ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2017年8月31日

マルチスケールGHG変動評価システム構築と緩和策評価に関する研究

特集  マルチスケール温室効果ガス観測
【シリーズ研究プログラムの紹介:「低炭素研究プログラム」から】

町田 敏暢

 低炭素研究プログラムのプロジェクト1(PJ1)「マルチスケールGHG変動評価システム構築と緩和策評価に関する研究」(プロジェクトリーダー:向井人史)は、気候変動影響を考慮した全球スケールから都市や国、地域スケールまでをカバーするマルチスケールでの温室効果ガス(GHG)変動を評価する観測プラットフォームを整備することにより、GHGの収支や濃度トレンドの現状の評価を行うばかりでなく地域的な適応・緩和策の効果を検証するなど、低炭素社会実現のための自然科学的側面を研究することを目的としています。PJ1は3つのサブテーマで構成されており、マルチスケールの濃度観測を行うサブテーマ1(サブテーマリーダー:町田敏暢)、GHGの収支(フラックス)評価を行うサブテーマ2(サブテーマリーダー:三枝信子)、緩和策評価を行うサブテーマ3(サブテーマリーダー:伊藤昭彦)がそれぞれ連携しながら研究を進めることになっています。

 サブテーマ1では、国際的研究協力によるアジア‐太平洋地域GHG観測ネットワークを構築します(図1)。地上や山岳ステーション、太平洋上の船舶観測、民間航空機やチャーター航空機を用いた大気の3次元観測の拡大、GOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite)やGOSAT-2などの衛星観測等を活用し、グローバルからローカルまでをカバーするマルチスケールでのGHG変動監視システムを開発します。

図1 アジア-太平洋地域GHG観測ネットワーク

 地上観測は国内の沖縄県波照間島、北海道落石岬の2大拠点に加えて、世界の中でも観測数の希薄なアジア域に焦点を当てて、中国、インド、バングラデシュ、マレーシア、インドネシアでのデータを充実させる予定です(インド、バングラデシュについては研究調査日誌参照)。特に2016年度はインドネシアのボゴール、スルポン、チブルムの3地点に相次いでGHGおよび大気汚染物質の観測システムを設置し、観測を開始することができました。一方バックグラウンド大気を監視できるハワイのマウナロア観測所では米国大気海洋庁(NOAA)と大気の同時サンプリングを実施しており、世界気象機関(WMO)基準の観測値との比較を通した長期的な測定品質の維持という重要な役割も担っています。シベリアのタワーを使った観測ネットワーク(JR-STATIONプロジェクト)はチャーター航空機を使った二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4:本号の環境問題基礎知識参照)などの鉛直分布観測とともにシベリアの広大な森林や湿地の影響やその長期変動を知る貴重なデータを提供しています。日本の最高峰である富士山頂(標高3776m)では大量のバッテリーを使うことによって電源供給が夏季に限られる厳しい環境条件下でCO2濃度の通年観測を2009年に開始しました。富士山頂のCO2濃度は同様の高度を飛ぶ航空機の観測結果と非常に良く一致しており、地表面にありながら自由対流圏のデータを連続して取得できていることになります。最後に紹介する地上観測点は日本の首都、東京です。これまでGHGの観測は人間活動の影響の少ない地点が選ばれてきましたが、大都市での炭素排出量推定を行うために敢えて積極的に東京都内での観測を行うことになりました。大都市東京でできるだけ空間代表性のある大気を捉えるために、東京スカイツリーの中腹に観測装置を設置しました。観測は2016年3月に始まり、すでに1年以上のデータが蓄積されています。

 船舶観測は南北分布を捉えるための日本-オーストラリア・ニュージーランド航路、太平洋の東西分布や北太平洋の観測を行う日本-北米航路、さらに経済発展が著しいアジアからの人為汚染や森林火災の影響を監視するアジア航路といった3つの特徴を持った定期船舶航路において航行中に大気中のGHG観測を実施しています。アジア路線では船舶の航路替えによってこの地域での観測が1年間以上中断していましたが、船舶会社の協力によりアジア航路に投入する新造船上に観測室を設置できることになり、2018年3月の観測再開を目指しています。

 上空の観測では民間航空機を使ったCONTRAILプロジェクトによって広範囲でのCO2濃度データを取り続けていますが、2017年にはタイのバンコク路線に大気サンプリング装置を搭載して、CO2以外のGHGの鉛直分布データを取得して森林火災や人間活動による放出量推定に貢献する予定です。

 以上のようなマルチスケールでのGHG変動監視システムによって得られたデータはGOSATやGOSAT-2の観測データとも合わせて大気輸送モデルや生態系プロセスモデル等を用いて特に陸上におけるGHGフラックスの推定を高分解能化するとともに、フラックス変動の大きな地域などを抽出、検出して緩和・適応策への貢献も行う予定です。

 サブテーマ2では、陸域の生態系プロセス観測や海洋の溶存CO2(pCO2)観測をベースとしたフラックス推定をスケールアップするボトムアップ法を用いて、地域的人為起源発生量推定、自然のフラックス変動を解析します。具体的には、陸域生態系や海洋表層における二酸化炭素の濃度、分圧、およびその地表フラックスに関する長期観測を実施し、アジア太平洋を中心とした広域観測網の構築や国際共同観測等に貢献します。

 陸域のフラックス観測では特に森林土壌を対象として、気候の将来予測に大きな不確実性を与えている土壌呼吸の温暖化影響を明らかにするため、大型マルチ自動開閉チャンバーシステムを用いた土壌加温実験を行い、地域別に土壌呼吸の温度依存性を明らかにします。詳細は本号の研究ノートを参照ください。

 海洋のフラックスについてはサブテーマ1で紹介した定期船舶航路や国際データベースから取得した観測データを基に、海水温や塩分濃度などのパラメータとの相関関係からpCO2分布を推定するニューラルネットワーク手法を用いて太平洋のpCO2時空間分布を再現し、その変動要因を明らかにします。

 さらにサブテーマ2でボトムアップ法によって推定された炭素フラックスとサブテーマ1の大気観測によるCO2濃度の分布や時間変動を再現するように推定(トップダウン法)したフラックスを地域別に比較して、それぞれの推定法の改善に結びつけるための解析が現在急速に進んでいます。特にアジア域では森林の耕地化などによる土地利用変化に伴うフラックスを考慮に入れることで、トップダウン法とボトムアップ法の一致度が大きく改善されることがわかってきました。

 サブテーマ3では、全球・国レベルから都市、森林単位で実施される人為起源のGHG発生の緩和策の実効性をマルチスケール的、時系列的に検証します。これら各スケールレベルで緩和策や気候変動影響評価を行うことで、低炭素社会への道筋の進行状況を評価します。

 具体的には、GHG排出削減による緩和策の実効性を、都市/森林-国地域-全球のマルチスケールで時系列的に検証するための研究を実施します。REDD(途上国における森林減少・劣化からのGHG排出削減)などの緩和策に関する観測データを収集解析するとともに、それを定量化可能なモデルを開発して広域評価を行います。また、各スケールでの排出インベントリを収集し、パリ協定で提示されたINDC(各国が自主的に決める温暖化対策に関する目標)と比較することにより各国の緩和策実施状況、そして低炭素社会への道筋の進行状況を評価します。

 サブテーマ3は他のサブテーマやプロジェクトとの連携が強いことが特徴として上げられます。サブテーマ1のトップダウン法によるフラックス推定に対して、全球スケールでは大気・海洋・陸域のGHG収支に関するモデルベースの評価やモデル相互比較に貢献することができますし、地域スケールではGHG収支と緩和策の実効性評価で深く関わることが期待されます。サブテーマ2のフラックス観測に対しては、土地利用タイプにおけるGHG収支観測と比較解析や土地利用に伴うフラックスの変化に関する解析を共同で行う予定です。また低炭素プログラムのPJ2の気候変動による影響評価モデルの検証やモデル相互比較においては全球スケールや観測サイトスケールでの本サブテーマでの影響評価が直接的に貢献できると期待できますし、地域スケールでの緩和策の実効性評価はPJ3の土地利用シナリオや緩和目標に深く関わることになります。

 以上のようにPJ1の研究は自然科学的な観測を通して、気候変動の進行状況、緩和策の進行状況などを把握することにより、将来の気候変動対策の強化などへの提言に役立てることを目指しています。特に、急成長するアジア地域の緩和策の状況把握、気候変動に強く応答するシベリア域、熱帯域などの情報の把握、これまでに検出されていなかった気候変動による大きな自然変動が引き起こすかもしれない炭素循環等の変化を監視していくことにより、より安全な低炭素社会構築へ寄与することが期待されています。また、原発の廃炉に伴う火力発電の増加、バイオ燃料栽培の拡大などのエネルギー転換により引き起こされる新たな環境問題などに対しても注意を払っていくつもりです。

(まちだ としのぶ、地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室長)

執筆者プロフィール

著者近影

捕手から2塁への送球は長年の課題ですが、去年より届くようになったと感じています。52歳になってもまだ上達できると思っています。日曜大工が趣味になりました。サンルームの床を自分で張ったのですが、無垢のヒノキの床に頬ずりしながらの日なたぼっこは最高です。

関連新着情報

関連記事

関連研究報告書