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2019年2月28日

健康を取り巻く環境の変化から化学物質の問題を考える

特集 化学物質が小児・将来世代に与える健康影響の評価とメカニズムの解析

小池 英子

 私達を取り巻く環境は、健康に様々な影響をもたらしています。世界保健機関(WHO)が2016年に発表したPreventing disease through healthy environments : a global assessment of the burden of disease from environmental risks(健康的な環境による疾患の予防:環境リスクによる疾病負担の世界的評価)では、世界における全死亡の23%は環境に起因すること、また、大気・水・土壌汚染、化学物質、気候変動、紫外線等の環境要因が100以上の疾病に関係していることが示されています。具体的には、室内空気汚染や大気汚染、受動喫煙と呼吸器感染や喘息との関連性、化学物質と神経障害との関連性などが挙げられています。すなわち、環境を改善することで健康リスクを低減できることが示唆されています。

 健康リスクの観点から、環境問題の歴史を見てみると、国内では1950~1960年代にかけて、いわゆる4大公害(水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)をはじめ、全国各地で深刻な公害問題が発生しました。このような状況を受け、1970年代にかけて、公害対策に関する法律が整備され、対策が進められました。その後、1990年代には、ダイオキシンの問題から化学物質の環境ホルモン作用(内分泌かく乱)が指摘され、小児・次世代への影響や超微量成分の健康影響に関心が持たれるようになりました。歴史的な公害は、局所的かつ特定の原因物質による高濃度汚染であり、現在も一部課題が残されているものの、甚大な環境汚染の多くは規制により解消されてきました。しかし、近年新たな問題として、地球規模の環境変化や越境汚染、年々増加する多種多様な化学物質の開発・使用に起因する影響が注目されています。

 ここで、現代の生活環境中に存在する化学物質について考えてみたいと思います。屋外では、黄砂に付着した汚染物質や自動車・工場からの排気(PM2.5などの粒子状物質やガス状の大気汚染物質)、工場や家庭からの排水、廃棄物の保管・処理・リサイクル過程で放出される化学物質などがあり、これらは、空気・水・土壌・動植物を介してヒトへ移行します。屋内では、建材や家具などに使用される塗料や接着剤;食品に含まれる添加物や農薬;食品容器中の可塑剤;殺虫剤;燃焼器具や喫煙による粒子状物質や酸化化合物;家電、電子機器に使用されている難燃剤などが挙げられます。これらは、製品から空気中への放出またはハウスダストへの付着を介してヒトへ移行します。このように、私たちは呼吸や食事、接触などにより化学物質に日々曝露されているわけです。

 近年、生活習慣病やがん、アレルギー疾患、精神・神経疾患などが増加していますが、健康にみられるこれらの変化には、ライフスタイルや化学物質曝露の問題を含めた環境要因の複合的な影響が関与していると考えられます。化学物質が私達の生活を豊かにしているのも事実ですが、その一方でリスクも存在します。特に、環境要因に対して脆弱な妊娠期や有病者、小児、高齢者においては、低濃度でも健康障害を引き起こすおそれがあります。また、内分泌かく乱作用を示す化学物質は、単純な量-反応関係で毒性を測ることができません。以上のことから、感受性や低用量曝露影響も勘案した健康リスク評価が求められています。

 本特集の「研究プログラムの紹介」では、化学物質の健康リスクの課題に実験的アプローチで挑戦する「化学物質の小児・将来世代に与える健康影響評価研究プロジェクト」の概要とそれを構成する3つのサブテーマについて紹介します。そして「研究ノート」では、本プロジェクトで現在進行中の研究について、サブテーマ2から「環境化学物質曝露と行動の発達」、サブテーマ3から「妊娠期ヒ素曝露が次世代および生殖細胞に及ぼす影響の解析」に関する成果を紹介します。さらに、「環境問題基礎知識」では、サブテーマ1で取り組んでいる低用量曝露影響の問題について、「健康影響評価における化学物質の低用量曝露の重要性」を解説するとともに、研究成果の一例も紹介します。

 本稿を通して、私達を取り巻く生活環境中にはいかに様々な化学物質が存在しているか、また健康との関わりについて理解を深めていただき、化学物質の問題について考える機会になれば幸いです。

(こいけ えいこ、環境リスク・健康研究センター 病態分子解析研究室 室長)

執筆者プロフィール

筆者の小池英子の顔写真

最近、自身の「健康」についても考えさせられることが多くなりました。楽しみである食事は制限したくないので、運動を日課にと思ってはいるものの、なかなか難しく、通っているホットヨガのチケット消化に日々追われています。

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