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アナーバーから,こんにちは

海外からのたより

青柳 みどり

 先日,The theory of reasoned action, The theory of planned behaviorで著名なIcek Ajzenのセミナーがあった。彼は,Fishbein教授とともにこの2つの理論について数多くの業績をあげている。共著の論文の多くは1970年代に書かれているにもかかわらず,この分野では,いまだに最初に引用される論文なのである。紹介された履歴と照らし合わせると,彼がイリノイ大学で学位を取りマサチューセッツ大学に職を得て数年の間に書かれたものが大きな業績となって残っているわけで,天才肌の学者といっても差し支えないであろう。

 彼の仕事は,態度と行動の関係を理論的に説明したことに大きな特徴がある。災害などの突発的な場合の行動ではなく,就業選択,消費行動などの一般的な行動について態度や価値観,規範などがどのように影響するかをモデル化したのだが,実際の結果をうまく説明することに特徴がある。人々がある行動をとるのは,その行動に関する本人の「意図(Intension)」の強さによる。そして,意図は「態度(Attitudes)」「規範(Norm)」「認識された有効性(Perceived Efficacy)」の3つの要因で規定される。それらの背後には,行動に対する規範,一般的な「価値観」と,行動抑制要因がある。心理学的には,ある一定の状況に対して,「介入(Intervention)」をすることによってそれぞれの要因の効果の度合いを分析する。例えば,現状のごみ収集制度をコントロールとすると,有料制度を導入してみる(インセンティブを与える)ことが「介入」の一つの例である。

 さて,質疑応答では,昨今の社会的な状況を反映してか,環境保全行動についての質問が出た。例えば,自動車を使うか,バスを使うか,といった選択において,環境保護意識が高まったといわれてもバスを選択する人は増えていないではないか,という質問である。彼の答えはこうであった。「第一に,交通モードの選択に際して,環境保護ということがその行動に直接関連する価値観として関連づけられているかという問題,第二に環境保全行動というのは様々な行動を総称したものであり,一つ一つの行動をみるためにはそれぞれの行動に関する価値観,規範,認識をみなければならないのであって,ある行動を説明するのに一般的,総称的な価値観,規範,認識では説明できない。」確かに行動に焦点をあてて考えた場合には,それぞれの行動を起こすにいたる事情はそれぞれに異なっている。ひとことで環境保護といっても,一人一人によって意味するところは違っている。総称的な「環境保護意識の高まり」を使って特定の行動を説明しようとしても無駄である,ということである。

 という具合に,この一年,勉強させていただいています。ミシガン大学は全米で早い時期にできた伝統ある大学の一つであり,また所属している社会調査研究所は,この分野でのメッカ的な存在で,Ajzen教授のような著名な方々も多く訪れます。ということで,せっかくの海外生活なのですが,あまりアメリカ各地を訪ねる余裕がありませんでした。これから夏休みにかけて学会シーズン。学会参加も兼ねて各地を訪問してみようと思っています。

リスの写真
写真:ミンガン大学キャンバスの主のリス。北米の大学キャンパスでは非常にポピュラーであるらしい。

(あおやぎ みどり,社会環境システム部環境経済研究室)