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大気汚染物質としてのオゾンの生体影響とビタミンA

研究ノート

高橋 勇二

 鳥目の予防因子として発見されたビタミンAは、近年、個体の発生や皮膚、気管などの上皮細胞の分化と増殖の制御に関与することが報告されている。しかし、オゾン暴露の標的部位となる、気道の末梢部位と肺胞の上皮細胞の増殖にビタミンAが関与するか否かについてはこれまで明らかにされていなかった。

 そこで、離乳直後のラットにビタミンAを適量含んだ標準食あるいはビタミンAを含まない欠乏食を2週間与え、その後ラットを暴露チャンバーに移し、それらの食餌で飼育しながら清浄空気あるいは0.4ppmのオゾンを1日から2週間暴露した。暴露後、増殖期にある細胞を放射性チミジンを用いて標識し、肺の組織標本を作製した。顕微鏡を用いて標本を観察し、チミジンにより標識された細胞数を肺の部位別に算出した。この結果、標準食を与えたラット肺の標識細胞数は、細気管支、肺胞道、そして、末梢肺胞の各部位で、オゾン暴露1日から3日目に有意に増加した。一方、ビタミンA欠乏ラットの標識細胞数はオゾン暴露によって増加したものの、その程度は、標準食ラットに比較して有意に小さかった(図参照)。

 この結果は、オゾン暴露によってもたらされる肺上皮細胞の傷害の修復(上皮細胞の増殖)が速やかに行われるためにはビタミンAが必要であることを示している。また、本結果からビタミンAの欠乏しているラットはオゾン暴露に対する感受性が高いとも推察される。まだまだ各種栄養状態の完全ではない地域が地球上に存在することを考えたとき、本実験のように、栄養条件を考慮にいれた動物実験結果の集積が、大気汚染物質のリスク評価の基礎資料を提供する意味からもますます必要となると考えられる。

(たかはし ゆうじ、環境健康部生体機能研究室)

図  オゾン暴露による肺胞道部位の上皮細胞の標識細胞率の変化