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微生物生態学への分子生物学的なアプローチ −環境中からの微生物DNAの検出−

研究ノート

岩崎 一弘

 微生物は世界中のあらゆる環境中において普遍的に生存し,地球規模での物質代謝に大きく関与している。その生態を把握するためには,環境中の微生物を検出し,性質を調べていくことが重要である。また,環境基本計画において生物を活かした環境整備技術の一層の開発・普及を図ること(第3部,第4章)が定められ,環境浄化等の野外における微生物の利用が期待されてきており,応用面においても環境中における微生物の検出法・定量法の確立が求められている。

 従来,環境中の微生物は培養を基本とする希釈平板法によって検出されてきた。しかしながら,全ての微生物が実験室内で培養できる訳ではないため,この方法による検出には限界があり微生物生態学の進展が遅れているのが現状である。

 最近,こうした問題の解決を目指し,環境中から得た試料から生命の本質である遺伝子(DNA)を回収することが試みられている。 DNAは各微生物種に特有であるため,分子生物学的手法によって解析すれば,培養せずに特定の微生物を検出することが可能となる。主に海外においていくつかの報告がなされているが,定量的な手法はいまだ確立していない。そこで,土壌試料からの定量的な回収法・検出法の開発を目的とし,まず微生物 DNA 回収に及ぼす土壌の性質の影響を調べた。

 茨城県内の6種類の土壌(砂質土,沖積土及び火山灰土各2種)試料に組換え微生物を散布し,そのDNAの回収を試みた。撹拌,遠 心分離操作を繰り返して土壌粒子と微生物とを分離した後,組換え微生物を溶かしてその細胞内のDNAを回収し,そのDNA重量から回収率を求めた。回収率は土壌の粘土率,一定土壌量当たりのフミン酸量,および有機物に由来する炭素の含量といった物理化学的諸性質に大きく影響され,肥沃な土壌ほど回収し難くなることが認められた(図)。

 今後,さらに各種の条件での回収実験を行い,定量的なDNA回収法・検出法を開発するとともにこの手法による新規な環境微生物の定量法を確立することを目指している。また,この手法を応用して野外に導入する浄化微生物の管理等にも役立てたいと考えている。

図  土壌試料からの微生物DNAの回収率と各種土性との関係

(いわさき かずひろ,地域環境研究グループ新生生物評価研究チーム)

執筆者プロフィール:

東京理科大学大学院理工学研究科修士課程修了。
〈趣味〉スキー,バレーボール,旅行