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2021年3月30日

災害環境研究とその関連研究の取り組み

研究をめぐって

国立環境研究所では、長年にわたる環境研究の蓄積を背景に、東日本大震災直後から災害環境研究に取り組んできました。この実績と経験をもとに、将来の自然災害に備え、さらには持続可能な地域づくりを見据えた環境研究を推進していきます。

日本では

 環境と災害に関する研究については、もともと環境保全対策と防災・減災対策という個別の課題として取り扱われてきました。それに対して、同時に取り扱うべきとの動きが、主に2つの理由から、2000年代初めから起こりました(環境儀No.49)。1つは、政府が策定する第2期科学技術基本計画において環境分野での自然共生型流域圏研究の重要性が指摘されたことです。これを踏まえ、流域圏での生態系の基盤サービス(水循環調整など)と調整サービス(自然災害制御など)を活用しながら、防災・減災対策につなげる技術開発がなされました。もう1つは、1995年阪神・淡路大震災、2004年新潟県中越地震、2004年インドネシアスマトラ島沖地震津波災害の経験から、国土環境づくりと防災・減災対策事業がともに社会基盤づくりの範疇で、同時に扱うことで効率的な事業が可能となり、ひいては地域社会づくりに貢献できるというものでした。例えば、2006年には土木学会から『環境と防災連携型の技術と制度』という報告書が出され、自然災害に対する防災対策の環境への影響と、逆に環境対策の防災への影響が整理されており、両者の連携の重要性が指摘されました。

 東日本大震災以降、東北大学災害科学国際研究所や福島大学環境放射能研究所、早稲田大学レジリエンス研究所、福島県環境創造センターなどが新たに設置されました。また、震災前から防災・減災研究を推進してきた京都大学防災研究所や名古屋大学減災連携研究センターなどにおいても災害に関する多様な研究が実施されています。

 環境分野においても、被災地の自然環境・都市環境への影響やその回復と再生をテーマとした数多くの研究課題が実施されてきました。しかし、災害面からの研究においては、防災やレジリエンス(強靭性)の観点での研究は数多く実施されていますが、災害後の復興や地域づくりまでを対象としているケースは少なく、また、環境面での視点は必ずしも十分とは言えません。一方、環境面からの研究においても、災害後の汚染物質の環境影響や環境回復、災害廃棄物の処理などの調査や研究は数多く実施されているが、持続可能な地域環境を創る、環境に配慮して復興を進める、あるいは災害に強靭な地域を創るといった、被災地の中長期的な取り組みに貢献する研究はほとんどありません。さらには、平時から社会の持続可能性を高めつつレジリエンスを向上させることで災害時における環境影響の緩和や適正管理を実現するとともに、災害復興をきっかけとしてさらに持続可能性の向上を目指す一連のプロセスを対象とするような体系的な研究は見当たりません。

国立環境研究所では

 災害と環境に関する研究について、国立環境研究所では東日本大震災前から、災害発災時における環境影響や環境面からの対応策に関する先駆的な議論が進められていました。このような議論が、震災直後から被災地において環境分野の調査や研究に取り組む基盤になったと考えられます。また、震災直後には、東日本大震災への環境面での研究課題を俯瞰的に整理し、2012年4月に「災害環境研究の俯瞰」として取りまとめられました。ここでは、第3期および第4期において大きな研究の柱の一つとなっている「災害環境(研究)」という言葉が初めて使用されており、また、「災害からの復興とは、社会と自然を健全な形に作り直すこと、すなわち、広い意味での地域環境の創造です。被災地の地域環境の正確な実態把握と災害の影響評価、さらに、安心・安全な社会の創造が求められることになる」(「はじめに」から抜粋)の考え方は、その後の災害環境研究の基本になっているとも言えます。

 東日本大震災後に進められた国立環境研究所での多様な震災対応研究は、国の予算がついたこともあり、徐々に組織化され(環境儀No.49)、2013年3月に第3期中期目標・計画に「災害と環境に関する研究」として加筆されました。この段階では、「廃棄物」(放射能汚染廃棄物と災害廃棄物)、「多媒体環境汚染」、「環境創生」、「様々な環境変化・影響」に4区分されました。2016年度からの第4期においては、被災地のニーズを踏まえ、将来的な研究展開も見据えて、「放射能汚染廃棄物」と「多媒体環境汚染」を統合した環境回復研究、環境創生研究、並びに「災害廃棄物」と「様々な環境変化・影響」を統合した災害環境マネジメント研究の3本柱からなる災害環境研究プログラムが推進されました。第4期開始前に議論されたコンセプトを図6に示します。

 また、第4期には福島支部で実施する基礎基盤研究として「災害環境研究分野」を設け、その中長期的な目標として「災害環境学の確立」を掲げました。「災害環境研究分野」は「東日本大震災及び他の災害の経験をもとに、被災地の環境回復・復興と新しい環境の創造や将来の大規模災害に備えた環境面での国土強靭化等に資する環境分野の基盤的な研究・技術開発」(第4期中長期計画より)を行うことをミッションとしました。

第4期開始前に議論した災害環境研究のコンセプト図
図6 第4期開始前に議論した災害環境研究のコンセプト図

災害環境学の確立を目指して

 様々な災害が頻発する中で、災害に対して強靭で持続可能な社会づくりに科学面から貢献するためには、災害への対応によって蓄積された知見・経験を体系化(災害環境学の確立)する必要があります。私たちは、そのコンセプトをつくっている過程にあり、

 「平常時-災害からの復旧-復興のサイクルを通して 社会の持続可能性を高めるハード・ソフト整備を進めることで、自然災害に起因する環境影響を緩和・管理するレジリエンスを高め、持続可能な社会を実現すること。もしくは、そのための知識体系の構築」のようにまとめられつつあります。また、図7はコンセプトのイメージ図を示しています。第5期において、災害環境研究を進める中で、災害環境学の骨格を作り、肉づけしていく予定です。

災害環境学のコンセプトのイメージ図(検討中のもの)
図7 災害環境学のコンセプトのイメージ図(検討中のもの)

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