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2017年6月30日

放射性物質に汚染された廃棄物や除去土壌の減容化、中間貯蔵及び最終処分に係る実証的研究

特集  国立環境研究所 福島支部を拠点とした災害環境研究の新たな展開
【研究プログラムの研究実地状況1:「環境回復研究プログラム(1)」から】

石森 洋行

 環境回復研究(汚染廃棄物)では、福島第一原子力発電所事故後に発生した放射性物質に汚染された廃棄物(以下、汚染廃棄物とします)や除去土壌の処理・処分に関する研究を進めています。平成28年6月より立ち上がった福島支部には、資源循環・廃棄物処理実証実験室があります(図1)。ここでは汚染廃棄物や除去土壌の体積を熱処理によって少なくするための研究(以降、減容化とします)や、中間貯蔵、最終処分のための技術開発と長期管理手法を検討する実証実験を行います。現在、以下の2つの研究が進められており、その状況をお伝えします。

実験室の写真
図1 資源循環・廃棄物処理実証実験室

(1) 除去土壌等の中間貯蔵時における浸出水水質等の挙動予測

 福島県内では、数年間継続した除染活動が完了しつつあります。この除染に伴い発生した除去土壌や汚染廃棄物は仮置場等に一時保管した後、運搬され、中間貯蔵施設に貯蔵されます。うち除去土壌では、土壌に草木等の有機物が混在する場合もあるので、中間貯蔵施設で貯蔵を始めた後に、有機物質が微生物等によって分解され、発生量は少ないと考えられるもののメタン等のガス発生の懸念や、中間貯蔵施設内に降った雨水が除去土壌に染み込むことで、微細な土粒子や有機物質を含んだ浸出水が流れ出る可能性があります。

 浸出水中の微細な土粒子は放射性セシウムを運び、有機物質の濃度は水処理施設の運転・管理に影響します。これらの現象がどの程度になるかを事前に把握することを目的に、福島支部に設置されたライシメータ(人工降雨を供給できる実験用土槽)を用いて中間貯蔵施設における除去土壌の貯蔵を模した実験を行っています。幅2m×奥行2m×深さ2m(容積8m3)のライシメータが2基あり、それらには県内除去土壌(放射能濃度は約3,000Bq/kg)を深さ1.5mになるように埋め、その表面を厚さ0.3m程度の清浄な土で覆土しました(図2)。一定量の人工降雨を降らせて、ライシメータ内の温度や発生するガスの成分や濃度、浸出水の水質等の変化をモニタリングしています。実験開始直後の挙動として、浸出水中の放射性セシウムは検出限界以下であるものの、水質汚濁の指標であるBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)、SS(懸濁物質量)が高くなる傾向が観察されています。このライシメータ試験を続けることによって、各種データを集積し、中間貯蔵施設の水処理設備への負荷量や、発生ガスの量など中間貯蔵施設の適正な維持管理に資する具体的な情報を提供することができます。

図2(クリックで拡大画像を表示)
図2 ライシメーター
左:除去土壌充填前、中央上:除去土壌充填後、中央下:除去土壌をグレーチングで覆いその上に人工降雨発生装置(図中の上部にある複数のニードルの先端から雨滴を形成し下)を設置、右:雨を降らせている様子

(2) セメント技術を応用した放射能汚染廃棄物や除去土壌の減容化

 実証実験室で取り組んでいるもうひとつの研究は、減容化です。福島県内の汚染廃棄物や除去土壌はその放射能濃度により、県内の処分場に埋立処分されたり、中間貯蔵されたりします。中間貯蔵施設内の除去土壌等は30年後には県外で最終処分される計画です。県外最終処分される除去土壌等の量を減らし、処分先の環境負荷を低減するためには、汚染廃棄物や除去土壌を減容化する技術の開発は重要な課題です。私たちは減容化手法として、焼却灰からセメント原料を製造する焼成技術に着目しました。焼成過程で除去される放射性セシウムの挙動と、生成されるセメント原料の性能確保について研究しています。

 研究には、実証実験室に設置した卓上型の小型回転式電気炉(図3)を用います。これまで、市販の清浄土に非放射性セシウムを添加した模擬汚染土壌を作って実験を行っています。例えば、10gの模擬汚染土壌に、30gの反応促進材を加え、セメント原料が生成するように化学組成を調整し、1400℃程度の焼成を行います。その結果、セメント原料のセシウムは検出限界以下となり、模擬汚染土壌中のセシウムのうち99.9%以上を除去できました。焼成後は、セメント原料となる焼成物が25g程度得られます。

機械の写真
図3 小型回転式電気炉

 焼成によりセシウムは塩化物として昇華すると考えられていますが、小型回転式電気炉にガスを流し、塩化セシウムを含む気相を炉外に移動させ、冷却すると凝縮し固体化するので、HEPAフィルタ(空気清浄機や掃除機に用いられているフィルタと同じ種類)で回収できます。この技術を用いれば、最終処分または中間貯蔵すべき量を10gから0.4g(1/25に減容化)に減らすことができます。反応促進材の組成を調整することで濃縮物はさらに減容化することが可能と考えられ、減容化効率を高める検討も行います。さらに、この濃縮物の主成分は塩化カリウムと塩化ナトリウムで、少量の塩化セシウムが含まれています。これら可溶性の塩を水に溶解させ、セシウムのみを選択的に除去する素材を用いることで、より一層減容化できる可能性があります。

 本研究で用いている減容化の手段では、減容化によって濃縮物を作製することであり、同時に減容化の生成物としてセメント原料を得る技術であるといえます。これまでは模擬汚染土壌を用いて検討を進めてきましたが、今後は、放射性セシウムを含む実際の汚染廃棄物や除去土壌を用いて研究を行います。実験中に放射性セシウムが炉外に漏えいしないように、小型回転式電気炉を密閉式とし、排気ガスをHEPAフィルタに通過させ、さらに水洗し、確実に放射性セシウムが除去されることを確認します。また小型回転式電気炉全体をフードで覆う等、多重の拡散防止を施した上で慎重に研究を進めていきます。1回の実験で生成する濃縮物は1g未満の少量ですが、専用の保管庫に管理した状態で保管し、安全性を確保します。この研究を通じて減容化技術を確立し、汚染廃棄物や除去土壌の処理を促進するとともに、中間貯蔵施設等の適正な管理に活かしていきます。

(いしもり ひろゆき、福島支部 汚染廃棄物管理研究室 研究員)

執筆者プロフィール:

執筆者写真 石森 洋行

福島県に住み始めて1年になります。冬の生活は部屋がとても寒く水道管が凍りついたりと大変ですが、春は桜、夏は広い青空、秋は紅葉、冬は雪景色など四季の変化を強く感じられます。自然が豊かで、癒されながらのんびりと福島ライフを楽しんでいます。