ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2017年6月30日

災害環境研究プログラムで進める取り組み

特集  国立環境研究所 福島支部を拠点とした災害環境研究の新たな展開
【シリーズ研究プログラムの紹介:「災害環境研究プログラム」から】

大原利眞

 災害環境研究プログラム(以下、PG)は、環境回復、環境創生、災害環境マネジメントの3つのサブPGで構成されています(図1)。放射性物質により汚染された被災地の環境をできるだけ速やかに回復することを目的とした「環境回復研究PG」では、放射性物質に汚染された廃棄物の適切な管理や処理・処分方法に関する「廃棄物管理システム研究」と、環境中における放射性物質の計測・シミュレーションによる実態と動きの解明、ヒトへの被ばく量解析及び生物・生態系に対する影響評価に関する「環境動態・影響評価研究」を進めています。「環境創生研究PG」では、環境と調和した被災地の復興を支援することを目的として、地域環境診断と将来シナリオの作成、省エネルギーな技術開発や地域事業設計、住民が参画する計画づくりなどに取り組んでいます。また、「災害環境マネジメント研究PG」では、東日本大震災などの災害によって得られた経験・教訓をもとに、環境・安全・安心面から将来の災害に備える取組みを進めています。これらの研究を通して、被災地の環境回復と復興を研究面・技術面で支援するとともに、将来の災害に備えた環境にやさしいまちづくり・社会づくりに貢献することを目指しています。

図1 災害環境研究プログラムの構成

環境回復研究PG(1)廃棄物管理システム研究

 福島第一原子力発電所事故(以下、事故)直後、環境中に放出された放射性物質の一部は、上下水道を通して汚泥に、また、一般廃棄物・産業廃棄物の焼却によって灰に移行しました。また、その後の除染活動により、放射性物質によって汚染された大量の土壌などが発生しました。国立環境研究所(以下、国環研)は、このような汚染廃棄物や土壌を適正かつ円滑に処理処分するための技術・システム開発に総合的に取り組み、得られた知見を環境省などに提供してきました。

 現在は、国の喫緊の最重要課題である中間貯蔵と県外最終処分に向けた減容化(廃棄物の量を減らすこと)技術の研究開発に取り組むとともに、指定廃棄物(事故由来の放射性物質によって放射能濃度が8,000 Bq/kgを超えるものであって環境大臣が指定した廃棄物)などの処理処分に係る技術的課題を解決のための研究開発を進めています。例えば、福島支部の実証実験室において、汚染された廃棄物や土壌を、セメント技術を活用して減容化する技術を開発したり、中間貯蔵した除去土壌からの浸出水の水質を把握する実験研究を中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)などの民間企業や大学・研究機関と共同して実施しています。詳しくは「研究プログラムの研究実施状況1」をご覧ください。

環境回復研究PG(2)環境動態・影響評価研究

 事故によって環境中に放出された放射性物質は、土壌、森林、河川、湖沼、沿岸海洋などの様々な環境を汚染しました。このような放射能汚染からの環境回復を進めるためには、放射性物質による汚染実態と環境中での動きを把握し、将来変化を予測する必要があります。国環研は、事故直後から、野外での環境計測、環境モデリング、データ解析を組み合わせて、この調査研究に取り組んできました。また、環境中の放射性物質が生物・生態系に対する影響や、住民が避難して無人化した地域における生態系変化を把握する研究(「研究プログラムの研究実施状況2」参照)も実施しました。

 現在、福島県浜通りでは避難指示の解除が進みつつあり、帰還後の生活環境における放射性物質の実態と動きを把握し、被ばく量をできるだけ少なくするための対策や対処法を検討し、実施していくことが重要な課題となっています。このために、森林・水域などの環境中に残っている放射性物質の短期的・長期的な動きを把握する調査・研究、帰還地域における長期的な環境影響評価と生活者の環境リスク管理手法の構築、生態系サービスを含めた生態系アセスメントなどの調査研究を、福島県や日本原子力研究開発機構(JAEA)などと共同して実施しています。

環境創生研究PG

 国環研では、これまでに、福島県浜通りの新地町を中心として、被災地域における都市の復興・再生から環境創造に至るプロセスを支援する研究を行ってきました。特に、当該地域の特色・特徴を活かしながら低炭素、資源循環などの側面からの検討も加え、地域の資源を活かした具体的なエネルギー地域システム事業を提案するとともに、環境都市の将来像とそこへの道筋を示す研究を進めてきました。

 このような研究を発展させ、福島県内において、地域の環境・エネルギー資源を活用した環境創生モデル事業の設計手法を開発し、地域の将来像を描いて環境面、社会経済面での効果を評価する研究を実施しています。また、モデル事業を検証するために、タブレットやスマートメーターなどを活用した社会モニタリングシステムの開発も進めています。最近では、奥会津地域の行政担当者や産業関係者と協働して、森林バイオマスを利活用し、情報通信技術を活用した環境創生型まちづくり支援研究に取り組み始めています。詳しくは「研究プログラムの研究実施状況3」をご覧ください。

災害環境マネジメント研究PG

 国内外で大規模な災害が多発していますが、東日本大震災などの過去の災害における経験・教訓をもとにして、今後の災害に環境面から備えることは重要な課題です。このような視点から、東日本大震災の災害廃棄物に関する検証結果をもとに、今後の処理システムのあり方を示しました。また、国内外の災害対応機関の実態調査を進め、緊急時の環境調査体制のあり方を検討しました。更に、2015年の関東・東北水害時には、環境汚染調査や災害廃棄物処理の支援活動に取組みました。

 現在は、2016年の熊本地震への対応や自治体等における平時の備えのための取組み(机上訓練など)への支援を通して、これまでの研究成果を試行的に適用し、その結果を踏まえて今後の災害発生に備えるアクションリサーチを進めています。熊本地震発生時には、災害廃棄物対策については、国環研内の災害環境マネジメント戦略推進オフィスを通して、D.Waste-Net(環境省の災害廃棄物処理支援ネットワーク)と連携して対応を進め、また、緊急時環境モニタリングの一環として、公共水域における化学物質やアスベストの環境モニタリングを地方環境研究機関などと実施しました。更に、災害・事故発生時の有害化学物質を対象とした緊急時の環境リスク管理の考え方、手法や体制などの検討も始めています(「研究プログラムの研究実施状況4」参照)。

おわりに

 私たちは、被災地において分野横断・機関連携による問題解決型研究を推進し、着実に成果を出すことによって環境研究面から復興に貢献していきます。「災害と環境」、「社会と科学」といった関係性を強く意識した、新たな環境研究に、直面する問題の解決が求められている地域で取り組んでいきます。被災地において社会との協働・連携を進め、これらを通して住民から信頼される組織を目指しています。そして、これらの成果を国内外に発信していきます。これからも災害環境研究PGに御期待ください。

(おおはら としまさ、福島支部 研究総括)

執筆者プロフィール

執筆者写真 高橋 潔

2年前のこの欄で、「毎週末、愛犬と20~30km走っています。」と書きました。福島支部に異動して頻度が少なくなり、老人と老犬になって距離も短くなりましたが今も一緒に走っています。