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循環型社会の構築に向けたミレニアムプロジェクト

研究プロジェクトの紹介(平成12年度開始廃棄物対策研究)

増井 利彦

 平成13年1月から省庁再編の一環として廃棄物関連業務が厚生省から環境省に移される。これに伴い,現在の国立公衆衛生院の廃棄物部門が国立環境研究所の関連部署と統合され,新たに廃棄物部門が作られることが決まり,循環型社会の構築に向けて研究を開始する。こうした背景のもと,平成12年度から,国立環境研究所と国立公衆衛生院が共同で,総理主導のミレニアムプロジェクトの一環として「廃棄物対策を中心とした循環型社会に向けての展望と政策効果に関する定量的分析」を実施することとなった。ミレニアムプロジェクトでは「環境問題」が中心課題の1つとなっており,そうした課題の一翼を本研究は担っている。

 本研究では,国立環境研究所を中心に長年にわたって開発してきたAIM (アジア太平洋温暖化統合評価モデル)を廃棄物等の総合的な環境問題に適用するために開発中の応用一般均衡モデルを用いたマクロな視点の経済分析と,国立公衆衛生院で開発されてきたマテリアルフロー(材料や製品の流れ)及びサブスタンスフロー(材料や製品に含まれる化学物質の流れ)モデルを拡張した廃棄物管理モデルを用いてミクロな視点から人間社会への負荷を評価する分析をもとに,循環型経済社会の構築に向けた政策を評価するというものである。本課題は,1)廃棄物処理業の経済評価とそのマクロ経済への影響に関する定量的分析,2)マテリアルフロー及びサブスタンスフローからみた廃棄物のリスク評価・管理モデルの開発,3)政策デザインとその実施のための定量的分析,という3つのサブテーマからなる。

 国立環境研究所と京都大学では,これまでに環境と経済を統合した応用一般均衡モデルの開発を手がけてきており,環境白書や経済企画庁の「循環型経済社会推進研究会中間報告」においてすでに取り上げられてきた。サブテーマ1)においては,この応用一般均衡モデルに対してデータを最新年のものに更新するとともに,廃棄物処理や商品の取引に関するマテリアルバランスを保つための定式化等の改良作業を行う。このモデルを用いることで,地球温暖化対策や逼迫する最終処分地に対する廃棄物政策といった環境政策がマクロ経済に及ぼす影響を定量的に分析することが可能となる。特に,今回の研究では循環型社会の構築に向けて,廃棄物の発生抑制や脱物質化といったこれまで分析対象とならなかった取り組みや政策が,我が国の経済活動にどのような影響をもたらすかという点について評価を行うこともサブテーマ3)で取り上げている。

 サブテーマ2)ではミクロな視点に立った分析を行う。マテリアルフローやサブスタンスフローを統合的にとらえ,生産段階をも含めた廃棄物処理ライフサイクルにおいて重要な有害化学物質を対象に,人及び生態系への影響の調査・解明,環境への漏出量などの評価を行い,低リスク循環型経済社会形成へ向けての施策変更によるリスク評価を行う。また,こうした分析をもとに廃棄物処理処分施設におけるリスク早期警戒システムについても開発を行う。

 こうした研究の成果は,廃棄物問題や地球温暖化をはじめとする様々な環境問題への対策の指針となるだけでなく,経済発展と環境保全を両立させる持続可能な発展を実現させる筋道を示すという意味で重要である。また,近年注目されつつある環境産業を経済活動及び環境保全の両面から評価することが可能となり,環境産業の発展に大きく寄与するといえる。本稿で紹介したようなマクロな視点の分析とミクロな視点の分析を統合させるといった取り組みはこれまでにほとんど例がない。こうした研究を足がかりに,循環型社会の構築に向けた様々な政策とそれによる環境影響を評価する予定であり,今後とも関係各位のご協力とご支援をお願いいたします。

(ますい としひこ,地球環境研究グループ温暖化影響・対策研究チーム)

執筆者プロフィール:

1970年生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。結婚して1年半が経ち,ようやく同居生活が決まる。2000年4月から東京工業大学で学生指導をしており,大変ではあるが,研究にもいい影響が出てきていると実感している。