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2016年12月28日

寄生ダニからみる外来種問題

特集 生物多様性の保全から自然共生へ
【研究ノート】

坂本 佳子

写真1 0.5mmシャープペンシル芯上のアカリンダニ
左から卵,幼虫,メス成虫,オス成虫

 数年前から、飛べなくなったミツバチが巣の周りをうろうろする現象が、東日本を中心に報告されるようになりました。その原因の一つと言われているのが「アカリンダニ」です。このダニは、体長が0.1 mmと非常に小さく(写真1)、ミツバチの気管の中にするりと入り込むことができます。雌ダニはそこでたくさんの卵を産み、ふ化した幼ダニたちは、口器を気管壁に突き刺してミツバチの体液を吸いながら、すくすくと育ちます。2~3週間もしないうちに、気管の中は何十匹ものダニで埋め尽くされますから、ミツバチは呼吸困難に陥り、飛翔や温度調節ができなくなるのです。さらに、気管の中で成熟したダニは、気管の外にでて徘徊し、まだ若いミツバチの気管を探し当て、そこで繁殖を始めます。そうやって、巣の中でダニの寄生が蔓延していくと、ミツバチは、餌を集めに行くことも、寒い冬を乗り切ることもできなくなり、いずれは死滅してしまいます。

 なぜ、急に、日本でアカリンダニが流行り出したのでしょうか。日本には、古来より生息するニホンミツバチ(写真2)と、海外から輸入しているセイヨウミツバチ(写真3)がいるのですが、前田太郎さん(農研機構)の報告によると、アカリンダニが高い頻度で寄生し重症化するのは、ニホンミツバチだけで、セイヨウミツバチでは、ほとんど見つからないことがわかっています。アカリンダニは、もともと欧米に分布しており、日本で最初に見つかったのが2010年とごく最近であることから、外来種と考えられます。おそらく、セイヨウミツバチを輸入する際に、意図せず持ち込まれたのでしょう。しかし、いったいなぜ、ニホンミツバチだけでアカリンダニが問題となっているのでしょうか?私は、この2種のミツバチにおける寄生状況の違いが、ニホンミツバチでアカリンダニが流行する謎を解く糸口になるのではないか、と考えました。

写真2 ニホンミツバチ
写真3 セイヨウミツバチ
(撮影:笠井敦氏)

 まず、室内実験で、実際にニホンミツバチの方がダニに感染しやすいのかを確認してみました。ダニに寄生された個体(ホスト)と寄生されていない個体(ターゲット)を小さなケージに7日間閉じ込めて、ホストからターゲットに、ダニがどれだけ移動するかを調べました(図1)。ダニの移動は肉眼では見えませんので、実験後、ターゲットのミツバチを回収して冷凍した後、顕微鏡の下で一匹ずつ解剖し、気管からダニを取り出して数える必要があります。また、接触期間を「7日間」と限定したのには、理由があります。卵が産みつけられてから成虫になるまで、早くても9日以上を要するので、ターゲットの気管の中で見つかった成虫は、外から入ってきた個体と見なすことができるからです。そうやって、気の遠くなるような細かい作業の末に明らかになったのは(441個体のミツバチから、2179個体(!)のダニを確認)、ニホンミツバチの方がセイヨウミツバチよりも多くのダニに寄生されるこということでした。一方、雌ダニ1個体あたりの平均産卵数は、どちらのミツバチ体内でも同じでした。このことから、単純に、気管に入り込むダニの数が、ニホンミツバチで多いと結論づけられました。そして、ニホンミツバチがアカリンダニに寄生されやすいのは、このダニに対して抵抗する術を持ち合わせていないからではないか、と私は睨んでいます。ダニが宿主間を移動しようとしてミツバチの体の外に出た際に、ミツバチがこれを脚で払い落とす行動が見られるのですが、どうやら、ミツバチ種間でこの行動に差がありそうなのです。



図1 アカリンダニ寄生実験のレイアウト
15 cm3のメッシュケージに、寄生ミツバチ(ホスト)と非寄生ミツバチ(ターゲット)を入れる。7日間接触させた後、ホストからターゲットに移動したダニの数を数える。

 自然界では、多くの宿主と寄生者が、長い進化の歴史の中で互いに対立しながらも、安定した関係を築いています。しかし、人間が生き物を勝手に移動させることで、宿主と寄生者の関係はいとも簡単に崩れ、新しい病気の爆発的な流行をもたらすことになりかねないのです。アカリンダニは、まさにそのケースにあてはまるのではないでしょうか。そして、このダニの流行によって影響を受けるのは、ニホンミツバチだけではありません。ミツバチはさまざまな植物の受粉に関わっていますので、ミツバチが衰退すれば、植物の繁殖にも影響が及ぶと予想されます。目に見えないほどの小さな侵略者によって、日本の生態系が大きく変わってしまうおそれがあるのです。

 さらに、このような感染症を重症化させる要因として、近年多用されている農薬の影響にも注目しています。農薬は、本来、農作物への被害を軽減するために病害虫に対して使用されますが、害虫以外の昆虫類が暴露することも十分にあります。特に、ミツバチは、花粉や花蜜を通して農薬に接触する機会が多いため、その影響が盛んに調べられていて、最近では、すぐに死亡するほどの高濃度の農薬に接触しなくても、低い濃度の農薬を浴びるだけで行動や免疫に異常が出る場合がある、という研究報告が多数発表されています。さきほどは、外来生物による病気の蔓延を「ミツバチとダニ」という生物間の相互作用の視点からお話ししましたが、ここに農薬の影響という視点も加えて、現在、評価を進めています。他にも、温暖化や土地利用の変化によって、生き物たちの生息環境は劇的に変化しています。外来生物の影響メカニズムを総合的に理解していくためには、今後はそういったさまざまな環境変化の生物に対する複合的な影響の評価も進めていく必要があります。

 そして、外来生物の問題を「理解」したうえで、これ以上被害を拡げないために、「対策」を打ち出す必要があります。環境省は、対策の一環として、日本の生物および生態系に対して著しい影響を与えると考えられる種類を「特定外来生物」に指定し、法律で輸入や飼育を禁止するとともに、水際での監視や定着個体の防除のための行動計画を策定しています。これまで、生態リスク評価・対策研究室では、アルゼンチンアリやツマアカスズメバチなど外来昆虫の効率的な防除手法を開発したり、防除が成功したかどうかを評価するための統計モデルを構築するなど、外来生物防除事業に対して科学的な貢献を目指してきました。また、これまで対策が遅れていた「目に見えない外来生物」として、カエルツボカビのような両生類の病原菌や、上に紹介したアカリンダニのような寄生ダニの生態影響を解明して、対策の必要性を環境省に提言することも進めています。

 以上のように、我々の研究グループは、自然共生プログラムの一環として、他の研究機関や大学とも協力して外来生物対策の研究を展開し、その成果を政府・自治体に提供するとともに、国民の皆様に広くご理解いただけるよう普及につとめています。国を挙げて外来生物問題を解決するために、これからも研究を続けてまいります。

(さかもと よしこ、生物・生態系環境研究センター 生態リスク評価・対策研究室 研究員)

執筆者プロフィール

暗黒(フォース)上司の下で、汗と涙を流しながら、楽しくやってます。

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