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地球環境問題への取り組み−国立環境研究所の課題−

巻頭言

副所長 市川 惇信

いちかわあつのぶの写真

 新体制の目的と意義や、それへの期待と抱負は前号のニュース(9巻3号)に特集されている。屋上屋を積む必要はない。取り込んだものの意味を考えてみたい。

 世は地球環境時代であり、国際的・国内的に研究推進の施策がとられつつある。地球環境研究と自然環境研究への展開の体制をとった本研究所には順風満帆の情勢といえる。しかし、ローマ、ベネチアの歴史に学ぶまでもなく、繁栄の原因はそのまま衰退の原因であり得る。あらためて、本研究所の存在意義を考える必要がある。

 地球環境は壮大な研究対象であり、人類の持つ研究能力のほとんどすべてを動員する。我が国においても、大学・国公私立研究所がその研究資源を地球環境研究の個別テーマに向けたとき、その層の厚さはかなりのものとなる。もし、本研究所が地球環境研究の全側面に薄く展開したとすれば、層の厚さは比肩すべくもない。量がすべてではない。しかし重要なファクターである。本研究所が果たすべき最大の貢献はどこにあるのか?

 地球環境問題は研究課題であると同時に政策課題である。研究成果が政策オプションの基盤を与えるという意味で両者は密接に結び付いてはいる。しかし、政治行政のスピードは早い。学術的解明以前に「疑わしきものに対処」してとられた政策的措置が見かけ上成功したとき、その後の学術的解明はどのように進められるのであろうか。学術的解明への資源投入は? 研究者のモラルは?

 地球環境研究は、現在「見えている」課題について、研究プログラムに従って強力に推進されようとしている。これらの課題の多くは20年前には「見えていない」状態にあった。同様に現在「見えていない」が本質的な多くの課題があるに相違ない。これらの課題を先導的に見いだす研究、あるいはその基礎となる長期的永続的な活動をどうしておけばよいか。

 以上の諸問題に納得できる回答を見いだすことが我々に課せられた当面の課題であろう。

(いちかわ あつのぶ)