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リサイクルの効果を考える

【環境問題基礎知識】

藤井 実

 循環型社会という言葉を皆さんも何度か耳にされたことがあるのではないかと思います。国の定めた循環型社会形成推進基本計画の中では,“これから私たちが目指そうとする循環型社会では,自然界から新たに採取する資源をできるだけ少なくし,長期間社会で使用することや既に社会で使用されたものなどを再生資源として投入することにより,最終的に自然界へ廃棄されるものをできるだけ少なくすることを基本とします”と書かれています。このような循環型社会を実現するためには,無駄なものは作らない(買わない),作った(買った)ものは長く使う,ごみになってしまったものはリサイクルして資源を有効に利用する,ということが大切です。ここでは循環型社会の一翼を担う,リサイクルの効果について考えてみたいと思います。

 以前から行われている空き缶や新聞紙などのリサイクルの他,近年では家電リサイクル法や,容器包装リサイクル法,自動車リサイクル法など,皆さんにも直接関係するリサイクル制度も運用されています。家電リサイクル法の目的は,“廃棄物の減量と再生資源の十分な利用等を通じて廃棄物の適正な処理と資源の有効な利用を図り,循環型社会を実現していく”ことで,他のリサイクル法もおおむね同じような考え方に基づいて決められています。この,廃棄物の削減と資源の有効利用が上手に行えると,結果的に環境汚染物質の排出削減にもつながり,まさに一石三鳥ということになります。しかし,どんなリサイクルも必ず一石三鳥になっている訳ではありません。製品をそのまま再利用するのとは違って,リサイクルのためにはエネルギーや副原料を必要とします。リサイクルのために追加的に必要となる資源量の方が,リサイクルによって節約できる資源量よりも多い場合もあり得るのです。

 リサイクルをする方がよいのか,それとも安全に処分する方がよいのか。それを判断するには,リサイクルのために使用するエネルギーや原料,排出される環境汚染物質などを1つ1つ数え上げ,それらをリサイクルしない場合と比較することになります。リサイクルの現場で直接使用したり,排出したりするものだけでなく,例えば電気を使う場合には火力発電所での化石燃料の燃焼,更にはその化石燃料の輸送や採掘の工程なども含めて,全体を評価します。このような評価方法はライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment: LCA)と呼ばれています(図1)。言わば,製品の生涯を評価しようとする方法です。LCAについて簡単に説明します。LCAは,1969年にアメリカの企業が異なる素材の使い捨て飲料容器を比較するために行ったのが初めだとされています。以降様々な製品,素材,システムなどに関するLCAが行われてきました。国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)によって,標準的な実施方法を定めた規格も作成されています。皆さんが環境や資源の問題を考える際にも,ライフサイクル全体で何が使われて,どんなものが排出されるかを考えてみることは重要ですし,必要ならば実際にLCAを行うための支援ソフトなどもあります。その際,必ずしも国際規格に縛られる必要はなく,またこの規格に従っていれば万全という訳でもありません。とりわけ,リサイクルの効果をLCAで評価するのはとても難しい面があり,まだまだ研究途上にあります。

図1 ライフサイクルアセスメント(LCA)によるリサイクル評価の概念図
図1 ライフサイクルアセスメント(LCA)によるリサイクル評価の概念図

 何でもいいからとにかくリサイクルすれば,処分しなければならないごみが減るか,というとそうではありません。リサイクルによって作られた製品もいずれは使い終わってごみになります。特に,あまり必要ではないものや,新品原料から作った製品に比べて極端に質が劣るものにリサイクルすると,すぐにごみになってしまいます。リサイクルで廃棄物が減るのは,リサイクルされた廃棄物がごみにならないからではなくて,リサイクルによって代替される新規製品の生産が減り,その新規製品が使用後にごみになっていた分の廃棄物量が減る効果が大きいのです。図2に示すように,例えば新規製品なら10回使えるものが,リサイクル製品では5回しか使えないとすると,リサイクル製品2個で新規製品1個分の代わりにしかなっていません。リサイクル製品2個は,使用後にはごみになります。新規製品であれば1個しかごみが出なかったはずです。この場合,リサイクルによって削減できるごみの量は,リサイクルしなければ使っていたはずの,新規製品1個分です。もし同じ回数だけ使えるのであれば,リサイクル製品2個につき,新規製品も2個分のごみの削減になるのです。同時に,新規製品2個分の生産に必要だった資源の節約にもなり,生産や廃棄の過程で出る環境負荷も減ることになります。廃棄物,資源消費,環境負荷削減の一石三鳥を実現するには,新規製品に代わるどんなリサイクル製品を作るかが重要です。そして,リサイクルの効果を更に高めるには,それを作るために沢山の資源を消費し,多くの環境負荷を発生させるような新規製品(あるいは燃料や原料)と置き換えると有効であることが理解できると思います。

図2 リサイクル製品による新規製品の代替
図2 リサイクル製品による新規製品の代替

  その製品が社会に必要とされている,つまり十分な製品需要があることも重要です。LCAによるリサイクルの評価を難しくしている大きな要因の1つは,どんな新規製品がどれだけ代替されたかを特定することができない場合が多々あることです。リサイクル製品と新規製品とでは,品質が違ったり価格が違ったりする場合がありますが,そうなると,リサイクル製品を作ったことで,どれだけ新規製品の生産量を減らすことができたかを判断することが難しくなります。逆に言うと,需要の高い新規製品を遜色なく代替できるリサイクル製品は,リサイクルの効果を高めるとも考えられます。一方で,あまりに高い品質が要求される分野でリサイクル製品を作ろうとして,エネルギーを大量消費してしまっては効果も薄れてしまいます。廃棄物の特性に見合った,適切な用途を見つけることが大切です。

 また,リサイクルしていることを言い訳にして,あまり必要のないものを買って,どんどん使い捨てるのでは本末転倒です。リサイクルの効果を考えてみることは,どんな製品が本当に必要なのかを考えてみるきっかけにもなるのではないでしょうか。

(ふじい みのる,循環型社会・廃棄物研究センター
循環技術システム研究室)

執筆者プロフィール

 循環型社会の研究は,ものがくるくる回るだけに,ニワトリとタマゴの関係のように,なんだか混乱してしまいがちです。すっきりと考えられるようになるとよいなと思って います。