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水環境の健全化と液状廃棄物としてのし尿,生活雑排水等の環境低負荷資源循環技術の構築のためのバイオ・エコエンジニアリングに関する研究

シリーズ政策対応型調査・研究:「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究」から

稲森 悠平

プロジェクトの背景

生活排水としてのし尿,生活雑排水は液状系の廃棄物に分類されるものであり,有機物,水質汚濁,富栄養化を引き起こす窒素,リンなどを含んでいます。また,それらの汚濁成分の元になっている生ごみや排水処理残渣などは,リサイクル可能なバイオマス資源であるともいえます。これらの環境への負荷を効果的に削減し,同時にバイオマスとして資源循環を行っていくことは21世紀の重要な課題であるとともに,対策が遅れている開発途上国への技術移転・普及をも視野に入れて環境低負荷・資源循環型社会の構築を図り,引いては地域の流域管理の適正化へも大きく貢献することになります。

 上記の点を踏まえ,本研究プロジェクトにおいては4つのサブテーマを推進しています。サブテーマ1)では,液状廃棄物からの栄養塩類等の除去が富栄養化防止対策上重要な課題であること,我が国が100%輸入に頼っているリンは枯渇資源であることをふまえ,窒素・リンの除去・回収の可能な資源循環型処理システムの開発を行います。サブテーマ2)では,高度処理浄化槽の浄化機能を安定化・高効率化する上で必要不可欠な有用微生物の検出技術および定着促進技術,また,窒素・リンの現場管理技術の開発を行います。サブテーマ3)では,開発途上国も視野に入れ,有用植物を用いた食料生産および植物残渣のコンポスト化,太陽エネルギーを利用した池による自然浄化機能を人工的に高めて浄化を図るラグーンシステムの活用等,バイオ・エコエンジニアリング(生物処理工学と生態工学を組み合わせた工学技術)による浄化システムの構築を行います。サブテーマ4)では,植物残渣や食物残渣破砕物のコンポスト化等のバイオ・エコエンジニアリングと物理化学的処理との組み合わせによるハイブリッド化処理技術などによる窒素・リン等の資源循環効率の高度化を図るための環境改善システムを国内外において最適整備するための技術開発およびシステム評価を行います。

水環境の健全化と液状廃棄物としてのし尿,生活雑排水等の環境低負荷資源循環技術の構築のためのバイオ・エコエンジニアリングに関する研究

サブテーマ1:窒素・リンの除去・回収型技術システムの開発に関する研究

 土浦市内に整備したモデル地区において,試験装置を各種合併処理浄化槽(し尿と生活排水を一緒に処理するもの)へ導入して処理性能の解析・評価を行いました。その結果,高度処理浄化槽の目標水質である1リットル当たりBOD(生物化学的酸素要求量)が10mg以下,T-N(全窒素)が10mg以下,T-P(全リン)が1mg以下を達成可能なことがわかりました。さらに,リンが吸着飽和に達した担体から効率よくリンを脱離できること,脱離液は低温真空濃縮法等によって,高純度のリン酸三ナトリウムとして晶析させ回収することができました。

サブテーマ2:浄化システム管理技術の簡易容易化手法の開発に関する研究

 生物処理システムの維持管理の高度化のために,窒素除去を担う独立栄養硝化細菌を対象に,分子生物学的手法の先端技術の適用性を検討しました。その結果,生物処理システムにおいて本法を用いることで混合微生物の細菌叢の迅速なモニタリングが可能であり,硝化に関わる細菌群の動態を確認できました。また,硝化活性を指標とした微生物群集構造を解析する分子生物学的手法を適用することにより,生物処理システムにおいて大きな役割を演ずる,いまだ単離されていない硝化細菌群を検出できました。さらに,生物処理システムにおいて,付着担体の材質,構造,充填方法等の有用微小動物の生息条件を適正化することで,微生物活性の低下する低水温下でも有用微小動物を高密度に保持でき,処理水の清澄度が向上することがわかりました。

サブテーマ3:開発途上国の国情に適した省エネ・省コスト・省維持管理浄化システムの開発に関する研究

 熱帯シミュレータ(30℃以上の水温で,30,000Lux以上の高照度照明装置付きの屋内実験システム)内で,可食性の植物を用いた植栽浄化とラグーン浄化の両システムの組み合わせによる窒素,リン除去などの水質改善効果,およびテラピアなどの食用魚類導入によるラグーン中の藻類動態などの生態系に着目した浄化効果と汚泥低減効果などの解析を行ってきました。その結果,水耕植物,テラピア導入系で全有機炭素(TOC)除去率60%以上,全窒素(TN)除去率70%以上が得られ,熱帯地域においてラグーンシステムとして活用可能なことが明らかとなりました。

サブテーマ4:バイオ・エコと物理化学処理の組合せを含めた技術による環境改善システムの開発に関する研究

 バイオマスとしての生ごみのディスポーザ導入による適正処理システムの開発を行いました。その結果,生ごみなどの有機性廃棄物の機械的破砕処理と生物処理の組み合わせでは,効果的に有機物が処理されることが明らかになりました。

 また,高濃度有機性廃棄物としての畜舎廃棄物の処理法である高温好気処理では,水分調整と空隙の確保が可能なおがくず等の担体に有機性廃棄物を混合し,定期的なかくはんとともに通気を行うことにより,好熱菌の優占化による高速な有機物分解を実現できました。

 また,バイオ・エコエンジニアリングシステムの環境改善効果の評価として,藻類増殖数理モデルを用いた解析から藻類増殖過程における増殖・死滅速度等の各種パラメータの推定より,富栄養化防止対策においては窒素,リン,有機物などの低減の高度化を推進することが当然のこと極めて重要であることが示唆されました。

プロジェクトの展望

 本プロジェクト研究では,我が国のみならず,アジア・太平洋地域をはじめとする開発途上国へ適用可能なバイオ・エコエンジニアリングを導入した,流域管理の最適化を目指して技術開発評価を行っています。健全な環境を構築するためには,従来の水圏,土壌圏,大気圏といった各メディアを独立して考えるのではなく,各環境媒体をまたがるクロスメディアの視点に立った対策が重要といえます。汚水等の水と,生ごみ,汚泥等のいわゆるバイオマス等の両者をいかに効果的にリデュース,リユース,リサイクルの思想に立って負荷削減するかがこれからのキーといえます。

 これからはさらに,バイオ・エコエンジニアリングの国際化を図り,水循環および水処理で派生するバイオマス残渣等の廃棄物の物質循環をリンクして考慮した環境改善技術開発に基づく負荷削減のための適正な流域管理につなげていくための基盤研究,応用研究はますます重要になっていくものと考えられます。

 (いなもり ゆうへい,循環型社会形成推進・廃棄物研究センターバイオエコエンジニアリング研究室長)

執筆者プロフィール:

環境低負荷資源循環型の社会の構築をめざして,水環境再生とバイオマス等の有用資源化の両立する研究に,日夜励んでおります。基本は体力ですので,趣味の空手をはじめとする格闘技で鍛錬を行って,数多い若手の研究指導を行っているところです。