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マサチューセッツ工科大学Parsonsラボより

海外からのたより

原田 茂樹

集合写真
中央がDr.Eric Adams,その右が著者。

 私は,フルブライト若手研究員プログラムにより,昨年8月末より一年間の予定で,米国マサチューセッツ州ケンブリッジにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)の土木環境工学科に滞在しています。

 土木環境工学科は,主に水についての研究を行う Ralph M. Parsons Laboratoryと,主に構造・交通等を研究する Henry L. Pierce Engineering Laboratoryの2つのラボに,組織も場所も分かれています。私が滞在しているParsonsラボでは,十数人の教官,約80人の大学院生,そして十数人のポスドク・Visiting Scholarが,水文学・水資源学,環境水理・環境工学,水環境化学・生物学・生態学,の大きく分けて3つのジャンルの研究を行っています。私は土木環境工学系の出身ですが,当学科で行われている研究の幅が大変広いのには驚きました。ポスドクやVisiting Scholarの出身だけを見ても,工学,理学の様々なジャンルにまたがっており,刺激的な研究環境が作られています。扱われている現象の時間・空間スケールは研究の手法によっても異なりますが,テーマとしては,広域水循環・気候モデル,海洋への物質輸送,海洋のピコプランクトン(大きさ2ミクロン以下の植物プランクトン。海洋の基礎生産の大きな割合を占めることが近年明らかとなった)の動態など,地球環境に関するものが目立ちます。それらをはじめとする様々な分野でのメジャー誌に,多くの研究論文がコンスタントに発表されています。

 一方,研究の場を離れると,ラボは非常に家族的で,明るい雰囲気に満ちています。ラボ内で行われるちょっとしたパーティーに加え,家族を対象とした催しものも多く,自然に交流を楽しめるようになっています。催しなどは,実際には特に意図なく行われているのかもしれませんが,研究対象や立場が異なる人達の集団において,全体のムード作りに一役かっているのではないか,と思います。

 こちらでの私のアドバイザーは,Dr. Eric Adamsです。彼の研究室(環境水理)では,海洋の3次元流動・物質循環モデル,河川流域の水文モデルなど,モデルを中心とした研究が行われています。特に,水・物質移動に関するこだわりが強い研究室です。私は,環境研で携わってきた海洋メソコズム(現場の海洋を隔離する実験生態系)について,生態系を維持するための流動場の制御に中心をおいて研究しています。写真は,実験を行っている「造波水路」の前で,Dr. Eric Adams,及び同じ装置で実験をしている学生達とともに撮ったものです。一般に,回りの学生達は皆,好奇心・探求心が強く,実験・研究を非常に楽しんでいます。もともと実験や研究に対して全体の雰囲気が前向きなのか,時間に追われ,結果も求められているにも関わらず,大らかに研究しているように見えます。一方,よく言われることですが,実験,解析についてのイメージ確認,既往の文献の読み込みとディスカッションには多くの時間がかけられているようです。ピコプランクトンのグループが行っている雑誌会に一学期間参加したのですが,かなり焦点を絞った上で,さらに毎週テーマを決め,3,4つの代表的論文について徹底的に議論を積み重ねており,かなりハードな内容でした。具体的な研究内容以外にも,彼らの研究の進め方,考え方についてよく学びたいと思っています。

(はらだ しげき,地球環境研究グループ海洋研究チーム)

執筆者プロフィール:

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了,工学博士
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