメントの3つのサブPGで構成されています(図4)。放射性物質により汚染された被災地の環境をできるだけ速やかに回復することを目的とした「環境回復研究PG」(PG1)では、放射性物質に汚染された廃棄物の適切な管理や処理・処分方法に関する「汚染廃棄物研究」と、環境中における放射性物質の計測・シミュレーションによる実態と動きの解明、ヒトの被ばく量解析および生物・生態系に対する影響評価に関する「環境動態・影響研究」を進めてきました(環境儀No.58)。

 「環境創生研究PG」(PG2)では、環境と調和した被災地の復興を支援することを目的として、地域環境診断と将来シナリオの作成、省エネルギーな技術開発や地域事業設計、住民が参画する計画づくりなどに取り組んできました(環境儀No.60)。また、「災害環境マネジメント研究PG」(PG3)は、東日本大震災などの災害によって得られた経験・教訓をもとに、環境・安全・安心面から将来の災害に備えるアクションリサーチ(災害対応によって得られた知見・経験を次の災害時に活かすことを通して専門知を蓄積していく研究)を進めてきました。これらの研究を通して、被災地の環境回復と復興を研究面・技術面で支援するとともに、将来の災害に備えた環境にやさしいまちづくり・社会づくりに貢献することを目指してきました。

第4期の災害環境研究プログラムの構成図
図4 第4期の災害環境研究プログラムの構成

災害環境研究のこれから

 これらの第4期における取り組みや関係機関などとの協働体制をもとにして、第5期では、福島県内の原子力災害被災地において、地域環境の再生・管理と地域資源を活かした環境創生に資する地域協働研究を進める予定です。さらに、福島支部において地域協働を進める体制を整備し、環境復興と持続可能な地域づくりに貢献したいと考えています(コラム1コラム2)。  

 また、第4期において進めた災害廃棄物対応のアクションリサーチ、災害発生時の緊急対応、さらには東日本大震災・福島原発事故対応等で得られた知見の一般化を図る予定です。これにより、廃棄物処理システムの強靭化と非常時対応システムの構築を進めることによって、今後想定される大地震や風水害、原子力災害等に対して強靭性かつ持続性を有する地域社会づくりに向けた自治体等の事前の計画づくりに貢献したいと考えています。

 具体的には、以下の6つの研究プロジェクト(図5の1~6)に取り組む予定です。第4期の災害環境研究PGと対比させると、1と2は各々、PG1の「汚染廃棄物研究」と「環境動態・影響研究」を福島県における環境回復状況や社会状況の変化を踏まえて発展させたプロジェクトです(コラム3)。

 3と4は、第4期のPG2で取り組んできた、地域と協働して環境配慮型の地域づくりを進める手法を適用・発展させ、さらにはPG1の知見を活用して、避難指示解除区域等で地域資源を利用した地域づくりを支援する研究です(コラム4)。5と6は、第4期のPG3等で得られた知見を今後の災害に備えて一般化することを目標にしています。また、プロジェクト連携研究として、「地域資源利活用の促進とその技術支援」、「新たな原子力災害に備えた事前復興取り組み」、および「災害にレジリエントで持続可能な地域社会構築」にも取り組む予定です(コラム5)。

第5期の災害環境プログラムの構成案の図
図5 第5期の災害環境プログラムの構成案

おわりに

 災害環境研究は東日本大震災後に開始した新しい研究分野ですが、「災害と環境」、「社会と科学」といった関係性を強く意識した研究であり、環境研究の新たな展開につながる特徴があります。一つは、自然・社会科学の様々な研究分野の英知を集める典型的な横断的研究で、かつ、被災地の環境復興に役立てるという社会ニーズを背景に課題解決型の側面が特に強い点です。もう一つは多様な連携や協働の下で活動している点です。これまで、国立環境研究所初の現地拠点である福島支部を中心として、地域に根ざした連携や協働を進めてきましたが、さらなる地域協働の推進、国内外との連携、ネットワーク化が求められています。

 このような災害環境研究を通して得られた知見をもとに「災害環境学」として体系化していくことを目指しています(12ページ研究をめぐって)。

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