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浮遊粒子状物質(SPM)の個人暴露濃度の評価法

経常研究の紹介

田村 憲治

 生活環境における大気汚染物質の健康へのリスクを評価するために、各物質の個人暴露量の推定が必要となる。二酸化窒素についてはフィルターバッチ式など、拡散吸収を利用した簡易個人サンプラーが開発され、多くの疫学調査にも用いられてきた。一方SPM(大気中の浮遊粉じんのうち粒径10μm以下の粒子)の捕集には、大気を吸引するポンプが必要となるため、大勢の対象者を同時に測定することは行われてこなかった。

 これまでの環境研の特別研究(健康特研、環境ストレス特研、粒子状特研)で、屋内など生活環境中のSPM濃度測定に用いる小型SPMサンプラーを開発し、沿道周辺家屋などで測定を重ねてきた。このSPMサンプラーは2.5l/分の吸引量で、SPMをさらに2μm以下と2μm以上に分級し、10μm以上の粒子濃度も測定できる。

 個人サンプラーは一般の対象者に携帯を依頼するため、ポンプがさらに小型、軽量であること、発生音が小さいという条件が求められる。私達の使用している個人サンプラーは、この小型サンプラーと構造、捕集特性を一致させた。ポンプは500gで小さいが、夜間は寝室に置くため、防音箱に入れてもらっている。吸引量は0.5l/分と少ないため、SPMの捕集量は1日で数10μg程度である。そこで現在は天秤の秤量誤差(1〜2μg)を見込んで48時間ごとの測定としている。

 実際の調査では、屋内(居間)、屋外(その家の軒下)のSPM濃度測定と並行して個人暴露測定を行い、三者の関係を検討している。

 ここで紹介する結果は東京都板橋区内の幹線道路周辺の喫煙者のいない一般住宅の例である。

 対象者の行動調査から求めた家屋内外別滞在時間に、家屋内外の各48時間平均濃度を掛けてSPM個人暴露濃度推定値とした。今回の対象者は外出時間が短いため、この推定値は屋内(居間)濃度に近いものである。この推定値と個人サンプラーによる測定値との対応を図に示した。全体の相関係数は0.80であるが、個人ごとにはさらに高い相関(0.86〜0.97)を示している。しかし実測値はいずれも推定値より低く、屋内測定点(居間)の代表性、濃度の日内変動などの問題が残されていると思われる。なお、対象者自身の活動に伴う発じんにより、10μm以上の粒子濃度は屋内濃度より高く、相関もなかった。したがって、SPM個人サンプラーには10μm以上の粉じんを確実に除く仕組みが不可欠である。

 この測定では家屋内外のSPM濃度にも0.91の高い相関がみられたので、個人暴露濃度と屋外濃度の間にも有意な相関があった(r=0.70)。

 これまでの調査結果から、屋外のSPM濃度による屋内SPM濃度の推定は、家屋構造別に行えば可能であると考えており、さらに個人の生活パターン等の要因も考慮した個人暴露濃度推定法を確立できればと思っている。

 また、秤量誤差を小さくすること、測定時間を短くすることなど、改良すべき課題も多い。

 現在、大阪市環境科学研究所と共同研究を行っているが、地方自治体の環境研究所でSPMの個人暴露測定に関心を持つところが増えている。相互に協力しながら測定例数を増やし、暴露評価のための標準的データを蓄積していきたい。

(たむら けんじ、環境健康部環境疫学研究室)

図  SPM個人暴露濃度の推定値と実測値