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バイオ・エコエンジニアリング研究施設

研究施設業務等の紹介

水落 元之

 21世紀は環境の世紀といわれています。しかしながら我が国のみならず開発途上国では水環境は有機汚濁や富栄養化が進み,安全な水資源確保のための対策が国際的な緊急課題となってきています。特に,多くの開発途上国では衛生施設の不備により感染症のリスクが増大していると指摘されています。水は再生可能な資源といわれてきましたが,このような質の劣化による生命の源としての水資源の価値の低下は,社会生活全般に大きな影響を与えることが懸念されています。したがって,開発途上国を含めた水環境改善に資する研究を推進し,国際的リーダーシップを発揮することは極めて重要となります。

 2001年11月に竣工したバイオ・エコエンジニアリング研究施設は開発途上国を視野に入れた水環境改善に関する国際的研究活動の拠点となるように整備された施設です。ここで用いている,「バイオエンジニアリング(生物処理工学)」とは水質浄化に有用な微生物が持つ浄化能力を最大限に引き出すための技術であり,排水中の窒素,リンの除去可能な高度処理浄化槽等の開発が挙げられます。同じく,「エコエンジニアリング(生態工学)」とは自然生態系が本来持っている浄化能力を最大限に引き出すための技術であり,食物として収穫可能な水耕栽培植物を用いた経済性を考慮した浄化技術,食物連鎖を強化したラグーンを用いた処理技術,湿地を活用した処理技術の開発などが挙げられます。これらの技術の適用により,有機汚濁,富栄養化,温室効果ガスの発生防止が可能となります。「バイオ・エコエンジニアリング」とは,これらの技術の組み合わせによる処理の効率化を目指した技術を意味しています。このように本施設は様々な国情,流域特性に適応し,定着可能な技術開発を行う国際的拠点を目指しています。

 本施設(写真1)は美浦村の臨湖実験施設の敷地内に併設されたもので,霞ヶ浦湖畔に位置しています。

写真1
写真1 バイオ・エコエンジニアリング研究施設全景

 本施設の最大の特徴は美浦村の農業集落排水処理施設からの実際の生活排水を用い,春夏秋冬の年間を通した温度変化を大型恒温槽で再現することにより,1年間の水温変動を考慮した性能評価研究が,従来に比べて短期間で可能となったことです。本施設は美浦村の農業集落排水処理施設から生活排水を搬送する施設,温度制御下での研究評価試験用恒温施設,自然条件下での研究用多目的屋外フィールド,水耕栽培浄化,土壌浄化などの開発・評価を行う生態工学技術実験フィールドから構成されています。

 また,本施設と農業集落排水処理施設の間で,真空式下水道システムにより汚水を搬送し,研究に用いた汚水は再度,処理施設へ返送するため,美浦村の処理施設に真空ステーション(写真2)が設置されています。農業集落排水処理施設からは1時間に10m3の汚水搬送が可能です。

写真2
写真2 美浦村の農業集落排水処理施設内の真空ステーション

 評価試験用恒温室(写真3)には高度処理型浄化槽等の新技術開発と評価が行えるよう小型浄化槽用12室と大型浄化槽用4室が整備されています。室温は10~30℃に設定でき,汚水は,朝夕の実際の生活パターンの水量ピークに応じた供給が可能です。また,人工光装置の設置により,湿地処理などの熱帯・温帯地域等の条件を再現した状態で,生態工学システムの開発・評価が可能となります。

写真3
写真3 恒温室内

 多目的屋外フィールド(写真4)は,自然条件下におけるバイオ・エコエンジニアリングシステムの処理特性の解析評価が行えるよう,1,200m2のスペースとそれらに対応した汚水の供給ができるようになっています。なお,屋外フィールドの一角には美浦村から搬送された生活排水の貯留槽,汚泥処理の研究開発のための汚泥濃縮・貯留システムなどが設置されています。

写真4
写真4 屋外フィールド

 生態工学技術実験フィールド(写真5)には,水耕栽培浄化実験施設,土壌浄化実験施設等のエコエンジニアリング実験施設が整備されています。ここでは汚水,浄化槽処理水,霞ヶ浦湖水の低濃度から高濃度の原水を用いた高度化技術開発が行えるようになっています。

写真5
写真5 生態工学技術実験フィールド

 本研究施設にはこのほかに,水環境に関する化学分析に必要な分析機器等を整備した化学分析室,研究解析,評価のための居室スペース,実験装置の試作,試験を行うスペースが整備されています。

 バイオ・エコエンジニアリング研究施設は大気,土壌,水の相互に関連する環境低負荷・資源循環型の技術開発を内外の産官学の研究者と共同して実施し,健全な環境創造を目指す国際的研究拠点です。すでに,日中韓三環境大臣会合において合意された淡水(湖沼)汚染防止プロジェクトを推進する中核機関となっています。また,JICAの技術研修の場,あるいは環境教育の場としての活用が始められようとしているところです。

(みずおち もとゆき,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)

執筆者プロフィール

北海道出身。最近,自分自身の富栄養化を反省し,ひたすら負荷削減に努める毎日です。また,無趣味を趣味と考え,ふらりと齢を重ねてきたが,趣味を模索することを趣味にすべく健闘中であります。