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「環境リスク評価分野」の発足に当たって

論評

三浦 卓

 地域環境総合研究部門の中の環境リスク評価を対象とする分野は,特別研究として継続中のテ−マをもつ5つのグル−プと実験動物開発などのプロジェクトより構成されている。その内容は,健康リスク評価と自然生態系リスク評価とに大別でき,現存あるいは将来予想される環境汚染の有害性を明かにし暴露量を推定してリスクの判定を行い,人の健康や自然生態系への悪影響を予防することを目的としている。前者としては大気汚染物質,人工化学物質や都市型ストレスによる健康リスクの評価,後者としては化学物質による生態系リスクの評価,遺伝子工学によって作り出される組換え体の影響評価というように内容は多様であり,よって立つ学問基盤も広い。しかし,一応現在予想される環境リスクについて,大枠としての対応を可能とさせる体制となっている。

 環境リスク評価の場合,必ずしも現在すでに十分体系化されてるとはいえない分野であり,影響評価手法を開発しつつリスクを評価する体系を組み立てることが当面必要である。また同時に現在の環境汚染をどこまで改善すべきかまた将来の環境汚染をどのように予防すべきかという問題解決のプロジェクトに対して一つの指針を打ち出すことを目指している。

 環境リスク評価の基盤となる学問分野は広く,既存の個別学問体系を中心に研究運営を行うことは困難であり,適切でない。。また,グル−プは,総合研究官をリ−ダ−として構成員を中心に,プロジェクト遂行上必要な研究者に準構成員として参加してもらい運営されている。この組織は,プロジェクトの進行につれ数年で変わっていくという柔軟性をもち固定化を排除している。このことが逆に恒常性に欠け研究組織としてのもろさをもたらす恐れをはらんでいる。

 環境リスク評価は,我が国においてはまだ十分には定着していない研究分野であり,参加を躊躇する研究者が多かったのも事実である。研究者は本質的に自由な研究を望むのであろうが,研究者としての成長段階の或る時期に明確な目的意識をもち研究を行うことも,貴重な体験となるのではなかろうか。しかし,一方では研究者が一定期間参加した後にプロジェクト研究の中から発見した新しい研究の芽を育てるための基礎的,独創的研究を行えるようにすることが重要である。

 研究運営の第一の目標が,プロジェクトの目的をいかに効率よく達成するかであることは疑問の余地がない。将来は,各グル−プ間の相互協力ができたらとも願望している。環境リスク評価のように最先端の影響評価手法を開発しつつ体系化していかなければならない分野では,研究内容としても最先端のものとなる可能性がいたるところに潜んでいるように思われる。またそのような方向にプロジェクト参加者が向かわれることを願望している。

 現在の所,研究運営方針については企画の段階であるが,今後プロジェクト内で十分に話し合って環境リスク評価全体の中でのそれぞれの位置づけをはっきりさせて研究の方向付けを明確にしていきたいと思う。いずれにせよ,プロジェクトに参加した人が,参加してよかったという状況を一つでも作り出せるような研究環境と条件づくりに向けて努力していきたいと考えている。

(みうら たかし,地域環境研究グル−プ上席研究官)