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成層圏オゾン層等観測衛星センサー -ILAS-

経常研究の紹介

鈴本 睦

 1995年に宇宙開発事業団が打上げる地球観測衛星(ADEOS)に環境庁提案の改良型地球周縁大気分光計(ILAS,Improved Limb Atmospheric Spectrometer)の搭載が89年9月に正式決定された。ILASは太陽光の大気周縁方向の吸収スペクトルを測定し(図1参照),計算により微量濃度分布を求める。ILASは文部省宇宙研がEXOS-Cに搭載したLASを改良したものであり,太陽追尾反射鏡,望遠鏡,回折格子分光器から構成される。このセンサーは成層圏オゾン層等の監視・研究を目的として環境庁が製作するもので,概念設計に宇宙研・国公研が協力し,解析手法研究と観測データ解析を国公研が中心となり行う予定である。

図1 ILAS観測

 オゾンホールは,地球環境の脆弱さとそれに対するわれわれの知識・理解の不足を知らしてくれた。この解明に人工衛星が果たした役割は大きく,継続的な衛星地球観測の国際協力体制が構築されつつある。ADEOSには宇宙開発事業団・通産省・環境庁の他,TOMS等諸外国の3センサーも搭載される。衛星大気観測は各種手法で長期間行われているが,1995-98年はNASA衛星の空白期でありADEOS搭載機器に対する期待は国際的にも高まりつつある。ILASはオゾン層の高精度長期観測とオゾンホール研究を主目的としている。センサーの使用案(表)は1985年のWMOの勧告を踏まえ,以下の点を考慮して決められた。(1)高度分解能を得るため周縁方向測定(2km分解能)(2)赤外大気吸収によるオゾン,硝酸,水蒸気,エアロゾルの同時観測(3)常温動作検出器を用いた長期観測(3年以上5年程度)(4)1%オゾン目標濃度精度(5)可視バンドによる大気温度・密度測定

表 ILAS仕様案

 赤外吸収による微量成分のモニタリングや可視バンドでの大気温度・密度測定は例が無く,NASA側の手法との比較が興味を持たれている。

 赤外線領域は多くの微量成分情報を含み分光分解能と波長帯選択は重要で,そのためには透過光量・成分間干渉・連続吸収帯・線幅・吸収の非線形性・大気屈折・散乱等を考慮する必要がある。大気光学プログラムFASCODEを使いILAS出力を評価した結果(図2),現仕様で光学的厚さ(濃度・吸光係数)をオゾンについて1%,その他について<10%精度で解析できる見込みである。しかし長光路の吸光係数決定は困難であり最終的な濃度誤差もそれに支配される。現在,赤外領域のバンド吸収係数の誤差は10%程度とされており,この問題はデータベース値の評価・室内実験・打ち上げ前後の気球実験などで解決される必要がある。

図2 ILAS模擬信号(接続高度30km)

 ILASプロジェクトは,機器製作,解析手法と観測結果の研究等に多くの研究課題を残している。90年代に日本が地球環境研究に貢献する重要な機会の1つとして,これを機会に広い範囲の参加と支援を呼びかけたい。

(すずき まこと,大気環境部高層大気研究室)