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2019年10月28日

電気電子機器の適切な再資源化にむけて:
国内の家電リサイクル施設の調査結果から考える

特集 資源循環における随伴物質の環境影響評価と適正管理
【研究プログラムの紹介:「資源循環研究プログラム」から】

鈴木 剛

増えていく電気電子機器とその行方

 2017年に国連大学がとりまとめた報告書では、スマートフォンやパソコンなどの普及に伴い、同年までに世界人口の半数がモバイルネットワークを利用する状況になり、その廃棄物の発生量も増加することが指摘されています。機能やデザインを求めて新しい電気電子機器を購入するため、使用できるものも処分されていると考えられ、冷蔵庫や洗濯機、テレビ、エアコンなどの電気電子機器も加えると、廃棄物の発生量は膨大で、2016年には世界で年間4,470万トンと試算されています。これはパリ・エッフェル塔4,500基分(東京スカイツリー124基分!)の重量に相当します。一人あたりでは年間6.1kgで、これは日本でよく売れているスマートフォン30~60個分の重量です。

 捨ててしまえばただのごみですが、金、銀、パラジウム、鉄、銅、アルミニウムや再生利用可能なプラスチックなどの有価物を高濃度に含む電気電子機器は、適切に処理すれば有用な資源です。一方で、有害性を示す或いは毒性不明の製品由来化学物質が含まれることがあり、長期間の屋外保管、作業時に発生する粉じんの飛散、粉じんを含む廃水の未処理排出、処理残渣の投棄など、不適切に再資源化・廃棄されているとすれば、人の健康影響や環境汚染を生じる可能性があります。世界で発生している電気電子機器廃棄物の80%(3,580万トン)は行方がわからず、その大半は不適切な方法で処理されているのが現状です。

 資源循環研究プログラムでは、日本や経済発展の著しい東南アジアのフィールドにおいて電気電子機器廃棄物の再資源化の実態を調査し、製品由来化学物質の人への曝露の程度や健康影響の可能性、環境排出のメカニズムや制御を目的とした、適切な再資源化に資する調査研究に取り組んでいます。ここでは、国内での事例を紹介します。

国内での電気電子機器の再資源化に伴う製品由来化学物質の排出実態を調査する

 国内では、特定家庭用機器再商品化法(1998年制定)、いわゆる家電リサイクル法のもと、テレビ、家庭用エアコン、電気冷蔵庫・電気冷凍庫、電気洗濯機・衣類乾燥機の家電4品目が収集され、全国に47施設ある家電リサイクル施設(2018年7月1日現在)で再資源化(再商品化)されています。私たちは、10カ所の家電リサイクル施設の協力を得て、製品由来化学物質として臭素化ダイオキシン類や難燃剤の排出と管理の実態を調査しました。(一財)家電製品協会の家電リサイクル年次報告書 平成29年度版によると、全国の再商品化等処理重量(2016年実績)は46万トンと報告されています。調査対象10施設の再商品化等処理重量(2016 年実績)は20万トンで全国の4割を占めています。本調査では、2017年12月から2018年1月にかけて、電気電子機器廃棄物の処理方法や内容を把握するためのヒアリング調査と、製品由来化学物質の人への曝露や環境排出を評価するための測定評価を行いました。

 ヒアリング調査では、各施設の処理方法や処理状況を把握し、各施設で行われている一般的な処理とそれにより生じる製品由来化学物質を含むダストやプラスチックのフローを、現場の担当者と意見交換しながら図1のようにまとめました。電気電子機器は、施設に搬入されると敷地内で保管され(写真1)、その多くは平均10日以内に人の手で素材別に分解されます。手解体時には、ダストやプラスチックを含む粉じんが発生するため、全施設でマスクや手袋などの曝露対策と集じん機などによる環境排出対策が行われていました(写真2)。手解体で大別された部材は、破砕時に発生するダストの環境排出を防ぐようにした区域で素材別に破砕処理が行われています(写真3)。素材分離工程では、有価性を高めるために、風力選別、磁力選別、比重選別などの方法がとられ、製品由来化学物質の環境排出を抑えるためには水を使用する比重選別で生じる廃水の回収と適正処理も重要であることがわかりました(写真4)。これらの処理を経て、電気電子機器は、鉄や銅などの金属やプラスチックといった再資源化商品として生まれ変わり、国内外で販売されています。

家電リサイクル施設の写真
写真 家電リサイクル施設で行われている電気電子機器の再資源化風景
(1)解体処理を待つ電気電子機器廃棄物、(2)粉じん対策をしながらの手解体、 (3)部材別の機械破砕、(4)素材分離工程で生じる廃水の回収

 そこで私たちは、図1のフローにもとづいて、作業者への曝露の観点から手解体で生じるダストやプラスチックを含む粉じんを(以下、作業環境試料)、施設からの環境排出の観点から素材分離工程で生じる廃水とその処理後排水や施設総合排水を(以下、排水関連試料)、それぞれ施設操業時に採取して、臭素化ダイオキシン類や難燃剤などの関連物質を分析しました。臭素化ダイオキシン類は、電気電子機器に使用される臭素系難燃剤デカブロモジフェニルエーテル(DecaBDE)に不純物として含まれることが知られており、ダイオキシン類と同様の毒性や性質を示す物質(類縁化合物)としてリスクを管理することが世界保健機関や国連環境計画の専門家会合によって推奨されています。国内では、環境省による排出実態や対策技術に関する調査が行われており、本調査は環境省と連携して行われました。

 作業環境試料では、21試料のうち3試料で、臭素化ダイオキシン類の測定値がダイオキシン類の作業環境基準(2.5pg WHO-TEQ/m³)に相当する値を2倍程度超過していました。今回の調査結果(2017年度)は、環境省による調査結果と比較すると、2002年度よりも低く、2011年度と同程度以下でした。排水関連試料では、処理後排水と施設総合排水12試料のうち1試料で、臭素化ダイオキシン類の測定値がダイオキシン類の排出基準(10pg WHO-TEQ/L)に相当する値を7倍程度超過していました。今回の調査結果(2017年度)は、環境省による調査結果(2002年度と2011年度)と比較して、低くなっていることがわかりました。さらに、作業環境試料と排水関連試料共に、臭素化ダイオキシン類の濃度は、DecaBDEの濃度が高いと高くなっていました。

 国内のDecaBDEの需要は、2002年度に年間2,200トン、2011年度に990トン、2017年度に100トンと減少し、国内製造・販売は2017年3月に終了しています(DecaBDEは、2017年5月に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約で使用・製造が禁止されています。)。今後、DecaBDEを含む電気電子機器廃棄物は減っていき、家電リサイクル施設からの臭素化ダイオキシン類の排出は減少すると考えられます。今回の調査では、作業環境や排水について、ろ紙上残留物とろ紙を通過した媒体(作業環境試料はポリウレタンフォームで捕集して回収、排水関連試料はろ液として回収)に分けて臭素化ダイオキシン類と類縁化合物を評価しました。両者ともにおおよそ9割程度がろ紙上残留物で検出されています。作業環境や排水に含まれるろ紙上に捕集されるダストや懸濁態の除去は、これら有害な製品由来化学物質の除去に有効といえます。

電気電子機器の健全な再資源化にむけて

 今回の調査結果にもとづくと、保管中に廃棄物から内部ダストが散逸する量をできるだけ減らすために速やかに処理すること、手解体や破砕で発生する粉じんや素材分離で生じる廃水を適切に収集・処理すること、排水ピットを設置して施設外に出る排水に含まれる懸濁態を沈殿回収・処理することなどが、臭素化ダイオキシン類などの製品由来化学物質に着目した場合、電気電子機器の適切な再資源化にむけての要点であると整理できます。これらの要点を踏まえて、引き続き複合素材製品の再資源化を対象とした調査研究の実施と利害関係者との情報共有に取り組んでいきたいと思います。

家電リサイクル施設の図
図1 家電リサイクル施設で行われている電気電子機器の一般的な処理とそれにより生じる ダストやプラスチックのフロー

(すずき ごう、資源循環・廃棄物研究センター基盤技術・物質管理研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

筆者の鈴木剛の写真

北は関東、南は九州まで、国内の家電リサイクル施設を行脚しました。施設の管理・現場担当者の再資源化への独自の取り組みや工夫、悩みを伺うことができました。得られた結果に真摯に向き合い、現場に反映していく様子に触れ、背筋が伸びる思いです。