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ノースカロライナ州リサーチトライアングルパークより

海外からのたより

今井 秀樹

 私は本年3月より,米国環境保護庁(EPA)の国立健康環境影響研究所(NHEERL: National Health and Environmental Effects Research Laboratory)に客員研究員として滞在しています。NHEERLのあるノースカロライナ州リサーチトライアングルパークは,1950年代に国策によって開発された研究都市で,現在60あまりの研究施設が6,700エーカーの範囲の中に点在しています。私の知る限りこの地域の治安は非常に良く,農家の仔馬が銃で撃たれて怪我をしたことが新聞のトップ記事になるほど安全な所です。

 NHEERLにある6つの部(Division)は,うち4つが毒性学関連であり,私はこの中の神経毒性学部門(Neurotoxicology Division)に滞在しています。ここでは,物理・化学的環境因子がヒトの神経系へいかなる影響を及ぼすかを,動物実験のデータから予測・外挿することが目標とされています。20人の研究者達によって分子レベルから行動レベルまで幅広い分野が網羅されていますが,直接ヒトを対象とした研究は行っていません。話をしてみるといずれの研究者も,研究の究極の目的をリスクアセスメント・マネジメントに置き,自分の仕事がそのどの部分に該当するかを明確に意識しながら研究を進めています。したがってヒトを直接の研究対象としていないにも関わらず,自らの研究を語るときには “human”の単語が頻発します。しかし,このような仕事の方向づけが,その仕事に従事するものをして興味を喚起せしめるか否かは全く別問題であるように思えます。この研究所の姿がより進んだものであるとすれば,研究者は「おもしろい」という観点(さらにつきつめれば「良い仕事」という観点かも知れませんが)からは完全に己を遠ざけて,自分の研究対象に没頭しなければならないことになり得ます。一方,この研究所は純粋な研究機関であるとは言い難く,多分にお役所的雰囲気に充ち満ちているところでもあります。実際に実験室での仕事やデータ収集等を行うのはコントラクターと呼ばれる外注業者であり,各研究者はそのデータ解析と書類作成にその大半の時間を費やしています。勤務時間も厳密に8時半から5時までで,夜間や休日には建物の中には警備員しかいなくなります。このような研究環境が海外からの客員研究員の数を少なくしている原因であるのかも知れません(常時10人内外。一方,隣にある国立環境保健学研究所(National Institute for Environmental Health Sciences)には200人に及ぶ海外からの客員研究員がおり,うち日本人は約30名)。したがって,私はこの「海外からのたより」欄にこれまで寄稿された研究者の方々とはかなり異なった経験をしているのではないでしょうか。

(いまい ひでき,地域環境研究グループ都市環境影響評価研究チーム)

メッセージ:

帰国の日を心待ちにして過ごしている今日この頃です。