編集後記
環境研ニュース本号の表紙は熱帯太平洋。穏やかな海と雲が浮かぶ空が広がる。遠くを見る目になってしまう。なぜか気持ちが落ち着く。本編に出発。最初は人間の五感の話,次が温室効果ガスの100km規模での推定,さらにスケールアップして地球規模でILASデータと化学輸送モデルの話が続く。何という研究対象尺度の違いだろうと感嘆しつつ次に進むと,ヒトの体内の話が待ち受けていた。アレルゲン,シナプス,海馬,扁桃体。急激なスケールダウン。最後に太平洋1ヵ月,航海のお話し。また,海が見えてホッとする。
環境研での研究領域の広さや研究対象スケールの違いは,スゴイ。複数の研究領域に跨る研究という意味合いで学際的(interdisciplinary)研究という概念がある。しかし研究対象のスケールがハチャメチャに異なる時に学際的研究はほんとうに可能だろうか?研究テーマ間での違和感やスケール効果のようなもののために,独立した研究テーマの単なる集合体にならざるを得ないのでは?
流体力学では相似律(similitude)という考えがある。小さな模型で得られた実験結果から実際の構造物で起こる現象を推量するのに用いる。レイノルズ数やフルード数というパラメータを等しくすることによってスケールが全く異なる模型での現象と実際の構造物での現象を相似に保つ。対象スケールがとても違うテーマを含む学際的研究を推進する際には,研究をインテグレートするために,研究テーマ間を同一の基準で結ぶ相似律のようなパラメータが必要なのかもしれない。う~ん,難しい。
何でこんなことを考えたのだろう,「なんでだろう」と首を捻りつつ表紙の写真に戻って再び心和む。そう言えば,前号の表紙では広大な草原で小さく見える羊が約80匹(カウントしました),草を食べていた。スケールの大きな写真をみると,なぜか視線が上向きになる。このような視覚的刺激は,研究(および人生)の長期的展望を考える時,たいへん好ましい。
目次
- 水面下の環境問題
- 温室効果ガスの収支を数百km規模で推定することは可能か?─大気中の濃度観測からのアプローチ─シリーズ重点特別研究プロジェクト:「地球温暖化の影響評価と対策効果」から
- 化学輸送モデルとILASデータによる極渦崩壊後の成層圏大気の混合の研究シリーズ重点特別研究プロジェクト:「成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明」から
- 低濃度有害化学物質の刺激作用研究ノート
- 「環境・脳・記憶」環境問題基礎知識
- 研究船「みらい」で迎えた新年海外調査研究日誌
- 「第18回全国環境研究所交流シンポジウム」−廃棄物・リサイクル研究の現在と未来−
- 「第22回地方環境研究所と国立環境研究所との協力に関する検討会」報告
- 新刊紹介
- 表彰・人事異動
- 国立環境研究所ニュース22巻1号