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2020年12月28日

自然共生社会構築に向けた統合的取り組み

特集 自然共生社会構築 生物多様性の危機に対処する

山野 博哉

 現代は第6の大量絶滅時代と呼ばれています。この5億年間で、地球上の生き物は5度の大量絶滅を経験しました。例えば、6500万年前に隕石が地球に衝突し、地球が寒冷化して恐竜が絶滅したと考えられています。一方で、現在起こっていると考えられている大量絶滅は、こうしたいわば自然に発生したことが原因となっているのではなく、我々人間が引き起こしているものです。人間は気候変動を引き起こすだけでなく、生き物の生息地を破壊したり、生き物を乱獲したり、環境を汚染したり、外来種を持ち込んだりしており、これらすべてが生物多様性に影響を与えています。自然と人間との調和が失われている状態が続いているのです。

 調和が失われると、われわれ人間に返ってきます。その象徴的な出来事が、現在も続く新型コロナウィルスの感染拡大ではないかと思います。新型コロナウィルスに限らず、近年、感染症が大きな社会問題として取り上げられることが増えてきました。鳥インフルエンザ、エボラ出血熱といった感染症を耳にされた方も多いと思います。これらに共通するのは、野生生物に由来する人獣共通感染症であることで、新型コロナウィルスに関しても、コウモリが宿主である可能性が高いと考えられています。この感染症拡大は、気候変動による生物分布変化、生息地破壊による野生生物との接触、グローバル化による人やモノの移動による侵入、人口減少による管理不足による拡大など様々な要因が絡まって引き起こされていると考えられます。感染症に限らず、生物多様性の保全と持続的利用には統合的な取り組みと自然共生を志向した社会変革が必要とされています。

 本特集では、生物多様性の危機に対処するさまざまな統合的な取り組みをご紹介します。「研究プログラムの紹介」では、生物多様性の保全をバランス良く行うための保護区選択の手法を紹介し、「環境問題基礎知識」では新たな保護区の可能性を示すOther effective area-based conservation measures(OECMs)について解説します。「研究ノート」では生態系の持続性評価に関して、小笠原を対象とした物質循環と生物間の相互作用の統合モデル研究を、「調査研究日誌」では気候変動への適応に関して、気候変動影響の検出と予測、そしてそれらに基づく適応策立案までを統合した視点に基づいたフィールド研究を進めていることをご紹介します。また、こうした研究活動を支える実験圃場(生態系研究フィールド)に関して「研究施設・業務等の紹介」でご紹介します。新型コロナウィルス感染拡大は研究環境にも影響を与えており、行動が制限される中で在外研究を行っている研究者の日常を「随想」でご紹介します。

 新型コロナウィルスの感染拡大が起こり、収束が見えない状況は、自然共生社会構築の困難さを端的に物語っています。気候変動と同様に、自然共生社会構築は国内外にまたがる大きな課題で、長期的に取り組まなければならないことを痛感しています。我々の成果が社会変革をもたらし、自然共生社会構築へとつながるよう、努力を続けていきたいと考えています。

(やまの ひろや、生物・生態系環境研究センター センター長)

執筆者プロフィール:

筆者の山野 博哉の写真

今年の夏は、座礁船からの重油流出対応でモーリシャスに派遣され、事前に所内外の専門家の方々にご意見をうかがい、現地では実態調査を行って結果を現地政府にお伝えして今後の保全や再生に向けた統合計画を作るという慌ただしい日々を過ごしました。生物多様性の危機は突発的にも起こり、統合的な視点を常にもって対処する必要があるということを改めて認識するできごとでした。

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