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地球温暖化問題に関する国際交渉

【研究ノート】

久保田 泉

1.はじめに

会場の様子の写真
写真 COP9全体会合の様子(2003年12月,ミラノ)

 2003年12月11日,京都議定書は6歳の誕生日を迎えた。ちょうど,気候変動枠組条約第9回締約国会議(COP9,写真参照)の会期中にあたっており,NGO主催の「誕生日パーティー」が開かれた。しかし,手放しでお祝いしてはいられなかった。同議定書がまだ発効していないからである。2001年3月にはブッシュ大統領が同議定書離脱を表明し,また,本稿執筆段階では,鍵を握っているロシアの動向が不明確なため,発効の見通しが立っていない(発効要件については後述)。

 本稿では,地球温暖化問題に関する国際交渉のこれまでとこれからを簡単に紹介することとしたい。

2.地球温暖化問題への国際的取組みの経緯

 国際政治の場において地球温暖化問題が地球規模で取り組むべき重要な課題として認識され始めたのは,1980年代後半のことであった。その後,政策決定者や科学者による議論を経て,1992年,気候変動枠組条約が採択された。

 気候変動枠組条約は,主に4つの内容を含んでいる。(1)条約の究極目標(「気候系に対して危険な人為的な影響を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガス濃度を安定化させること」)および原則(衡平,予防原則,持続可能な発展等),(2)発展の度合いに応じて締約国が負う義務((i)すべての締約国が負うもの=目録作成,実施に関する情報の送付等;(ii)附属書I国(西側先進諸国と旧ソ連・東欧諸国)が負うもの=温室効果ガスの排出を2000年までに1990年レベルに戻すべく気候変動を緩和するための政策措置を実施すること等;(iii)附属書II国(附属書I国のうちOECD加盟国)が負うもの=資金供与,技術移転),(3)条約機構の設置(COP,COP等に助言を行う補助機関(SB)),(4)その他手続事項(紛争解決,改正手続等)である。

 この条約は1994年3月に発効したものの,各国の温室効果ガスの排出量が減る気配はなかった。翌年のCOP1では,条約は気候変動問題の解決に不十分であるとされ,COP3までに2000年以降の附属書I国の数量化された排出削減目標を盛り込んだ新たな議定書に合意するよう決議された。これが,いわゆるベルリン・マンデートである。

 1997年12月,COP3において京都議定書が採択された。この議定書では,2008年から2012年の間に,温室効果ガス(CO2,CH4,N2O,HFC,PFC,SF6)の排出量を,先進国全体で基準年から5%削減することを目標に,附属書I国各国の法的拘束力のある数値目標が定められた。対象ガス,数値自体やその算定方法,その前提となる条件が提示され,交渉の結果,日本6%,米国7%,EU8%となった。なお,これは,達成すれば地球温暖化問題が解決するというものではなく,長い道のりの「第一歩」と位置づけられていることに留意する必要がある。その他にも,(1)吸収源による除去(森林によるCO2などの吸収・排出量の算入)や,(2)京都メカニズム(国内対策だけでは目標を達成できない場合に,他国と協調して削減目標を達成できる制度。共同実施(JI),排出量取引,クリーン開発メカニズム(CDM)を指す),(3)締約国が削減目標を守ることを確保するためのしくみ(遵守手続),(4)排出量と吸収量のモニタリング・報告・審査,(5)資金供与メカニズムにつき定められた。

 ところで,京都議定書が効力を発生するには,(1)55ヵ国以上が批准し,(2)同議定書を批准した附属書I国の1990年のCO2排出量が全附属書I国の排出量の55%以上になる,という2つの条件を満たさなければならない。(1)は既に満たしているが(2004年4月時点で122ヵ国が批准),(2)が満たされていない。現在,議定書発効の鍵を握っているのはロシアである(図参照)。ロシアは,排出量取引やJIのルールが自らに有利になるよう批准を引き伸ばしているといわれ,世界貿易機関(WTO)加盟交渉との絡みも取り沙汰されている。

排出割合のグラフ
図 京都議定書批准状況と1990年時点の附属書I国のCO2排出割合(条約事務局資料をもとに筆者作成)

 なお,京都議定書の運用細則については,その後も交渉が続けられ,2001年のCOP7においてマラケシュ合意が成立した。

3.温暖化交渉の今後—ポスト2012年問題—

 前述の通り,京都議定書では,附属書I国の第1約束期間の排出削減約束を置いているが,それ以降の取組みについては,附属書I国の削減約束の具体的数値を記した附属書Bの改正というかたちで決定されることとなっており,その交渉は2005年末までに開始することとされている(ただし,議定書が発効していることが必要)。現在,「第1約束期間後,国際社会の地球温暖化問題への取組みをどうするか?」という問題に世界中の関心が集まっている。これを「ポスト2012年問題」とか「ポスト京都」などという。この論点は様々であり,たとえば,京都議定書第1約束期間との連続性をどのように考えるか,数値目標を置くべきか,京都メカニズムはどうするか,議定書を離脱した米国や第1約束期間では排出削減約束をしていない途上国の参加をどうするか,衡平性をどのように考えるか,適応(起こっている気候変動への対処を指す。たとえば,洪水対策,防波堤構築等)をどのように位置づけるか,技術の発展をどのように推進していくか,等が挙げられる。

 現時点では,COP等の公式な場ではこの問題について議論されていないが,サイドイベント(公式会合の休憩時間を利用した,各種団体によるプレゼンテーションおよび議論の場)において,“前哨戦”が繰り広げられている。COP9でも,このテーマに関するサイドイベントが多数開催され,到底「これがいい」と決められる段階ではないが,「京都議定書の枠組を維持するべき」,「全体の枠組を作るのではなく,分野ごとに少数の国でやっていくべき」など,いろいろな問題について多様な意見を聞くことができた。

 ポスト2012年研究の一例として,当方の地球環境戦略研究機関(IGES)との共同研究を紹介したい(詳細は,http://www.nies.go.jp/social/post2012/(英文ページ)を参照)。本研究のキーワードは,「インセンティブ」である。アメリカの京都議定書離脱の例を見るまでもなく,国家間の合意を基盤とする国際法は,合意しない者に対しては無力である。2013年以降の国際制度がすべての国の参加を目指すのであれば,国家の“善意”に頼るだけではなく,合意しない者をなるべく出さないよう,参加のインセンティブを高める方策が必要となる。本共同研究は,以下の手順で進められる。(1)2013年以降の国際制度に参加するインセンティブは何かを洗い出す,(2)(1)のインセンティブを増す制度と手法を設計する,(3)2013年以降の国際的取組みのあり方のオプションを提示する,(4)(3)のオプションを評価する(評価軸:環境上の効果,衡平性,経済効率性,京都議定書第1約束期間との連続性)。

4.おわりに

 繰り返しになるが,京都議定書第1約束期間は,あくまでも,地球温暖化防止のための国際的な取組みの第一歩である。今後,大幅な排出削減が必要になることを忘れてはならない。一日も早く,この議定書が本当の意味で国際社会に「誕生」することを願いながら,将来枠組構築に資する研究に励んでいきたい。

(くぼた いずみ,社会環境システム研究領域)

執筆者プロフィール:

1975年生まれ。牡羊座・A型(猪突猛進型らしい)。学習院大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(法学)。専門は国際環境法。最近好きなことはサッカー観戦。自分でも体を動かさなければと思う今日この頃。