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ドイツ語漬けの日々

海外からのたより

一ノ瀬 俊明

 2月末よりフライブルク大学客員研究員(気象学科)としてドイツに滞在している。フライブルク(Freiburg im Breisgau)は「環境首都(Umwelt Hauptstadt)」として日本でも有名である。環境定期券やソーラーハウスなど,ここで有名な環境共生的政策については日本でも書籍が発行されている。私がここで学ぼうと思っているのは,「風の道」に代表されるドイツの環境共生的都市計画技術(特に都市熱環境制御)である。

 風の詳細な調査に基づき,清浄な気流を市街地に導入するため,ドイツ特有の厳しい地区詳細計画を駆使して,道路,公園,森林,建築物などの再配置を含めた都市整備計画が進められている。丘陵地帯で夜間放射冷却により生成され,市街地を吹き抜ける冷気流は天然の環境緩和機能を発揮する。これはさながら「西洋の風水」とよぶべきものであろうが,今日風水文化発祥の地・アジアの大都市の多くは,深刻な大気汚染現象や都市の高温化などの問題を抱えている。私はこの「風水」をアジアのメガシティに適用できないものか,という希望を持ってこの在外研究を進めている。

 さて,在外研究を体験すれば英語力が飛躍的に向上するらしいが,小生の場合はちょっと特殊かもしれない。仕事はもちろん,生活も英語で大丈夫というのは大間違いで,英語の通じなさには初日から一家で面食らった(この地域では第一外国語がフランス語だった期間が長い)。十数年前の参考書を半分ほど復習していたが,研究室の面々につたないドイツ語で自己紹介したのが運のつき。その後みなドイツ語で話し掛けてくるようになってしまった。以来半年,(相手のいうことがどうしても理解できないケース以外)英語を使う機会はほとんどない。時折簡単な単語を忘れてそこからドイツ語になったり,しかしながら英語ほど語彙が豊富ではないので,英語に戻そうとしてエンストしたり。また,官公庁からの手紙はすべてドイツ語だ。2,3日放ってから辞書を片手にじっくり読んでみて,緊急かつ重大な手紙だったことに気が付いたり。英語で頼む,といってもまず対応してくれない。大学のアナウンスメントもすべてドイツ語。ドイツの大学に留学するにはドイツ語ができなければまず無理で,英語力を条件に多くの留学生を受け入れている我が国とは大変な違いだ。それでもキャンパスのいたるところにアジアを含め世界各国からの留学生を見かける。もちろんドイツ語は流暢だ。日本人は教官・学生を合わせても1桁しかおらず,しかも理系の人は少ない。明治の一時期,日本はドイツから多くを学んだが,今日では英語圏偏重の感がある。学術の世界では英語が公用語とされているが,英語は決してインターナショナルではない,との思いを新たにした。現在少しずつではあるが,ドイツの各都市でご活躍の専門家諸兄から,「ドイツの風水」をめぐる貴重な情報を集めている。

 残念ながら紙面の制約上,こちらで収集した興味深い学術情報や,生活上のエピソードまでは書ききれない。それらは個人のホームページに日々書き加えているのでぜひご覧いただきたい。

国旗の写真
ドイツ・フランス・スイスの3国国境(ドライラントエッケ)
ライン川上流地域はまさにヨーロッパの中央である

(いちのせ としあき,地球環境研究センター)