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基盤研究部門としての大気圏環境部

論評

鷲田 伸明

 大気圏環境部は大気物理研究室,大気反応研究室,高層大気研究室,大気動態研究室の4室で構成される。旧大気環境部の歴史を引きずった型で,物理系2室(大気物理,高層大気)と化学系2室(大気反応,大気動態)でスタートする。物理系の2室は主に流体力学を基礎とした大気運動と電磁気学や熱力学を基礎とした電磁波の放射伝達の研究が柱となり,化学系の2室は気相の化学反応論を基礎とした大気圏での物質の反応と,分光,化学分析を基礎とした大気中の成分の循環に関する研究が柱となる。スタート時点においては物理系,化学系と分れているが,将来は研究の方向や必要に応じて物理とか化学とかにこだわらず,室員の構成がなされることが理想である。

 基盤研究部門としての大気圏環境部の役割は,大きく分けると2つある。

 第一は基盤研究部門として特色ある基礎研究の推進である。その内容としては,(1)将来,プロジェクト研究のテーマとなる,または重要な部分となる基礎的研究:基盤部門の研究員は将来総合部門において,プロジェクトを支えていかなければならないであろうから,この様な研究が基盤研究部門の核とならねばならない。(2)自由な発想と遊びの要素を持った研究:とかく陥ち入りがちな国立試験研究機関の灰色イメージを払拭するためにも自ら楽しみ,かつ他人も楽しませることができる研究(そこに大きな独創性があれば理想的であるが)が必要であろう。特に世の若い研究者や学生に魅力的で,夢を与えられる研究が行われていなければ研究所の将来が危惧されることになるのだから。(3)将来につながる学習的要素をもった研究:基盤研究部門は新しく入所した若い研究員が,ある一定期間基礎的研究の鍛練を経て一人立ちしていく場でもあるから,この様な研究は基盤には必要であろう。

 第二は総合研究部門や地球環境センターへの研究協力である。特に地球環境グループの温暖化,オゾン層,酸性雨のサブグループの研究の実行部隊として果たすべき役割は非常に大きく,基盤研究部門の研究協力がうまく行われるかどうかが上記の3つのプロジェクト研究の成功の重要なファクターとなるであろう。その意味で,基盤研究部門の研究員一人一人は,自らがどのような形でプロジェクトに係わり,貢献していくかを考え,積極果敢にプロジェクトに挑戦して欲しい。

 基盤研究部門の研究員は上記の2つの役割を一人一人がバランスよくこなしていくことが理想である。2つのことをこなすのであるから努力は当然必要である。環境研究のように多様性に富んだ対象を相手に研究するには,個人々々が構えの大きい研究者として自立していかなければならない。例えば,ある意味で研究所の使命をまともに背負っている総合部門のプロジェクトの推移などに対しても盲目にならないように。私がプロジェクトに係わってきた経験からいっても,現在,プロジェクトのテーマの推移は非常に速い。研究の進行より速い場合が多い。いずれにせよ国立環境研究所が使命を持った研究所であるという現実からは誰も逃避できないのだから,一人一人がいつでもプロジェクトの最前線で活躍できるための心構えをしておかなければならない。使命を持った研究所に基盤研究部門があるということは重要なことである。その存在を有意義にするためにも一人一人が努力して欲しい。

 最後に,基盤研究部門は総合研究部門で活躍している研究員の本籍でもある。従って総合研究部門の研究員には基盤研究部門を育てるための温かい援助をお願いしたい。

(わしだ のぶあき,大気圏環境部長)