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廃棄物海面最終処分場の役割と位置付け

【環境問題基礎知識】

遠藤 和人

 家庭から出ているごみとレストランや小売店などから出しているごみ(「一般廃棄物」と呼んでいます。)を合わせると,国民一人当たり約1.1キログラムのごみを毎日出していることになります。一般廃棄物のほとんどは自治体が集めて処理しています。毎日集められるごみのうち,87%がなんらかの形でリサイクルされたり,焼却されたりして,最終的に13%程度の残さや不要物が残ります(以上,2008年度のデータ)。これらの残った廃棄物は,主に最終処分場という施設に埋立処分しています。

 最終処分場とは,廃棄物を安全に埋めるための施設で,お椀のような器の形になった封じ込め施設です。このような形状は山の谷間に作りやすいので,処分場の多くは山間部に作られます。日本には,このような内陸の処分場の他に,国土面積が小さいという理由もあり,江戸時代から続いている埋立事業の延長線上に,海につくる処分場,「海面最終処分場」があります。東京都の第14号埋立地(別名:夢の島)や大阪湾フェニックスなどが有名です。

 現在では全国に80を超える海面最終処分場があります(一般廃棄物用と産業廃棄物用を合わせた総数)。実は,海面最終処分場は世界的にも珍しく,本格的に設置・活用しているのは日本だけです。これは,日本が海に囲まれているというだけでなく,海洋土木技術が世界有数の高水準であることも理由のひとつです。また,一般廃棄物に対しては,総数の約半分,約40の海面最終処分場がありますが,陸上処分場は1,800ヵ所程度ですから,海面処分場は陸上処分場と比べて数としては少ないものの,一つ一つの処分場が大きいために,全体の約25%の容量の廃棄物を埋めています。

 通常の港でも見られる光景ですが,海と陸との境界部分にコンクリートや丸い鋼製の材料で絶壁が作られていることがあります。このような構造物を護岸と呼びます。港などの護岸は,通常,水を通しやすい構造になっていて,護岸に水の重さが加わって転倒するのを防いでいます。しかしながら,処分場の護岸の場合には,そうはいきません。護岸の内部にある処分場で生じた汚濁水が,壁を通して海側へ漏れないようにすることが必要ですので,水を通さないようにし(遮水),水圧に耐えられるように,より大きく頑丈な護岸を作っています。これを遮水護岸と呼び,水平方向に汚濁水が漏れないようにしています。また,処分場の底部については,一般的に粘土層によって遮水されています。日本の沿岸部は幸いにして遠浅で,厚い粘土層が海底に広く堆積しています。この粘土層は,水を通しにくい性質をもっているので,その上に廃棄物を積み上げても汚濁物質が海底に漏れていくことはほとんどありません。したがって,海の中の厚い粘土層の上に,四角く囲んだ遮水護岸をつくれば,海面最終処分場(廃棄物を入れる器)のできあがりです。写真1は遮水護岸のみが完成した海面処分場の空中写真です。

写真1 遮水護岸のみができあがった海面最終処分場(大阪湾広域臨海環境整備センターホームページより引用)面積約88ha、縦1600m×横550m
写真1 遮水護岸のみができあがった海面最終処分場
 (大阪湾広域臨海環境整備センターホームページより引用)
面積約88ha、縦1600m×横550m

 海面最終処分場に廃棄物を埋め立てていけば,処分場の中の水位は上昇していきます。護岸の上から汚水があふれ出ては困りますし,処分場の中の水位が高くなると,中の水は処分場の外へ移動しようとするので,余分な水をポンプで外に出します。その水を海へ放流する前に,ごみから溶け出した汚濁物質を処理施設で取り除く処理をし,基準値と照合して,基準値以下の水であることを確認した後に放流します。この施設は,浸出水処理施設と呼ばれます。海面処分場に廃棄物を埋め続けると,やがて水面よりも上側まで廃棄物の層が達することになります。こうして,廃棄物で作られた陸地が出没します。最後に,覆土(ふくど)と呼ばれる土を50センチメートルから1メートル程度かぶせる工程を経て,処分場の埋め立てが終了します(図1)。護岸を作り始めてから,埋め立てが終了するまで,20年以上かかる場合がほとんどです。このとき,最終処分場の中の水は残ったままですが,護岸の安定性と,漏洩防止の観点から,管理水位が保たれるように管理されており,この管理が海面最終処分場の安全のためには不可欠です。

図1 海面最終処分場の埋め立ての方法
図1 海面最終処分場の埋め立ての方法(拡大画像)

 よく,「中の水を全部抜いてしまってはどうか?」と尋ねられるのですが,中の水を抜いてしまうと,外からの海水の圧力で護岸が内側に転倒してしまいます。転倒しないような護岸を作ることは可能ですが,お金がかかって経済的ではないので,そのような選択は取られたことがありません。

 覆土がされた海面最終処分場は,一見しただけでは,廃棄物が埋まっていることが分かりません。しかし,その下には,水没した状態の廃棄物が大量に埋まっているのです。そのため,これらからの汚濁水が処分場の外へ漏れ出すことを継続的に防ぐ工夫をしなければなりません。その対策の一つに,水が高いところから低いところへ流れる性質を利用し,管理水位(図1参照)を護岸の外側の海面よりも常に低く保つことが挙げられます。そのための技術が必要ですし,管理者に対してそれを守って頂くための規則も作っていかなければなりません。もちろん,その土地をむやみに掘り返すことも許されません。これらのことを守ることが,海面処分場やその跡地を安全に利用するために必要です。現在は,これら海面処分場特有の技術開発と管理制度作りを行っているところです。

 我が国の陸上の処分場の平均的な大きさは約2万立方メートルと小規模であることに比較して,海面処分場では約20万立方メートルもあります。処分場を作るのに必要な経費をみると,埋め立てられる廃棄物1立方メートルに対して,海面は6,000~15,000円程度であり,陸上の10,000~40,000円程度と比べて割安になっています。また,安全に跡地利用できる技術と管理体制が伴えば,臨海部に東京ドームの何倍にもあたる広大な土地を生み出すことになります。

 最終処分場の建設は各自治体にとって十数年から数十年に一度のことですので,建設や維持管理に精通した人材を確保することが難しいのが現状です。収集運搬の対象範囲が広い広域の海面最終処分場の場合,専門的な知識を持っていたり,最終処分場の建設や維持管理を経験した人材(技術者)を周辺の自治体から探し出して集めることが可能になり,より安定した施設整備・運営を行えるという特徴もあります。

 海面最終処分場では,処分場自体をどこに建設することが廃棄物物流の観点から優位であるのか,などの社会科学的問題,海洋への汚染物質の漏洩に対する正確なモニタリング技術,管理水位を保ち続けるための制御技術などの研究開発が課題として残されています。また,自然災害に対する安全性の向上にも目を向けなければなりません。技術と制度の両軸からのアプローチが必要とされています。

 将来,ごみの減量や再使用,再利用がどんなに進んでも,人間がまったくごみを捨てなくなるわけではありません。産業界においても,製品を作った時に出てくる副産物の全てを再利用することは困難です。したがって,私たちは,廃棄物を埋め立てて処分する場所をどこかに確保しなければなりません。より安全に,より経済的に処分場を整備していくための解決策の一つとして,国土の狭い日本では海面最終処分場にも着目する必要があります。このまま,ごみの排出量が減少を続け,リサイクル率が向上し続ければ,もしかすると,海面処分場だけで全ての埋めるしかない廃棄物を受け入れることができるようになるかもしれません。そのためにも,海面最終処分場の利点と欠点を意識し,新しい技術を取り入れながら処分場の整備をしていくことが大切です。

 

(えんどう かずと,循環型社会・廃棄物研究センター 
資源化・処理処分技術研究室主任研究員)

執筆者プロフィール

遠藤 和人氏

 「研究や検討会で携わった最終処分場が,将来,負の遺産にならないようにすること」を心がけ,直接携わっていなくとも,研究成果がその役に立つことを意識しています。研究とは関係ありませんが,趣味で始めた熱帯魚やエビの繁殖が順調であるほどに水槽が増え,築30年を超える官舎の床が抜けないことを祈る毎日です。ただ一つ後悔することは,キャットフィッシュに手を出したこと・・・。いやはや,でかい。