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オランダでのひと月

海外調査研究日誌

滝上 英孝

 現在,基盤的に実施している研究,「POPs(Persistent Organic Pollutants; 残留性有機汚染物質)汚染物・処理物のバイオアッセイモニタリング」の一環として今年1月にオランダ・アムステルダムに滞在し,ひと月の間,アムステルダム自由大学(付属環境研究所)とバイオベンチャー企業であるBio Detection Systems(BDS)で訪問実験を行ってきました。汚染底質に含まれるPOPsの毒性学的なプロファイリングや,POPsのうち先行的に処理の始まっているPCBの化学処理物の安全性評価を化学分析とバイオアッセイの両輪で実施してみようというのが研究の目的ですが,今回の滞在では,甲状腺ホルモン系撹乱作用の迅速スクリーニングを目指したTTR(transthyretin; 甲状腺ホルモン輸送タンパク)結合アッセイの当該試料への適用を行ってみること,人対人の学術交流(フルタイム英語,口頭でのQ&A,ディスカッションに挑戦!?)を図ることが滞在目的でした。今回の訪問実験を受け入れていただいたアブラハム・ブラウワー教授は,環境毒性学(PCBを始めPOPsの代謝,生殖への影響)の世界的権威で,BDSのCEO(経営最高責任者)も兼職しています。

 欧州では,昨夏に食品,飼料中のダイオキシン規制基準が発効しており,実際に高分解能GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)では時間的,経済的に対応しきれない多検体をスクリーニングするためのバイオアッセイ等,簡易分析法の公定法的な利用体系が整備されているところです。滞在したBDSにおいても,ブラウワー教授の開発した組換え細胞を用いるCALUX(Chemical Activated Luciferase Expression)アッセイを用いて牛乳中のダイオキシン類の受託分析を行っている最中でした。液液抽出,2層シリカゲルカラム一本でシンプルな前処理系が確立されていました。環境,廃棄物の方面から規制が進められている日本とは違い,ヒトのダイオキシン類摂取の決定経路である食品,畜産飼料の基準を設け,監視システムを整備するあたり,1999年のベルギーの食肉汚染事故の苦い経験(飼料へのPCB混入に端を発する食肉,鶏卵汚染。欧州では,莫大な調査検体数に分析が追いつかず,数千億円にのぼる経済損失をきたした)が契機になっているのでしょうが,日本もヒトに対して,より直接的な食品,畜産物についてアクションを起こす必要性を正直,感じます。

筆者らの写真
写真 ブラウワー教授(右)とBDSラボヘッドのハリーと
この身長差,チーズの効果はかくも大きいのか?横幅では負けないが・・・。

 冬の北海沿岸特有の曇天と雨天の連続する寒い中,滞在先からラボまでは自転車好きのオランダ人よろしく自転車で通いました。オランダでは一日の仕事は何をおいてもコーヒーから始まります。朝8時半ころから出勤したスタッフがミーティングルームに集まってきて一堂に会してのお喋りですが,この時間はリフレッシュメントであると同時に非常に大切な役割を果たしており,その日の予定の確認や,研究の方向性の協議を全員の揃っている場面ですっきり済ませられる利点があります。午後は4時を過ぎる頃から帰宅時間となり5時過ぎにはほとんど誰もいなくなります(効率の良さはさほど感じませんでしたが,「時短」を見せつけられました)。滞在中に実際の面倒をみてくれたラボラトリーヘッドのハリー・ベセリンクは,共働きで水曜日は子供のために育休を取って,家で仕事をしていました。ハリーとは同世代で仕事と家庭の両立,幼子を抱える立場が同じであり,公私両面についていろいろと話をしました。ハリーをはじめ,スタッフの家でご馳走になった家庭料理(青エンドウ豆のペーストをベースにしたエルテンスープやジャガイモを潰して野菜やベーコンと和えたスタムポット)は,華美ではないけれどもしっかりおいしく,滞在の記憶として残っています。今夏,再びオランダを訪問して実験を行う予定です。

(たきがみ ひでたか,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)

執筆者プロフィール

1970年香川県生まれ,毎日三食讃岐うどんでもOKで,実家より取り寄せています。今は,廃棄物研究の視野を広げる意味で何事も経験,勉強中です。目下の趣味は1歳の娘との戯れ。2000年4月より環境研にお世話になっています。