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環境標準物質

環境問題豆知識

田中 敦

 大気や水などに含まれる各種の有害物質の濃度には基準値が設けられており,環境計測やモニタリングの分野で化学分析は欠かすことができない。しかし,試料を装置にかければ誰でも正しい分析値が得られるわけではない。正しい分析値とは,繰り返し分析したときのばらつきが小さく,かつ,それが真の値に近い値のことである。ばらつきの大きさ(精度)は,分析者の習熟によって向上させることができるが,真の値からのかたよりの少なさ(真度)はどうやって知るのであろうか。そのために役に立つのが標準物質である。標準物質には,種々の分析機関において原理の異なる分析方法を用いて得られた結果が,真の値とみなされる保証値として表示されている。環境試料は,水,土壌,大気粉じん,生物,生体など多岐にわたるため,種々の媒体に関する環境標準物質が必要とされる。分析者は,測定対象にあった環境標準物質を選び,日常の試料と並行して分析し,保証値からのかたよりをもって腕だめしする。また,新しい分析法を開発する際にも,環境標準物質を用いることで,その分析法の有効性を評価することができる。

 国立環境研究所では1980年から環境標準試料の名称で,標準物質の作成,頒布を行っている。初めの10種は,元素濃度を保証したものであり,11番目以降は,魚肉中の有機スズや頭髪中のメチル水銀などの化学形態に関するものになっている。

(たなか あつし,化学環境部動態化学研究室)