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ザンビアにおける家畜と野生動物との関係

経常研究の紹介

鈴木 明

 著者は、1989年12月から1990年3月までの3か月間、ザンビア大学獣医学部で、環境衛生学の講義、実習、研究指導を行った。このとき、“発展途上国における畜産と野生動物との関係”について、現地調査をしたいと考え、ザンビア大の教官と協議したところ幸いなことにザンビア大側の共感を得て、1990年度から共同研究が始まった。ここでは、調査結果について、ザンビア国の紹介を含めて述べることにする。

 本研究にザンビア大側からは、副学部長で野生動物の伝染病が専門のパンデー博士とロンドン大学で博士号を取ったばかりで美人の昆虫学者であるムワッセ博士が参加することとなった。初年度は、(1)現実のザンビアを知ることと(2)国立公園に隣接する牧場の調査から始めることにした。ただし、(2)は、何をするにも許可が必要な国では、現実的に困難なことが多いため、“もしできたら”という条件つきであった。

 まず、ザンビアを知らない方が多いので簡単に紹介してみよう。1964年10月、英国から独立しザンビア共和国が誕生した。国土面積は日本の約2倍、人口は日本の約19分の1である。マラリア、ねむり病などの風土病やコレラや結核など伝染病で死ぬ人が多いため平均寿命は50才未満とも40才未満ともいわれ、エイズの感染率も高いとみられている。国土は、南緯8〜18度、東経22〜34度に位置し、ザイール、タンザニアなどの8か国に囲まれた内陸国である。その形状は中央部で深くくびれたヒトの胃に似ている。また、緯度的には熱帯になるが、国土の大部分が300〜1,500mの台地にあるため、気候はサバンナ(サバナ)といえる。国の経済を支えているのは銅などの鉱山資源であるが、銅の価格が不安定なため国の経済も不安定になっている。そこで、政府は、人口増加による食料増産のため、ザンベジ川の流域に広がる土地を利用した畜産に力をいれ、多数の牛が飼育されているが、その生産性は種々の病気のため低い。

 幸いなことに、我々は、首都ルサカの西方約250kmにあるカフエ国立公園に隣接する放牧場を調査することができた。車は西にまっすぐ延びる道路を時速100〜120kmで飛ぶように走った。約2時間後、主幹線を離れ赤土むき出しの道路に入り約40分、そしてさらに人道に入ること約30分、やっと牛の群れを発見した。

 約1時間、各自専門の立場から調査を行った。結果を要約すると次のようになる。(1)国立公園と隣接しているため牛がライオンやハイエナに襲われることがある、(2)草地は野生草食獣と共用であるため、たびたびレイヨウ類を見かける、(3)病死牛が比較的多いが、その原因は不明である、(4)牛は広大な地域に分散しているので病気牛の発見が遅くなるため、そのコントロールが困難である、(5)人畜共通伝染病について特に警戒しているが、野生動物由来のものはどうしようもない、など、我々が危惧していることが現実化していることに不安を隠せなかった。夕刻、無事大学に着いたが、ある種の疲労感と事態の深刻さに口数は少なかった。

 本研究は始まったばかりで、全体像をとらえるにはまだまだ詳細な調査が必要であると考えられるが、今回の調査結果で明確なように、野生動物と家畜の接触は予想より多く、共通伝染病の伝染の危険性が高いことが判明した。このことは、野生動物の種の保存を困難にするばかりでなく、畜産の崩壊、しいては食料危機や人の病気につながる危険性を示しており、本研究の速やかな遂行が必要と考えている。

(すずき あきら、環境健康部生体機能研究室)