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2016年6月30日

環境計測からの環境研究の深化への貢献を目指して

【環境計測研究センターの紹介】

今村 隆史

 環境計測研究センターでは、環境計測手法ならびに計測データの解析手法の開発・改良、計測手法の活用範囲の拡大化ならびに活用対象に対する手法の最適化、計測データのデータ質評価(精度評価など)やデータ質の管理などに係わる研究を進めます。環境計測の対象は非常に広く、その全てをカバーすることは現実的ではありません。本中長期計画期間の環境計測研究センターでは、環境中に存在する化学物質の検出・同定・定量を基盤に、化学物質の環境中の動態把握や環境中での化学物質の変化・変質の追跡と言った化学物質に関する計測手法の研究を進めます。同時に、化学物質に特化せずに、環境試料の採取や生物・生体への侵襲を伴わない非破壊・非接触性・非侵襲性や時空間情報の加味などの特徴を有した計測手法の開発や応用に関する研究も推進します。そのために環境計測研究センターには 6 つの研究室-「応用計測化学研究室」、「基盤計測化学研究室」、「動態化学研究室」、「反応化学計測研究室」、「遠隔計測研究室」、「画像・スペクトル計測研究室」-を設置しました。この内、応用計測化学研究室と基盤計測化学研究室では、環境分析化学に軸足を置いて新たな化学分析手法の開発や環境化学分析の精度管理や環境試料の保存、ニーズに合わせた化学分析手法の改良や最適化などの研究を進めます。動態化学研究室と反応化学計測研究室では、地球化学的な物質循環や環境中での化学変質過程を、化学物質の分布や時間的な変動、更には様々な負荷に対する応答から理解するための計測手法や計測データの解析法などの研究を進めます。一方、遠隔計測研究室と画像・スペクトル計測研究室では、化学物質の計測には拘らず、むしろ非破壊、非接触、非侵襲な手法の環境研究応用を目指し、能動型(レーザーレーダー)ならびに受動型(分光放射計)遠隔計測手法の複合利用や画像・スペクトル情報の収集や活用・解析手法(例えば、レーザーレーダーと分光放射計の複合利用、医療診断に用いられる磁気共鳴イメージング(MRI)の環境研究応用、地上ライブカメラなどの画像データを活用した生態系モニタリング)に関する研究展開を図ります。

 環境計測研究センターでは、「環境研究の基盤整備」に位置づけられている取り組みのうちの 2 つの取り組み-「環境標準物質の作製と頒布」、「環境試料の長期保存(スペシメンバンキング)」-を主体的に担っています。環境標準物質の作製・頒布については、あくまでも実環境試料の化学分析に焦点を絞り、人工的な化学物質の添加を行わずに実環境試料を原料として標準物質を作製している点で特徴を出しています。国立環境研究所としての環境標準物質の作製と頒布にはこれまで 35 年以上の歴史があり、50 カ国以上で利用されてきた実績があります。本中長期計画期間中には、完売した標準物質の後継物質の作製だけでなくニーズの把握に努め新たな標準物質の作製も目指すほか、既存の標準物質に新たな認証値・参照値を付与することで付加価値を与える工夫を行っていきます。一方、環境スペシメンバンキング(ESB)の取り組みは、生物・生態系環境研究センターが主体となって実施される「希少な野生動物を対象とする遺伝資源保存」と対を成し、「タイムカプセル化事業」として位置付けられています。ESB では残留性有機化学物質(POPs)に係わるストックホルム条約など関連する国際動向も踏まえつつ、国際連携・国際協調の中で事業を進めています。特に二枚貝を対象とした日本沿岸域の試料の保存では、日本の沿岸域を 7 つのブロックに分割して、毎年 1 つのブロックでの採取を進めてきました。東日本大震災直後から昨年度までの第 3 期中期計画期間では、過去に採取した試料の活用により、震災前後での沿岸域の化学物質の変化を知ることが出来ました。今年から 5 年間の中長期計画期間では、試料採取が第 3 サイクルに入ることから、より長い時間スパンでの変化も議論が可能になるものと期待されます。そこで試料の採取・保存に加え、保存試料の活用に向けた研究や、より長期の試料保存に向けての保存技術の向上に関する研究を推進します。

 環境計測研究センターでは、8 つの大型施設-(1)基盤計測機器(化学分析機器群。写真 1)、(2)タイムカプセル棟、(3)化学物質管理区域、(4)大気モニター棟、(5)高度化学計測施設(同位体 ICPMP など)、(6)加速器質量分析(AMS)施設、(7)磁気共鳴イメ ージング施設、(8)光化学反応チャンバー-を主体的に運営しています。この内、(1)は環境標準物質事業と関連するだけでなく、所内研究者からの依頼分析を受け付ける形で、所内での化学分析支援の機能を果たしています。(2)、(3)、(4)などの施設は、複数の研究センターの研究者も利用する共同研究の場の提供にもつながっています。また、(5)~(8)の施設は、他の研究機関に比べても特異性・優位性を持った施設であり、所内外の研究プログラム・プロジェクトにも貢献しています。これらの大型施設を維持・運営していることは、特に環境化学物質の観点から研究所の横串的な機能と支援的な機能を環境計測研究センターが果たす原動力の一つとなっています。

写真1 基盤計測機器(化学分析機郡)
所内の研究者からの依頼分析にも活用されている。

 環境計測研究センターが直接主体となって推進する研究プログラムはないものの、低炭素研究プログラム、自然共生研究プログラム、安全確保研究プログラムならびに災害環境研究プログラムのプロジェクトに参画して、環境計測分野から貢献が期待されています。例えば、これまで環境試料(例えば河川水)中に存在する多くの種類の化学物質を一回の分析で一斉かつ網羅的に分析する手法開発を進めてきましたが、その手法は、分析対象となる化学物質を特定した従来の分析法を基盤とした化学物質管理とは異なる新たなアプローチの構築の可能性を有しており、既知物質以外の化学物質情報を含んだ膨大なデータから必要な情報の抽出や新たなデータ活用のためのデータ解析・利用研究を推進します。

 「環境の計測」は環境研究を行う上での一つの研究手段です。そのため、「手段の目的化」に陥らないことを私たち環境計測研究センターは常に意識しなければならないことは言うまでもありません。そこで、私たちは、様々な環境研究分野におけるニーズの把握と、将来的なニーズの発掘・シーズの創出を意識して、所内外の様々な研究分野・研究機関との連携や情報収集をしていきたいと考えています。更には私たちの研究センターの取り組みを異なる研究分野の連携を促すハブとしての役割につなげたいと考えています。しかし実は、これらの努力・工夫が私たちの取り組みの中でも最も困難な課題だと思います。それを1 mmでも1 cmでも積み上げられればと考えています。そして環境計測研究を通して、環境変化の監視、環境問題のメカニズム解明、環境問題の解決に向けた国内外の合意形成のための科学的知見の提供、対策技術や施策の有効性評価に貢献したいと考えています。多くの皆様からの関心やご要望、ご支援、ご助言を賜りますよう、お願い申し上げます。

(いまむら たかし、環境計測研究センター長)

執筆者プロフィール

今村 隆史

最近印象に残ったこと、「文庫本に感動したこと」。愕然としたこと、「誰のどんな本だったか思い出せないこと」。反省すること、「すぐ格好をつけようとすること」。いつも思うこと、「明日からは、頑張ろう!」(でもこれが果たされた記憶は無い)。

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