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磁場型高分解能質量分析計を用いたICP−MSの開発について

研究ノート

伊藤 裕康

 微量金属元素の分析装置として知られているICP-MS(誘導結合プラズマ源(ICP)をイオン源に導入した質量分析計)は、感度の高い点、多元素同時分析が可能である点、同位体分析ができるといった点から、微量分析手法として非常に有用であることが認識され、環境分析を始めとして種々の分野で使用されている。しかし、一般に用いられているICP-MSの質量分析計は、四重極型質量分析計(QMS)で、分解能はunit mass程度であるため、いくつかの元素、同位体が干渉を受け、分離検出できないことが明らかとなってきた。特にプラズマガスにアルゴンを用いるため、 ArO等のバックグランドピーク、水及び酸の試料の溶媒に起因するピーク、マトリックス元素あるいは試料の含有元素の酸化物等の分子イオンが元素イオンに重なり検出限界を決定していた。さらに同位体元素比の測定や、ppt(ng/kg)、ppq(pg/kg)レベルといった高感度分析が進むにつれて妨害ピークの影響は大きくなると考えられた。これらの対策の一つとして我々は、無機元素分析に必要と考えられる分解能3,000以上を有する磁場型高分解能質量分析計(HRMS)をICPに接続し、ICP-HRMSの試作を行った(図1)。当初、ICP-HRMSの開発は様々な問題点があった。その一つに、 HRMSは数KVのイオン加速電圧によってイオンに運動エネルギーを与えるため、大気圧下のプラズマを質量分析計に導入するインターフェース部(サンプリングコーン、スキマーコーン)でエネルギー付加される必要があった。これにより、高電圧のイオン加速電圧の絶縁対策が技術的に問題となっていた。これらの問題点は現在かなり改善され、ICP-HRMSの有用性について検討を行っている。図2はICP-HRMSによってチタンの硫酸溶液を分解能 R=1,000とR=10,000で測定した結果である。48Ti+(m/z:47.948)とSO+(m/z:47.967)の理論分解能値は約2,500であるため、分解能を10,000にすることにより、48Ti+とSO+は、完全分離測定できた。

 今後、ICP-HRMSは、環境試料分析、先端技術の素材分析等の超微量金属元素の分析装置として使用され、多くの知見が得られるものと期待される。

(いとう ひろやす、化学環境部計測管理研究室)

図1  ICP-HRMSの概略図
図2  ICP-HRMSによるチタンのマススペクトル