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『ダイオキシン2007国際会議』開催報告

柴田 康行

 本年9月3日から7日にかけて,残留性有機汚染物質POPsによる環境汚染問題を討議する『ダイオキシン2007国際会議』が東京で開催されました。POPs(Persistent Organic Pollutants)は環境残留性,生物蓄積性が高く,毒性・有害性の高い化学物質の総称です。人間を含めた食物網上位の生物に特に濃縮され,悪影響を及ぼすことが懸念されることから,国際的な枠組み(ストックホルム条約)のもとで廃絶,削減を図るための努力が進められています。

 このダイオキシン国際会議はPOPs,とりわけダイオキシン類の監視,毒性評価,人間への影響解明,発生源対策など様々な研究を進める研究者が一堂に会して研究発表,討議を行う場です。世界各地をまわりながら毎年開催され,今年で27回目となります。国立環境研究所では,平成13年度から17年度までの第1期中期計画における中核プロジェクトとして「環境ホルモン・ダイオキシンプロジェクト」が推進されました。国立環境研究所におけるダイオキシン研究を長く主導し,この中核プロジェクトをリーダーとして推進した森田昌敏元統括研究官が,退官後本国際会議の組織委員長を務めた経緯もあり,所として本会議を共催するとともに多くの研究発表を行い研究成果のアピールを行いました。また,サテライト会議やセミナーの開催などを通じて,研究交流の推進並びに国立環境研究所における関連研究のさらなる活性化を図りました。

 会議では,ダイオキシン類に関する最先端の研究発表が行われ,油症事件や枯れ葉剤の散布など,過去におきたダイオキシン類の人間への曝露に関する追跡調査も報告されました。一方,環境レベルや毒性から注目を集 め,ストックホルム条約の新規追加候補物質として審議が進められている臭素系難燃剤やフッ素系界面活性剤についても多くの研究が報告されました。その他,途上国における取り組み,環境試料長期保存(スペシメンバンク)活動など,合計で750件を超える口頭発表並びにポスター発表が行われました。会議には43ヵ国からあわせて約1,000名の研究者が参加し,米国から100名以上,ヨーロッパも北欧,ドイツ,イギリスなどあわせて100名以上,さらにアジア地域では韓国,中国からそれぞれ50名を超える研究者が参加し,活発な討議が繰り広げられました。

 日本を含む先進国ではダイオキシン対策も進み発生量も下がってきていますが,途上国においては現状把握もまだまだ遅れていて対策も今後の課題です。さらに,POPsの中にはフッ素系界面活性剤のように,長く使われたあげく最近になってリスクが認識され,製造禁止,規制にむけて議論の始まった物質もあります。現代社会を支える大きな役割を果たしている化学物質ですが,その中にはまだリスクが十分に認識されず適切な使用,管理が行われていないものもある可能性があります。化学物質の利便性を享受しつつその負の側面を抑え込み的確に管理を行うために,継続的かつ見逃しのない研究を進める重要性を,今回の会議は私たちにあらためて示してくれたように思います。

(しばた やすゆき,化学環境研究領域長)