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2014年10月31日

日本全国の生物多様性を土地利用図から見る

特集 生物多様性を見守る -視野の広がりと歴史の厚み-
【シリーズ重点研究プログラムの紹介:「生物多様性研究プログラム」から】

山野博哉

 日本全国のような広い範囲での生き物の分布や多様性がどうなっているか、それを知るためにはどうすれば良いでしょうか。生き物の分布を一つ一つ調べることは事実上不可能です。それを解決する一つの方法が、土地利用情報を用いることです。私たちが目にする景観-森や畑や田んぼ-の中には、さまざまな生き物がすんでいます。森には森にすむ生き物が、田んぼには田んぼにすむ生き物がいます。森や畑や田んぼなどの土地利用がわかると、それを生き物の分布や多様性の代替として用いることができます。

 土地利用を広く把握するには、航空機や人工衛星を用いたリモートセンシングが大きな力を発揮します。人工衛星による地球観測が始まった1970年代以降、人工衛星で得られた画像を用いて、全世界の土地利用図が作られてきました。リモートセンシング技術は大きく進展し、今では衛星画像を用いて数百mの空間解像度で全世界の土地利用図が作成されるようになりました。日本では、環境省(当時環境庁)自然環境保全基礎調査によって植生図が、国土交通省(当時国土庁)によって地形図から土地利用図が、1970年代から現在まで数時期にわたって作成されています。作成や更新には現地調査とともに航空機から撮影された空中写真や人工衛星で得られた画像が活用されています。また、日本が打ち上げたALOS衛星が取得した画像からも土地利用図の作成が行われています。

 日本にはこれだけたくさんの土地利用図があるので、それを用いれば生物多様性の評価は十分だろうと思われるかもしれません。ところがそうではないのです。土地利用図の整備にあたり、研究所の内外で生物多様性評価に土地利用図を使いたい研究者からの要望を教えてもらったところ、特に森林について広葉樹、針葉樹、常緑樹、落葉樹、そして、自然林、二次林、人工林といった情報が生物の分布に大きく影響を与えており、それらを区分した土地利用情報が欲しいということが指摘されました。また、耕作地に関しても、放棄された水田とされていない水田では大きく生物相が異なります。すなわち、単純に森林や耕作地といった粗い分類では生物多様性の評価には不十分なのです。

 生物多様性評価側からの要求を満たす土地利用図は意外に少なく、要件を満たしそうなのは環境省の植生図だけでした。他の土地利用図は、例えば森林は森林としか区分されておらず、その森林が自然林かどうかわからないのです。しかし、環境省の植生図にも全国規模で利用するには課題がありました。それは、区分が細かすぎることで、なんと植生が905に分類されているのです。データは環境省生物多様性センターからデジタルで提供されているのですが、データ量も膨大です。全国規模の解析に用いるには分類項目をまとめる必要がありました。そこで、植生の群落名やその植生の自然度の情報に基づいて、項目をまとめる作業を行いました。最初に、森林、耕作地、草地など大きく9つに分類を行いました。森林と草地については、植生自然度にもとづいて、人間の手の入っていない「自然草地、自然林」、自然草地や自然林が伐採など何らかの原因で破壊された後に自然に再生した「二次草地、二次林」、植林などで人為的に作られた「人工草地、人工林」、およびその他に分類し、これらを中分類としました。森林と草地以外にも、耕作地等について水田か、畑地かそれ以外の耕作地かで中分類を行いました。さらに、自然度および群落名を手がかりに、出現する立地や、森林であれば針葉樹か広葉樹か、あるいは、常緑樹か落葉樹といった生育型に着目して細分類を行いました。このように、大分類をさらに細分するという階層的な分類を行うことにより、既存の土地利用図の分類項目との対応と比較が可能となりますし、解析の目的に応じて大分類、中分類、細分類を使い分けることもでき、汎用性の高い土地利用図を作成することができました(図1)。

図1 土地利用図の作成方法
既存の土地利用情報と利用者のニーズを組み合わせ、生物多様性や生態系サービスを評価するための新しい土地利用図を作成した。

 本文の最初に、森には森にすむ生物が、田んぼには田んぼにすむ生き物がいます、と書きましたが、動き回れる動物の中には、複数の土地利用を行き来する生き物もいます。すなわち、土地利用の不均一性も生き物の分布や多様性に影響を与えると考えられます。里地里山(以下「さとやま」)(図2)は、森林と耕作地など複数の土地利用が組み合わさってできており、生物多様性のみならず多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重要な空間です。作成した土地利用図を用いて、土地利用の不均一性を計算することによって、こうした「さとやま」を日本全国で抽出することができます。日本の自然保護区は、これまで自然度や景観が優れている地域を中心に選ばれてきました。耕作という人の手が加わって成立している「さとやま」も、従来の自然保護区に加え、今後の日本の生物多様性の利用と保全の場として考慮する必要があると考えられます。こうした課題にも、土地利用図の応用範囲は広がります。

図2 「さとやま」の風景(千葉県内にて撮影)
背後にはかつて薪とりに利用されていたと思われる林、斜面には棚田など、人の手が加わった複数の土地利用から形成されている。

 日本全国といった広域での生物多様性評価は、生物多様性重点研究プログラムだけの課題ではありません。データを広く知っていただき、利用していただくために、既存の土地利用図の問題点については2014年に赤坂ほかが、土地利用図の新しい区分方法に関して2013年に小川ほかが論文発表を行い、生物・生態系環境研究センターのウェブサイトで「日本全国標準土地利用メッシュデータ」として公開を行っています(http://www.nies.go.jp/biology/kiban/lu/index.html)。また、環境展望台の環境GISでも、「最優占土地利用:2次メッシュ・3次メッシュ」としてデータが閲覧できます。抽出した「さとやま」に関しても、2013年に吉岡ほかが論文発表を行い、同じく生物・生態系環境研究センターのウェブサイトで、「日本全国さとやま指数メッシュデータ」として公開を行っています(http://www.nies.go.jp/biology/kiban/SI/index.html)。こうしたデータの発表と公開を通じて、多くの方にこれらのデータを利用していただいています。

 環境省の植生図は1970年代と1990年代に作成されており、今回整備した土地利用図は1990年代のものです。2000年以降の環境省の植生図はまだ作成途中であり、いくつかの地域が未完成です。整備した土地利用図を元に、リモートセンシングによる変化抽出など、この未完成の空白域を埋めて最新の土地利用図を得るべく研究を進めているところです。

(やまの ひろや、生物・生態系環境研究センター 生物多様性保全計画研究室長)

執筆者プロフィール

山野博哉

 サンゴ礁一筋、のはずが本稿では全くふれられず。最近は、陸~海のつながりや人間社会を意識し、陸上での調査が増えました。海から陸へと、生物の進化の過程をたどりつつあります(つらくなったら海草のようにまた海に戻ります…)。

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